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冤罪における再審請求と証拠開示および国際人権(自由権)規約の実施状況に関する質問主意書
衆議院 第143回 第31号個別の事案 ×6
質問本文
冤罪における再審請求と証拠開示および国際人権(自由権)規約の実施状況に関する質問主意書
わが国は、国際人権(自由権)規約を一九七九年に批准し、司法制度の整備に努めてきたはずである。しかしながら、国連・国際人権(自由権)規約委員会は日本政府に対して、「弁護人が警察記録にある関係資料にアクセスする権利を有していない」ことに懸念を表明し、「防御のための十分な便益」の保障を求めていることに対して政府の動きははなはだ鈍い。
本年十月、ジュネーブ国連代表部での国際人権規約委員会開催を念頭にして、証拠開示の実態について、質問するものである。
一 国連の国際人権(自由権)規約委員会の証拠開示を受ける機会の保障についての勧告
一九九三年一一月に、国際人権(自由権)規約委員会が、国際人権(自由権)規約にもとづく日本政府の第3回報告書を審査し、コメントを発表している。日本政府にたいしての主要な懸念事項として、「弁護人は、弁護の準備を可能とする警察記録にあるすべての関係資料にアクセスする権利を有していない」と指摘し、さらに「弁護準備のための便宜に関するすべての保障が、遵守されなければならない」と勧告している。国連の国際人権(自由権)規約委員会のこの勧告は証拠開示を受ける機会の保障についての措置をとることをうながしているが、この勧告をどう受け止めているか。
二 公判準備をするために必要な証拠開示を受ける十分な機会保障と冤罪の再審請求について
(1) 昨年六月に国際人権(自由権)規約に基づく第4回定期報告書が日本政府から、国連あてに提出されている。この第4回報告書には、日本においては、「被告人および弁護人には、公判の準備をするために必要な証拠の開示を受ける十分な機会が保障されている」と書かれている。「十分な保障」とは再審請求においても、個々の弁護人から証拠開示の請求があった場合、担当の検察官がこれに応じることも含むのか。
(2) カナダでマーシャル事件という冤罪事件があった。一九七一年におきた殺人事件で、マーシャルという先住民の少年が誤って殺人犯とされ、終身刑を受けたが、十年後に真犯人が判明し、一九八二年に再審で無罪となった冤罪事件である。
この冤罪事件では、再審で無罪となっためと、一九八七年に、政府が調査のための委員会を設置した。そして、この委員会は調査の後、誤判の原因として、差別があったこと、証拠が開示されなかったことを指摘した。これを契機にして、カナダでは検察官の事前の全証拠開示を義務づける制度が確立したと言われる。日本においても、戦後、いくつかの(差別・偏見)を土台とする冤罪事件があった。それら、冤罪事件の無罪判決確定後、証拠開示制度の運用はどのように改善されたのかを明らかにされたい。
(3) 日本においても戦後大きな冤罪事件で、誤判が長期間放置された後に、再審無罪となる事件が続いた。被疑者への「差別」など、先入観が捜査・審理に影響をあたえたという指摘を被疑者弁護人から受けて、冤罪解明のために証拠開示を要請された場合、法務当局はどのような対処を行ってきたか。
(4) 日本においては、免田事件、財田川事件、松山事件など、一九八〇年代に死刑確定事件で誤判があきらかになり、再審で無罪となったケースがあいついだ。誤判によって、何十年も死刑囚として獄中に囚われていたことを考えると、きわめて重大な人権侵害と言わざるをえない。なぜ、このような誤判がおきたのか。このような誤判を繰り返さないために、どのような刑事司法改革が必要と考えているか。
(5) いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件では、いずれも、再審請求の段階で、検察庁から未提出証拠の開示がなされたと聞いているが、そのとおりか。これら三事件では、具体的に、いつどのようなかたちで、検察官手持ちの証拠の開示がなされたのか。どのようなものがどれだけ開示されたのか明らかにされたい。
(6) これまでの再審請求事件、免田事件、梅田事件では証拠リストが開示された前例があるが、今後、同様の再審請求があった場合、証拠リストの開示を行うのか。
三 狭山事件を例とする再審請求における証拠開示とプライバシーの問題について
