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内閣府企画による小冊子及びビデオ「ハンセン病を知っていますか?」に関する質問主意書
衆議院 第154回 第169号
質問本文
「ハンセン病を知っていますか?〜現代医学で制圧された病気〜」と題した小冊子及びビデオが、内閣府企画、厚生労働省・法務省人権擁護局協力で、二〇〇一年十二月二十日、(社)日本広報協会より編集・発行されている。この小冊子及びビデオには、近現代一〇〇年に及ぶ日本のハンセン病政策による患者・家族・関係者らへの人権侵害についての記述・説明がなされておらず問題であると考えるので、以下、質問する。
一 小冊子及びビデオを企画・制作した目的、趣旨は何か。
二 読者及び視聴者の対象をどこにおいて企画・制作したのか。
三 小冊子及びビデオの刊行事業において、事業費として国から出費された金額はいくらか。
四 それぞれ何部、制作したのか。
五 販売対象をどこにおいているのか。この半年あまりで主にどこが購入しているのか。
六 小冊子の二十三頁で熊本判決に対し「国は、この判決には重大な法律上の問題点があるものの患者、元患者が高齢であることなどを総合的に考え、控訴を行わないこととしました」と書かれているが、「重大な法律上の問題点」とは何か。また、問題とするなら、何故、その問題点の具体的な内容を記述・説明していないのか。
七 ビデオでは、ハンセン病訴訟について全く触れていないが、それは何故か。
八 法務省人権擁護局協力の小冊子でありながら、「らい予防法」下の国の政策による人権侵害に触れていないのは非常に問題である。「はじめに」で、「確立した治療法がない時代、多くの人がハンセン病にむしばまれ、私たちの想像を絶する苦しみを味わいました。そして、それは身体的な苦しみだけではありませんでした。社会のハンセン病に対する誤解や偏見が、その苦しみをさらに大きなものにしてしまったのです」と、苦しみの原因を「病気」と「社会の誤解や偏見」によるものとして、国の責任を全く回避した説明がされている。ハンセン病療養所の入園者らが受けた人権侵害(強制的な断種、不妊手術、強制堕胎・人工妊娠中絶、強制労働、逃走罪など)の記述が全くないのは何故か。
九 ハンセン病患者、また、その配偶者らへの優生手術や人工妊娠中絶を合法化した「優生保護法」(一九四八年制定〜一九九六年廃止)について全く触れていないのは何故か。
十 ハンセン病の感染経路についての説明で、小冊子三十三頁では、「菌は治療で数日のうちに伝染性を失い、患者との接触で伝染することもありません」と記述し、また、ビデオでは「現在では、ハンセン病は、患者との濃密な接触を繰り返したり、傷口からの感染、更には、鼻汁や唾から飛沫感染すると考えられています」と説明されている。
これらの説明は、ハンセン病は、「菌を排出している患者から伝染する病気である」との誤解を与えるものである。ハンセン病は、「伝染性は全くといっていいほどない」ことを強調すべきである。感染経路や発症の危険性についての説明は、往々にして、「怖い病気である」との誤解を持たせることになってしまい、結果として、隔離を肯定し、差別を生じさせることになる。この点をよく勘案し、説明を改めるべきであると考えるが、如何か。
十一 同じく三十二頁で、「かつてハンセン病は、恐ろしい病気で伝染するから、患者を隔離してしまう、という方法がとられた時期もありました。これも、当時としては疾病の一種としか考えられていなかったため、仕方なかったという側面もあった」とあるが、この記述は、科学的でも実証的でもない。「当時」とは正確にはいつのことか。また、他の疾病とは異なり、ハンセン病のみ「終生・絶対・強制隔離」が行われた理由は何か。質問十と同様に、この説明は、隔離政策を正当化し、ハンセン病差別を温存するものである。この部分は削除すべきと考えるが、如何か。
十二 ビデオでは、多剤併用療法の説明部分で、「現在では、(略)こうした薬を一定期間服用すれば、ハンセン病は外来治療でも治癒する病気となったのです」と説明されているが、これは誤った説明ではないか。ハンセン病は、自然治癒していた人も多かったことは衆知の事実であり、また、明治期以降、民間病院や大学病院では外来治療体制があったにもかかわらず、一部の例外を除き、隔離医療政策とともに閉鎖され、そして、ハンセン病患者を一般医療体制から排除していったことが、外来治療を不可能にしたのである。一九九五年四月の日本らい学会で「ハンセン病治療は、当初から外来治療が可能であり」という見解が出されている。これにも矛盾するのではないか。
