ことばで探す › 衆議院 第165回
国公立の精神科施設における治療実態に関する質問主意書
衆議院 第165回 第221号お答えすることは困難 ×1
質問本文
東京地裁は本年十一月八日、国と国立精神・神経センター国府台病院(千葉県市川市)の精神科医に対し、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」の女性患者を殴り、けがをさせたとして原告の女性患者に対し計約百五十万円を支払うよう命じる判決を下した。医師や国側は「殴ったのは治療行為の一環」と主張していたが、裁判長はこの主張を退け、「女性は正当な理由もなく暴行を受け、精神的な衝撃は非常に大きかったと推認される」と判断した、と報道されている。
そこで、以下のとおり質問する。
一 前述の判決内容及び報道されている内容は事実か。また、国・医師側は控訴せず、判決は確定していると理解しているが間違いないか。控訴しなかった理由は何か。判決内容を認めたのか。
二 精神病患者などの人権擁護活動に取り組んでいる「市民の人権擁護の会」の調査によると、裁判記録の中で被告国は「原告が本件暴行があったとして問題にしている局面において、被告金医師が原告に施した治療手段は、原告の現病名に対する正当な治療目的であり、原告の意思を尊重しつつ行われた適切な医療行為の一環としてのタッピングであって、あくまでも医療行為そのものである」と反論している。そこで、
A 「タッピング」とはどのような治療方法か。医学的定義を示されたい。「タッピング」とは「叩く」「殴る」行為とどう違うのか。
B 国が「殴る行為」を精神科治療の一環と認定した科学的・医学的根拠、及び経緯を示されたい。
C 国は、今でも「殴る行為」が「適切な医療行為」の一部であると考えているのか。
D 国は、この判決後全国の国立・公立精神科病院等に当該判決を受けて何らかの注意、指導をしたのか。
三 東京地裁は、この裁判において同患者のカルテが改ざんされたことを認定している。同センター内において内部調査が終了した後、カルテに診断名や治療法などを書き加えたとされるが、政府の見解を示されたい。
四 被告医師は国内のPTSDの第一人者とされ、約一億円以上の厚生労働科学研究費が同医師の関連する研究(主任研究者あるいは共同研究者として)に使用されているが、その研究の成果によって殴る治療の有効性が証明されているのか。また、同医師を中心に国内初のPTSDの指針が策定され、その後もPTSDの権威として、同医師は精神科医療を牽引しているが、そのことについて政府はどう考えているか。
五 本年九月及び十月、同センターの職員が患者の金銭を盗むなどという事件が発覚している。また、国立病院機構賀茂精神医療センターでも、患者の金銭を着服したとして関係者が処分されている。国立の精神医療従事者の倫理感はどうなっているのか。国はどのような綱紀粛正をしているのか。さらに、九月には八歳の女の子を死亡させた事件に関連し、厚生労働省の発達障害者支援に係る検討会で中心人物の都立梅ヶ丘病院の院長が処分され、宮城県立富養園(精神科)では精神薬の治療によって多機能不全を起こさせたという医療事故が起きている。あるべき精神科施設としての患者に対する治療や処遇がないがしろにされ、昔の収容施設的な精神医療現場に回帰しているのではないか。政府の見解を明らかにするとともに、対策を示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
御指摘のような内容の判決及び報道があったことは事実であるが、厚生労働省としては、御指摘の裁判における被告医師(以下単に「被告医師」という。)の行為は当該裁判の原告女性(以下単に「原告女性」という。)に対する正当な治療目的のためのものであり、原告女性の意思を尊重しつつ行われた適切な医療行為の一環としてのタッピングであって、飽くまでも医療行為そのものであると考えており、当該判決の内容をすべて認めているわけではない。しかしながら、診察室という当事者しかいない場所での出来事であり、控訴審において第一審の判断を覆すだけの事実の証明が困難であると判断したため控訴の提起を断念したものであり、原告からも控訴が提起されなかったため、平成十八年十一月二十五日に第一審判決が確定している。
二のAについて
「医学大辞典(第十八版)」(南山堂)では、気道から痰を除去し清浄化を図る方法の一つとして「タッピング」、すなわち、「胸郭の軽打」が掲げられている。「広辞苑(第五版)」(岩波書店)では、「殴る」とは、「(握り拳で)横ざまに力をこめて打つ」又は「強く打つ」ことをいうものとされ、外形的にも「軽打する」行為である「タッピング」とは異なる。また、「叩く」とは、「つづけて打つ」又は「くり返して打つ」ことをいうものとされており、「タッピング」も、「叩く」行為の一つと考えられる。
二のB及びCについて
二のAについてで述べたとおり、「殴る行為」は医療行為の一環としての「タッピング」と異なるものであり、これを国として「精神科治療の一環」と認定することはなく、また、「適切な医療行為」の一部と考えることはない。
二のDについて
厚生労働省としては、一についてで述べたとおり、被告医師の行為は医療行為そのものであると考えており、今回の判決を受けて全国の国公立の精神科病院等に対する注意及び指導は行ってはいない。
三について
御指摘の東京地裁の認定した事実については、厚生労働省としては、被告医師が原告女性の診断名及び治療法等について、自分自身の行った治療の記録の整理を行うとともに、今後、他の医師が治療を行うに当たって、今回のような治療上の混乱が生じることを未然に防ぐため、原告女性のカルテに追記した適切な行為であったと認識している。
四について
厚生労働省としては、御指摘の「殴る治療」という医療行為が存在することは考えられず、そのような行為の有効性に係る研究は行われていないものと承知している。また、被告医師は主任研究者として厚生労働科学研究を行い、御指摘の「PTSDの指針」である「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」を策定したが、厚生労働科学研究においては、各研究分野における専門家等から構成される評価委員会による評価等により研究者を選定することとしており、被告医師についても研究内容やこれまでの研究者としての実績等が評価されて、厚生労働科学研究を行うなどしているものと承知している。
五について
厚生労働省においては、御指摘の本年九月及び十月の事件を受けて、「職員の綱紀粛正について」(平成十八年九月二十七日付け医政病発第〇九二七〇〇二号厚生労働省医政局国立病院課長通知)及び「職員の綱紀の粛正及び会計処理における事故防止について」(平成十八年十一月十五日付け医政発第一一一五〇〇三号厚生労働省医政局長通知)を発出し、国立精神・神経センター等の職員の綱紀粛正を図っているところである。
また、精神医療の現場においては、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)に基づき、医師による高度かつ専門的な判断により、患者の人権に配慮した適切な治療や処遇が行われているものと承知しているが、厚生労働省としては、今後とも、適切な精神保健医療の確保に努めてまいりたい。
似た質問主意書
件名と質問本文の冒頭の意味が近いものを、前もって計算しておいた表から近い順に8件並べました(multilingual-e5-large)。同じ言葉を使っていなくても出ます。論点が少しずれていることもあります。