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平城宮跡の保全と継承に関する質問主意書

参議院 第183回 第119号

提出者
参議院
提出日
2013年6月10日
内閣転送 2013年6月12日
答弁書受領日
2013年6月18日
提出から8日
答弁の項目数
11
質問 4,349字/答弁 3,142字

質問本文

平城京は奈良時代の政治・文化の中心として栄えた都であり、その中央北部に位置する平城宮跡は、八世紀の律令制度に基づいた政治支配の中核として当時の政治・経済・社会・文化などさまざまな分野・領域の到達点を現す古代の宮殿遺跡である。

国の特別史跡でもある平城宮跡は一九九八年に「古都奈良の文化財」八つの資産の一つとして世界遺産に登録された。文化庁は登録申請に際しての「価値の証明」として、地上の構造物の大半は失われているが、「完全に保存されている地下遺構」や土器・瓦はもちろん、木簡などの「良好な保存状況のもとに埋蔵された文字史料に関する豊富な遺物」がもつ「極めて高い歴史的・考古学的価値」をあげている。

国においては、こうした掛け替えのない価値をもつ平城宮跡の保全と継承を図ることに万全を期すことが求められる。

ところが、平城宮跡では二〇〇八年から「国営平城宮跡歴史公園事業」として国交省による整備が進められることとなり、そのもとで、平城遷都一三〇〇年祭を契機とした第一次大極殿院内庭のアスファルト舗装と史実と異なる修景柵の設置、朱雀門付近の仮設駐車場の造成が国、奈良県によって行われた。

昨年九月には第一次朝堂院広場の舗装工事が突然発表され、県民の抗議の中で着工された。これら一つ一つの事業が宮跡の価値を脅かし、長い年月を経て形成された景観や自然環境を大きく損なっている。また、これらの舗装が雨水の浸透を阻害することで、埋蔵文化財の消滅が懸念されている。

朝堂院広場の舗装の中止を求めて約三万五千人分もの署名が国内外から寄せられているにもかかわらず、国は工事を再考する姿勢もない。よって、以下質問する。

一 平城宮跡の保存は地域の人々の生活に密接に関わっており、保存運動にも多くの県民・国民が参加してきた。今後の保存・整備を進める上でも、そうした人々や専門家が整備の構想段階から参加し、意見を反映させるシステムを構築することが必要と考えるが、政府の考えを明らかにされたい。

また、国民参加の条件整備の一つとして、文化庁の文化審議会(分科会を含む)を原則公開とし、個々の現状変更許可の審議内容も公表すべきと考えるがどうか。

二 平城宮跡は、木簡など埋蔵文化財の調査・研究を進めるフィールドであり、古代都城文化に触れ、学ぶ場であるとともに、市街地の貴重な緑のオープンスペースとして散策や野鳥観察などのレクリエーションに活用されている。

宮跡の地下遺構と遺物、草原・湿地はそれぞれ宮跡の重要な価値を構成する要素となっている。これらの平城宮跡の価値と構成要素を明確にした上で、その自然・歴史環境を含めて保護し、管理するための「保存管理計画」を県民や研究者などの意見を十分に生かして策定することが急がれる。

文化庁は平城宮跡の「保存管理計画」がいまだに策定されていない現状をどう考えているか。

三 一九七八年に文化庁が策定した「平城宮跡保存整備基本構想」では平城宮跡全域を「遺跡博物館」と位置づけ、整備の基本方針として、①静かで落ち着いた、古代に思いを馳せるにふさわしい独自の環境をつくりだすこと、②地下遺構を傷つけず、これを守るような整備手法や施設配置の工夫を行うこと、③長期にわたる整備の各段階において、無駄と混乱のない土地利用を図り、建設事業を進めること、④関連遺跡の保存、関連用地の確保、道路、鉄道、排水路等の実施を地域的な整備計画の一環として効果的に行うこと、を定めている。基本構想の理念にたちもどり、国営公園としての整備を抜本的に見直すべきではないか。

四 世界遺産委員会が定めた「世界遺産条約履行のための作業指針」(第七十八節)では登録資産の完全性(integrity)と真正性(authenticity)の条件を満たし、国内法によって確実に保護を担保する適切な管理体制を求めている。

世界遺産の完全性と真正性の要件を保持する立場から以下の三点について実施すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

1 すでに施行された第一次大極殿院内庭の舗装は撤去すること。

2 莫大な税金を注ぎ込む第一次大極殿院の築地回廊「復元」は一つの案しか提示することができず、他の可能性を排除することになる。「復元」整備は見直すこと。

3 第三十五回世界遺産委員会(二〇一一年)で決議された大極殿正殿を囲む「修景柵」、及び朱雀門西北側の仮設駐車場の撤去を早急に実施し、決議を履行すること。

五 国交省は整備の基本方針に「奈良時代を今に感じる公園を目指す」を掲げているが、実際行われている事業は、往時の平城宮跡とは異質のイベント会場の条件整備といわざるをえない。現代の建物を無秩序に増やすことは、宮跡の歴史的・文化的景観を壊すと考えるがどうか。