十三 「遺伝病ではありません」と強調するのは逆に遺伝性疾患及び、同患者を差別することになると思うが、如何、お考えか。
十四 ハンセン病を「感染症である」と何度も繰り返すことは問題である。一般の多くの人は、感染症とは伝染病であり、患者からうつる病気と思っており、安易に「感染症である」ことを強調するのは、この誤解をそのままにして差別を強化することになり、問題であるが如何か。
十五 小冊子二十四〜二十五頁の「ハンセン病資料館」は正式には「高松宮記念ハンセン病資料館」であるが、「高松宮記念」を記していないのは何故か。また、同資料館の運営を(財)藤楓協会への委託を終了して、国の責任において直接運営すべきだと考えるが、如何か。
十六 近現代日本のハンセン病問題では、国と医学者らにより遂行された隔離政策による誤り、人権侵害こそが重要問題である。にもかかわらず、小冊子では、隔離を行った医学者と宗教者だけを「ハンセン病問題に取り組んだ人々」として紹介しているのは何故か。
十七 ビデオでは、法廃止は語られているが、廃止理由の説明はなく、人権侵害のもととなった「らい予防法」及び、その施行の実態などについて触れられていないが、何故か。また、廃止理由をきちんと説明すべきであるが如何か。
十八 小冊子には、人権侵害を受けた当事者がほとんど不在である。今、大切なのは、過去の誤りの事実を知り、反省し、誤りの歴史を繰り返さないことである。そのためには、「ハンセン病を知っていますか?」ではなく、「ハンセン病差別・偏見をなくすために」を目的とした小冊子、ビデオに作り直すことが必要である。そもそも当事者を入れず行政当局だけで、こうした啓発・啓蒙活動を行うこと自体が問題である。このように問題の多い小冊子及びビデオは回収し、改めて当事者も含めた刊行委員会で再版すべきである。その考えはあるか述べられよ。
右質問する。
政府答弁書
一について
ハンセン病は古くから差別や偏見の対象とされ、現在でもいまだハンセン病の患者及び元患者(以下「ハンセン病患者等」という。)に対する社会的な差別や偏見が存在していることから、ハンセン病患者等に対する差別や偏見を取り除くことを目的に、様々な方法により幅広く広報や啓発を行ってきている。
お尋ねの小冊子(以下「小冊子」という。)及びお尋ねのビデオ(以下「ビデオ」という。)(以下「小冊子等」と総称する。)についても、このための啓発資料の一つとして制作したものであり、ハンセン病患者等に対する差別や偏見を取り除くためには、国民が正しい知識を持つことが有効であることから、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明することとしたものである。
二について
小冊子等は、広く国民一般を対象として企画し、制作したものである。
三から五までについて
小冊子を四万七千五百五部、ビデオを二千二百十五部制作し、都道府県及び市区町村の広報主管課及び疾病対策主管課、全国の公立図書館等に配布したが、これに要した経費は約一千五百万円である。
これら以外に社団法人日本広報協会が独自に販売しているものについては、主に保健所が購入していると承知している。
六について
お尋ねの「重大な法律上の問題点」とは、平成十三年五月二十五日に発表した政府声明及び「ハンセン病問題の早期かつ全面的解決に向けての内閣総理大臣談話」(以下「総理大臣談話」という。)の中で述べているとおり、同月十一日熊本地方裁判所判決(「らい予防法」違憲国家賠償請求事件)に、国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)及び民法(明治二十九年法律第八十九号)の解釈の根幹にかかわる法律上の問題点があることである。
また、これを小冊子に記述していないのは、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明するという小冊子の制作の趣旨になじまないと判断したためである。
なお、前述の問題点については、政府広報に総理大臣談話を掲載し、広く国民に対して広報しているところである。
七から九までについて
