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タクシー業界の過当競争とタクシー運転者の過酷な労働実態に関する質問主意書
参議院 第163回 第19号お答えすることは困難 ×1個別の事案 ×1
質問本文
二〇〇二年二月のタクシー規制緩和以来、三年八か月が経過した。この間、「大阪タクシー戦争」にみられるように、新規参入と大量増車、四〇種類にも拡大した料金体系など、行き過ぎた過当競争が横行している。
九月一七日のNHK番組『タクシードライバーは眠れない』では、その悪影響として、タクシー事故の増加のほか、タクシー運転手の収入減について具体的にリポートされている。それによると、運転手の平均年齢は五五歳で、リストラ、廃業で職を失った人が多く、平均年収は二八〇万円しかない。そのうえ、料金値下げを長時間勤務で補い疲労するなど、労働条件の悪化と事故の増加との悪循環となっている。
タクシー・ハイヤー労働者で組織されている全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)の調べでは、二〇〇四年度タクシー運転者の年間賃金・労働時間・時間当たり賃金のすべてにおいて、過酷な実態に陥っていることが判明している。年間賃金はピーク時の三割減(大阪は四割減)、労働時間は一六時間増(大阪は一三二時間増)、時間当たり賃金では二三・六%減(大阪は三一・九%減)となっている。しかも、生活保護基準を下回る賃金水準が随所で発生しており、地域最低賃金違反も多発する異常事態であるとしている。
タクシー業界は、その経費の八割近くが総人件費によって占められている産業であり、その事業者とタクシー労働者は、公共交通機関としての自覚に立って、利用者・庶民の足を確保し発展させるために、努力してきた。そして、今後とも一層の努力を傾注することは当然である。いま必要なことは、破滅的競争の激化をあおることでも、この業界の根幹とも言える安全・安心に逆行する規制緩和策を強めることでもない。いま、やるべきは、秩序ある発展をめざすタクシー交通政策をこそ、政府の責任で確立すべきである。
タクシーが公共交通機関としての役割を担い、安心・安全の確保を第一として国民の信頼を確立することが、いま求められていることを強調して、以下質問する。
一 全産業労働者及びタクシー運転者それぞれの年間賃金、年間労働時間及び時間当たり賃金について、最近一〇年間の推移を都道府県別に示されたい。なお、タクシー運転者については、統計分類上可能であればハイヤー運転者を除いた値を示されたい。
二 タクシー運賃及び料金については、大阪の例に見られるように、二〇〇二年二月から実施された需給調整規制の廃止以降、行き過ぎた値下げ競争を招き、その結果としてタクシー運転者の年収及び時間当たり賃金が著しく低下している。政府はこの実態をどのように把握しているか。
また、富樫練三議員外六名が二〇〇四年六月一五日に提出した「タクシー事業の現状改善等に関する質問主意書」に対する同年七月六日付け政府答弁書では、「引き続き、タクシー事業者に対する監督指導等を行ってまいりたい」との見解を示しているが、具体的にどのような監督指導を行ってきたか、また、行おうとしているか。
三 タクシー輸送の安全・安心を担保する方策として、労働条件を改善することが不可欠であるが、その方策として、供給過剰状態のタクシー車両を大幅減車し、運賃も適正水準に見直さなければならないと考えるが、いかがか。また、見直しをすると仮定した場合、どんな手法が考えられるか、見解を示されたい。
四 大阪タクシー業界においては、いわゆる「企業内個人タクシー」と称する法人タクシー事業所が増加してきている。
「企業内個人タクシー」とは、タクシー車両や営業諸経費等に関して、会社と運転者個人との間でリース契約を結ぶものである。その労働実態は、本来管理しなければならない事業者が管理せず、法律で定められている始業点呼さえ行わずに、営業を開始する時に事業所で表示灯(あんどん)を受け取り、それを装着して営業する。労働時間は運転者個人の自由裁量に任せ、好きな時間帯で営業させている。そのうえ、タクシー車両を通勤に使用し、自宅に持ち帰り自宅車庫に格納している。社会保険料や雇用保険料等の事業主負担分を運転者個人が支払っているだけでなく、自動車保険、各種分担金、車庫代、燃料代、事故に係わる一切の経費など、本来事業者が払わなければならない経費を運転者個人が支払っている。さらに、消費税については運転者が個人事業主として申告し、事業者が納付していない等の実態があるとも聞き及んでいる。
以上のような営業実態が事実とすれば、この「企業内個人タクシー」は、明らかに道路運送法第三三条違反ではないのか。また、旅客自動車運送事業運輸規則、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)、労働基準法、労災保険法、雇用保険法等には抵触しないのか。こうした法令違反をこのまま放置するなら、交通運輸行政に重大な禍根を残すことになり、「安全・安心」が崩壊することになる。よって、関係諸法令に照らした政府の見解を示されたい。
五 政府は、規制緩和以来三年八か月経過した現時点において、新規参入、大量増車、運賃値下げ等の過当競争による影響について、地域を特定した特別の調査を行うべきである。その際、タクシー運転者の賃金・労働時間など労働環境の変化はもとより、タクシー事故件数の推移など安全面についての変化、利用者の意識変化については利便性などに着目した調査など、総合的な実態調査を行うべきであると考えるが、いかがか。
六 タクシー台数規制の廃止による労働条件の悪化や輸送の安心・安全に係わる不測の事態に対する有効な防止策として、「タクシー運転免許の法制化」について、自交総連から提案され広く公表されているところである。この提案は、タクシー運転者の法的地位を確立し、その人材養成と資質のチェックを通じて、タクシーシステムに良質な人材を確保することを目的とし、その結果として、タクシーの安心・安全を確保し、ひいては国民の福祉増進に寄与することとなるとしている。こうした法制化提案について、政府はいかなる見解を持っているのか示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
お尋ねの都道府県別の全産業労働者及びタクシー運転者それぞれの年間賃金、年間労働時間及び時間当たり賃金の最近十年間の推移については、調査し、集計しておらず、また、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査報告」等に基づき推計することは作業が膨大なものとなることから、お答えすることは困難である。