(1) 狭山事件については、再審請求の弁護人から具体的な証拠を特定しての開示請求がされているが、未開示証拠が多数存在することを認めながら応じていないと聞いている。さきの国際人権(自由権)規約にもとづく規約委員会の勧告や日本政府の国連への第四回報告等を踏まえた対応を行うとするなら、証拠開示を避けるべきではないのではないか。
(2) 狭山事件弁護団の証拠リストの開示要求に対して、証拠リストの開示にあたっては、プライバシーに配慮しなければならないとの検察の回答があるが、この場合のプライバシーとは何を指すのか。また、これまでの冤罪事件で開示された証拠に、第三者のプライバシーを含む内容は存在しなかったのか。また、それらはなぜ開示できたのか。
(3) 「証拠開示」における、保護されるべきプライバシーの要件とはなにか。
また、プライバシー保護基準がなければ設定の用意はあるのか。
(4) これまでの再審請求等の証拠開示で関係者のプライバシーが侵害された例があるのか。あるとすれば、どのような場合か。
(5) 「関係者へのプライバシーの配慮」が、基準を持たず運用されるならば、証拠開示そのものを否定する結果を生じかねない。仮にも冤罪の可能性を推し量れば、長い年月を「犯人」として扱われてきた被疑者のプライバシーをどのように考えるか。
(6) 証拠(証拠リスト)の開示については、プライバシーの保護(基準)に則る形でも開示方法を考えないのか。またプライバシー問題以外に開示できない理由はあるのか。
右質問する。
政府答弁書
一について
刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百九十九条第一項により、検察官が公判廷で取調べを請求する証拠物及び証拠書類については、あらかじめ弁護人等に閲覧の機会を与えなければならないものとされている。これに加えて、最高裁判所の決定(昭和四十四年四月二十五日同裁判所第二小法廷決定)により、裁判所は、一定の場合には、その訴訟指揮権に基づき、検察官が所持する証拠の開示を命じることができるものとされている。実際にも、具体的必要性に応じて、裁判所から検察官に対し証拠開示の命令又は勧告が行われており、検察官においても、事案に即して証拠開示の要否、時期、範囲等を検討し、被告人の防御上合理的に必要と認められる証拠については、これを適正に開示しているところである。
御質問の勧告については、このように、弁護人等には公判の準備をするために必要な証拠の開示を受ける機会は十分に保障されていることから、更に証拠開示を受ける機会を保障するための新たな措置を採る必要はないものと考えている。
二の(1)について
御質問の報告書の記載は、公判の準備のための証拠開示についてのものである。
なお、再審請求事件における再審請求者等に対する証拠開示についてお答えすると、刑事確定訴訟記録法(昭和六十二年法律第六十四号)においては、再審請求者等に対して、検察官が公判に提出した証拠を含む訴訟記録の閲覧を認めているが、公判に提出されていない記録については閲覧の対象としていない。他方、再審請求事件における公判不提出記録の開示については、同記録には事件発生から広範な捜査活動の結果収集された種々多様な資料が含まれており、その中には再審請求事件の争点とは関係がないものがあるばかりでなく、証拠開示によって関係者のプライバシー、名誉等が害されるとともに将来の捜査に対する協力が得られなくなるおそれがあること等から、検察官において、個々の事案ごとに、これらの観点を踏まえつつ、再審請求審における必要性に留意して、個別に判断して適切に対処しているところである。
二の(2)について
御質問の「いくつかの(差別・偏見)を土台とする冤罪事件」がどの事件を念頭に置くものか明らかではないが、一についてでお答えしたとおり、検察官においては、被告人の防御上合理的に必要と認められる証拠については、これを適正に開示しているところである。
二の(3)について
証拠の開示は公訴の提起後に行っているところであるが、弁護人から再審請求事件において公判不提出記録の開示の申出があった場合における対応については、二の(1)についてでお答えしたとおりである。
二の(4)について
御質問は、いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件等の具体的事件の捜査手続又は刑事裁判手続における検察官及び裁判所の判断にかかわる事柄であるので、死刑の必要性、情報公開などに関する再質問に対する答弁書(平成十年三月二十四日内閣衆質一四二第一〇号。以下「平成十年三月答弁書」という。)六の(3)についてと同様に、答弁を差し控えたい。