御指摘の事項について小冊子又はビデオで説明していないのは、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明するという小冊子等の制作の趣旨になじまないと判断したためである。
なお、政府としては、国の政策の誤りによってハンセン病患者等に苦難と苦痛を与えたことに対して謝罪するとともに、政府広報等により、広く国民に対してその旨を広報しているところである。
十について
お尋ねの説明は、ハンセン病が遺伝病ではなく、極めて感染力の弱い感染症で感染する機会も少ないことを述べているものであり、国民のハンセン病についての誤った知識に基づく誤解を解消するために必要なものであることから、説明を改める必要はないと考えている。
十一について
お尋ねの記述については、我が国に限らず他の国においても、ハンセン病が流行疾病の一種としか考えられておらず、ハンセン病患者等を隔離する方法が採られた時期が過去にあり、そうした時期を「当時」と述べたものであると理解しており、我が国の隔離政策を正当化する趣旨のものではないことから、当該記述を改める必要はないと考えている。
また、ハンセン病患者等に対する隔離政策が続けられた原因などについては、多方面から科学的かつ歴史的に検証を行うために、検証会議を設置することとしており、その中で明らかにされるものと考えている。
十二について
お尋ねの説明は、現在のハンセン病の治療方法が、WHO(世界保健機関)の提唱もあって、複数の治療薬を組み合わせた多剤併用療法が主流であること及びハンセン病は有効な治療薬を一定期間服用することにより外来治療でも治癒する病気になったことを、単に事実として説明したものであり、誤りはないと考えている。
また、当該説明は現在の状況について説明したものであること及び御指摘の日本らい学会の見解(以下「見解」という。)も、有効な治療薬が無かった時代には、外来治療か否かを問わず、ハンセン病を効果的に治療できる方法がなかったことを否定するものではないと考えられることから、当該説明と見解は矛盾するものではないと考えている。
十三について
ハンセン病患者等に対する差別や偏見は、ハンセン病に対する誤った知識に基づく誤解が原因の一つである。ハンセン病が遺伝病であるという誤解は古くからあり、このような誤解を解消し、ハンセン病について正しい知識を普及させるためには、御指摘の説明も必要なものであると考えている。
また、御指摘の説明はハンセン病の説明の一つとして記述しているに過ぎず、遺伝性疾患の患者等への差別につながるものではないと考えている。
十四について
ハンセン病患者等に対する差別や偏見が生じた原因の一つとして、人々が、ハンセン病患者等に接した場合、容易に自分もハンセン病に感染するのではないかという誤解を持っていることがあると考えている。
このため、ハンセン病が極めて感染力の弱い感染症であることを繰り返し説明することは、ハンセン病についての正しい知識を普及させ、差別や偏見を無くすために必要なことであると考えている。
十五について
高松宮記念ハンセン病資料館(以下「資料館」という。)について、お尋ねの部分において正式な名称を使用していないのは、一般的に用いられている略称を使用した方が分かりやすいと考えたためである。
また、資料館の運営については、政府としても、ハンセン病に関する啓発活動の必要性から、一定の責任を有すると考えるが、必ずしも直接行う必要はないと考えている。
十六について
小冊子では、様々な形でハンセン病問題に取り組んだ代表的な人物を紹介しており、医学又は宗教の関係者に限定して選定したものではない。
十七について
ビデオでらい予防法(昭和二十八年法律第二百十四号)の内容、施行の実態及び廃止理由について説明していないのは、ハンセン病の医学的又は歴史的な側面について説明するというビデオの制作の趣旨になじまないと判断したためである。
十八について
小冊子等については、その目的や内容に関して問題があるとは考えておらず、回収し、作成し直す必要はないと考えている。
なお、ハンセン病患者等に対する差別や偏見の解消のための啓発活動については、厚生労働省とハンセン病患者等との協議の場であるハンセン病問題対策協議会においても取り上げられているところであり、今後もこうした場を通じて、関係者の意見も伺いながら、適切に対応してまいりたい。
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