二について
タクシーの運賃及び料金については、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第九条の三により、国土交通大臣の認可を受けなければならないものとされている。タクシーの運賃及び料金は、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて認可の申請が行われるものであり、当該認可に当たっては、事業者から提出された原価計算書等を厳格に精査し、同条第二項に定める基準に従って審査をしているところであり、御指摘のように「行き過ぎた値下げ競争」が生じているとは考えていない。
また、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査報告」に基づき推計したところによると、全国のタクシー運転者の平均の年間給与額(当該調査における「きまって支給する現金給与額」を十二倍したものに「年間賞与その他特別給与額」を加えた額をいう。)は、平成十三年は約三百三十三万円であったが、平成十六年には約三百七万円に減少している。また、全国のタクシー運転者の平均の年間労働時間(当該調査における「所定内実労働時間数」に「超過実労働時間数」を加えた上で十二倍したものをいう。)は、平成十三年は二千四百二十四時間であったが、平成十六年には二千四百時間に減少しているものと承知している。
政府としては、タクシー運転者の賃金、労働時間等の労働条件の向上を図ることは重要な課題であると認識しており、タクシー事業者に対する監督指導については、従来より、監査体制の充実や関係省庁の連携を図ること等によりその強化を図ってきているところである。また、平成十七年五月に国土交通省と厚生労働省の関係者からなる「タクシー運転者の適切な労働環境の確保に関する連絡調整会議」を設置し、合同監査・監督の実施、労働条件の確保に関する相互通報制度の拡充等について検討を行ってきたところであり、この検討結果等を今後の監査等に適切に反映するとともに、厳正な行政処分等を行うことにより、輸送の安全及び旅客の利便の確保に努めてまいりたい。
三について
各タクシー事業者が行う事業用自動車台数の増減については、平成十四年二月に施行された道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成十二年法律第八十六号。以下「改正道路運送法」という。)によりタクシー事業に係る需給調整規制が原則として廃止されたことから、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて決定されるべきものとなっているが、事業用自動車台数の増減にかかわらず、各タクシー事業者においては、タクシー運転者の労働条件の改善に努める必要があるものと考えている。
なお、道路運送法第八条に基づき、国土交通大臣は、特定の地域においてタクシー事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合であって、当該供給輸送力が更に増加することにより、輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは、当該特定の地域を、期間を定めて緊急調整地域として指定し、当該地域におけるタクシーの台数の増加等について制限を行う措置を発動することができることとされている。
また、二についてで述べたとおり、タクシーの運賃及び料金については、同法第九条の三により、国土交通大臣の認可を受けなければならないものとされている。当該認可に当たっては、事業者から提出された原価計算書等を同条第二項に定める基準に従って厳正に審査しているところであり、現行制度において、運賃及び料金は適切なものとなっているものと考える。
四について
御指摘の事例が道路運送法第三十三条等に違反するか否かについては、個別具体的な事案ごとに監査等を実施し、事実関係を確認した上で判断すべきものと考えている。
政府としては、道路運送法等関係法令違反については、従来より、個別に監査等を行い、違反事実が確認されれば車両の使用停止等の行政処分等を実施してきたところであるが、輸送の安全及び旅客の利便の確保の観点から、法令違反については今後とも引き続き厳正に対処してまいりたい。
五について
国土交通省では、平成十六年度に全国のタクシー事業者に対してタクシー運転者の労働実態等に関する調査を行ったところであり、平成十七年度は、タクシー事業者及び利用者に対して輸送の安全及び利用者ニーズ等に関するアンケート調査を行っているところである。
六について
国土交通省としては、旅客の利便の確保及び向上を図るためには、タクシー運転者の資質を向上させることが重要であると考えており、改正道路運送法の施行に併せて旅客自動車運送事業運輸規則(昭和三十一年運輸省令第四十四号)第三十六条を改正し、タクシー事業者が新たに運転者として雇い入れた者に対して行わなければならない指導、監督及び特別な指導の期間を、それまでの五日間から十日間に延長する等の措置を講じたところである。
なお、タクシー運転者については、道路運送法第二十五条等において、年齢、運転の経歴等の一定の要件を備える者でなければならないとされており、道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第八十六条第一項の有効な第二種免許を所持していなければならないこととされている。また、タクシー業務適正化特別措置法(昭和四十五年法律第七十五号)に基づき指定地域とされている東京地域及び大阪地域においては、タクシー事業者は、指定地域内の営業所に配置するタクシーには、当該指定地域に係るタクシー運転者登録原簿に登録を受けている者以外の者を運転者として乗務させてはならないこととされており、さらに、国土交通大臣は、指定地域ごとに、タクシーの運転者になろうとする者に対し、当該指定地域に係るタクシー事業の業務に必要な地理の試験を行うこととしている。
お尋ねの「タクシー運転免許の法制化」が全国自動車交通労働組合総連合会から提案されていることについては承知しているが、国土交通省としては、前述の制度によってタクシーサービスに必要な運転者の資質は確保できているものと考えている。
なお、交通政策審議会の陸上交通分科会自動車交通部会に設置されている「タクシーサービスの将来ビジョン小委員会」の場において、タクシー運転者の資質の一層の向上を含め、今後の望ましいタクシーサービスの在り方及びその実現のために必要な環境整備方策を検討することとしている。
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