なお、平成十年三月答弁書六の(3)について、死刑の必要性、情報公開などに関する第三回質問に対する答弁書(平成十年五月一日内閣衆質一四二第二〇号)六の(3)について並びに死刑制度などに関する質問に対する答弁書(平成十年八月二十一日内閣衆質一四二第六四号)六の(3)について及び六の(6)についてでお答えしたとおり、検察当局においては、これらの事件に係る再審の判決において、捜、査又は公判にかかわる問題点が指摘されたことを深刻に受け止め、右指摘に係る問題点を踏まえて、信用性のある供述の確保とその裏付け捜査の徹底、証拠物やその鑑定等の客観的な証拠の十分な収集、検討等に一層の意を用い、事件の適正な捜査処理に努めているとともに、公判においても、法が定めるところに従い、適正な訴訟活動に努めているところである。
二の(5)について
いわゆる免田事件においては、検察官は、昭和二十九年五月十八日から昭和三十一年八月十日までの第三次再審請求事件の第一審において、熊本地方裁判所八代支部からの要請に応じ、公判不提出記録一冊を同支部に提出している。
いわゆる財田川事件においては、検察官は、昭和四十五年十一月六日、第二次再審請求事件の差戻し前の第一審において、高松地方裁判所丸亀支部からの要請に応じ、警察保管記録三冊を同支部に提出し、さらに、その後、昭和五十二年十月四日、同請求事件の差戻し後の第一審において、弁護人からの申出に応じ、警察保管記録二冊を高松地方裁判所に提出している。
いわゆる松山事件においては、検察官は、昭和五十年十一月二十六日、第二次再審請求事件の差戻し後の第一審において、仙台地方裁判所からの要請に応じ、公判不提出記録八冊を同裁判所に提出している。
二の(6)について
御質問については、二の(1)についてでお答えしたとおり、検察官において、個々の事案ごとに、個別に判断して適切に対処するものと考えている。
三の(1)について
御質問のいわゆる狭山事件については、現在、東京高等裁判所に再審請求事件が係属中であり、同再審請求事件における公判不提出記録の開示については、事件を担当する検察官と弁護人側との間で個別に協議をしているところであるので、政府においてお答えすべき性格のものではないと考えている。
三の(2)について
いわゆる狭山事件における弁護団からの証拠開示の申出に対する検察官の回答については、現に再審請求が係属中の具体的事件における検察官の活動内容にかかわるものであるので、政府においてお答えすべき性格のものではないと考えている。
また、御質問の「冤罪事件」というのがどの事件を念頭に置いているか定かでないが、再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおりであり、検察官において、関係者のプライバシーにかかわる内容の証拠であっても、個々の事案ごとに、右プライバシーの保護のほか、再審請求事件における争点との関連性、将来の捜査における協力の確保等の観点から個別に判断して、開示の合理的な必要性があると認める場合には、これを開示しているものと考えている。
三の(3)について
再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおり、関係者のプライバシーも考慮すべき要素の一つであるが、検察官においては、個々の事案ごとに、種々の観点から個別に判断して適切に対処しており、それ以上の要件や基準を設ける必要があるとは考えていない。
三の(4)について
三の(2)についてでお答えしたとおり、関係者のプライバシーにかかわる内容の証拠であっても、開示の合理的な必要性が認められる場合には、これを開示しているところであり、その限りで関係者のプライバシーが損なわれることは否定できないが、これがプライバシーの不当な侵害に当たるとは考えていない。
三の(5)について
もとより被疑者、被告人のプライバシーに配慮する必要があると考えているが、再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおり、検察官において、個々の事案ごとに個別に判断して適切に対処しているところである。
三の(6)について
保護基準の設定については、三の(3)についてでお答えしたとおりである。
また、再審請求事件における証拠開示については、二の(1)についてでお答えしたとおり、検察官において、個々の事案ごとに、再審請求事件における争点との関連性、関係者のプライバシー等の保護、将来の捜査における協力の確保等の観点から、開示すべき範囲を個別に判断しており、関係者のプライバシーの保護のみの観点から判断しているものではない。
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