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日本国国章損壊罪の保護法益等に関する質問主意書
参議院 第221回 第50号お答えすることは困難 ×1趣旨が明らかではない ×1
質問本文
刑法(明治四十年法律第四十五号)第九十二条第一項は、「外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。」と規定している。また、同条第二項は、「前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。」と規定している。
二〇二五年十月二十日の「自由民主党・日本維新の会連立政権合意書」では、「令和八年通常国会において、「日本国国章損壊罪」を制定し、「外国国章損壊罪」のみ存在する矛盾を是正する。」とされた。同合意書に基づき、現在、与党内では、日本国国章損壊罪の制定に向けた検討が行われていると承知している。
外国国章損壊罪の保護法益は、我が国の外交的利益、外国との友好関係、国際礼譲等と解されている。一方、日本国国章損壊罪の保護法益は、日本国国章の尊厳又は権威の保護であり、性質が異なるとの指摘がある。また、国旗の損壊行為は政治的・思想的表現として行われる場合があり、日本国国章損壊罪の制定に当たっては、日本国憲法第十九条で保障される思想及び良心の自由、第二十一条で保障される表現の自由との関係について慎重な検討が必要である。
我が国では、戦前、天皇及び皇族に対する「不敬」を処罰する不敬罪が存在していたが、日本国憲法施行後に廃止された。また、米国では、連邦最高裁判所が一九八九年、国旗焼却行為は、政治的表現として憲法上保護されると判示した。同年、国旗保護法が制定されたが、同裁判所は翌一九九〇年に同法を違憲と判断し、同法は無効となった。しかし、トランプ大統領は二〇二五年、国旗に対する冒涜を「攻撃的で挑発的」とみなし、米国旗を侮辱した者を訴追するよう司法長官に指示する大統領令に署名した。
国旗に対する批判、嫌悪又は侮辱的表現を伴う行為は、不快又は不適切と受け止められる場合がある。しかし、不快又は不適切であることのみを理由として、同行為を刑罰により規制することが憲法上許容されるか、極めて慎重な検討が必要である。
以上を踏まえて、以下質問する。
一 刑法第九十二条第一項の保護法益は、我が国の外交的利益、外国との友好関係、国際礼譲等であり、外国の「国旗その他の国章」の尊厳又は権威の保護ではないと考えるが、政府の認識を示されたい。
二 刑法第九十二条第二項において、「外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。」と規定されている理由を示されたい。
三 刑法第九十二条第一項において、単に外国の「国旗その他の国章」を物理的に損壊した行為のみではなく、「外国に対して侮辱を加える目的」が、処罰の要件とされている理由を示されたい。
四 国旗を損壊する行為について、その目的、意図又は政治的意味内容によって法的評価が異なり得ると政府は考えているか示されたい。例えば、政治的抗議としての国旗焼却行為と宗教的儀礼又は処分目的での同行為とでは、法的評価が異なり得ると考えるが、政府の認識を示されたい。
五 日本国国章を損壊する行為を処罰対象とする立法を行う場合、日本国憲法上の思想及び良心の自由、表現の自由との関係で生じる課題について、政府の認識を示されたい。
六 日本国国章を損壊する行為を処罰対象とする立法を行う場合、その目的、意図又は政治的意味内容によって処罰の判断が異なり得ると考えるが、政府の認識を示されたい。
七 不敬罪が廃止された趣旨には、国家又は国家の象徴に対する敬意を刑罰によって強制していたことへの反省が含まれていると考えるが、政府の認識を示されたい。
八 米国の連邦最高裁判所が、国旗焼却行為は政治的表現として憲法上保護されると判示したことを、政府は承知しているか示されたい。また、同判示の趣旨に対する政府の認識を示されたい。
九 国旗に対する批判、嫌悪又は侮辱的表現を伴う行為について、日本国憲法上の思想及び良心の自由、表現の自由に照らして保障されると考えるか、政府の認識を示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一及び三について
刑法(明治四十年法律第四十五号)第九十二条は、同法第二編第四章の「国交に関する罪」の中に置かれているとおり、我が国の外交作用の円滑、安全等を考慮して規定されたものと考えられ、御指摘の「外国に対して侮辱を加える目的」との要件についても、こうした趣旨を踏まえて規定されたものと考えられる。
二について
刑法第九十二条第二項については、個々の外国の文化や慣習が必ずしも我が国と同じではなく、我が国において侮辱に相当する行為であっても当該外国においてはそうではないこともあること等から、同条第一項の罪に係る起訴又は不起訴の判断を検察官に一任することは適当ではないことを踏まえて規定されたものと考えられる。
四から六までについて
お尋ねの点については、御指摘の「自由民主党・日本維新の会連立政権合意書」において「「日本国国章損壊罪」を制定」することが提起されたことを踏まえ、現在、自由民主党及び日本維新の会において議論が行われている事柄であると承知しており、政府としてお答えすることは差し控えたい。
七について
お尋ねの「反省が含まれている」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、刑法第七十四条及び第七十六条については、憲法の定める国民平等の趣旨を踏まえて削除されたものと考えられる。
八について
米国の連邦最高裁判所が同国の国旗を焼却する行為と米国憲法との関係について判示した例があることについては承知しているが、お尋ねの「同判示の趣旨に対する政府の認識」についてお答えすることは、他国の具体的な司法判断を日本国政府として論評することとなることから、差し控えたい。
九について
御指摘の「国旗に対する批判、嫌悪又は侮辱的表現を伴う行為」の態様は様々であると考えられることから、お尋ねについて一概にお答えすることは困難であるが、一般論として、外部に向かってその思想等を表す行為は憲法第二十一条第一項により保障されるが、公共の福祉のため必要な場合に、合理的な限度において制約を受けることはあり得ると考えられる。