平城宮跡は、朱雀門から大極殿への空間の広がりとともに、東西に春日山、生駒山などの緩やかな山並を望み、北側には古墳群・湖沼が多数分布し、緑豊かな景観を残している。こうした周辺環境と一体となった宮跡の歴史的・文化的景観を保全することが大切である。計画されている第一次朝堂院付近での「東屋」などの設置は、地方自治体などの史跡整備の指針として文化庁が発行する「史跡等整備の手引き」で便益施設は「史跡中核部でない周縁地域」を選択するという基準にも反するものではないか。

六 奈良文化財研究所がまとめた「平城宮発掘調査十七」(二〇一一年)には、第一次大極殿地区、内裏地区、第二次大極殿地区の調査成果が報告されており、同書では、大極殿地区全体の検討から「奈良時代の前半と後半期で著しく変じるこの地区の歴史過程を明晰にしえたが、なお課題が多く残されている。今後、中央区(第一次)朝堂院、東区(第二次)朝堂院についての分析を進め、中枢部の周辺に展開する未発掘部分の発掘調査研究を推進することによって平城宮史、奈良時代史の解明を期したい」と記述されている。

宮跡中枢部やその周辺でも未解明で未調査の部分を残しており、公園整備が今後の調査・研究を阻害し、史跡を変質させるものであってはならない。こうした点からも、環境への影響調査や発掘調査ぬきに行われている第一次朝堂院広場の舗装と調整池設置の工事は直ちに中止すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

七 昨年十一月に文化庁記念物課の矢野和彦課長は「平城宮跡の保護-国家一〇〇年の国民的プロジェクト」と題する文書を発表し、その中で第一次朝堂院広場の土系舗装整備は「地下遺構には問題のない計画となっています」と説明している。しかし、広場の舗装は四万五千平方メートルもの広大な面積であり、舗装による地下水位の低下が懸念されている。

文化庁として「地下遺構には問題のない計画」だと判断した根拠と理由を明らかにされたい。

国交省は昨年十一月の公園事業説明会で、土系舗装の透水性について「実証実験します」と約束している。実証実験を行ったのであれば、その透水性について明らかにされたい。

また、この舗装工事は真砂土に四パーセントのセメントを混ぜるものであり、約三百三十トンのセメントが使用されることになる。雨に溶けてセメントの灰汁が流れ出し、地下遺構や木簡、生態系への影響が懸念されるが、政府として影響調査を行ったのか。

八 公園基本計画は平城宮跡約百二十二ヘクタールのうち、三分の二を緑地保全するとしている。そうすると、残り三分の一、面積にして約四十ヘクタールの広い緑地を失うことになる。

平城宮跡の草地・湿地は、都市の中の貴重な自然環境を保持してきた。舗装予定地は半湿地で希少種を含む多様な生物の生息が確認されている。今回の第一次朝堂院広場の舗装や調整池設置工事は、面として機能する生態系に大きな打撃を与えるものである。一方、COP10での国際約束である「愛知目標」では「二〇二〇年までに、自然生息地の損失速度及びその劣化・分断を顕著に減少させる」ことが求められており、その達成にむけて策定された「生物多様性国家戦略」では「緑地における生態系ネットワークを形成し、都市における生物多様性の確保を図る」としていることから、まったく逆行している。

奈良文化財研究所が二〇〇四年にまとめた利用者アンケートでは、整備について「あまり手を加えず、現在の自然や歴史環境を保存する」が五十一・二パーセントと最も多く、半数を超えている。現在に至る宮跡の自然や歴史環境が、市民の憩いの場として半世紀以上親しまれ、評価されていることを政府はどう考えているのか。

調整池の工事の際、国交省側は「堤をつくるだけなので自然への影響はない」と市民に説明している。しかし、実際には猛禽類の飛来が確認されていた林の木が二十六本以上伐採されており、近畿有数の「ツバメのねぐら」となっている当該エリアから道路が素通しとなり、生息環境が脅かされている。

奈良県のレッドデータブックで希少種に指定されているカヤネズミなどの生育環境への影響調査を行ったのか。

九 第一次大極殿院の舗装と第一次朝堂院広場の土系舗装など、平城宮跡の大幅な現状変更により、木簡など埋蔵文化財を保護している地下水位の低下を引き起こすことが懸念されている。六十年ほど前の平城宮跡とその周辺では、自噴井戸が見られた。しかし現在は、国の委託調査(二〇〇〇年)で地下水位が地表から平均約一・五メートルにまで低下しており、専門家からは地下水の涵養が必要であることが指摘されている。

しかし政府は、計画する公園整備が地下水位に与える影響について事前の調査をしていないのではないか。

また今後、地下水位の低下が起こった場合に水位回復を図る実効ある措置が用意されているのか明らかにされたい。

十 国交省近畿地方整備局・事業評価監視委員会において二〇一〇年十二月に開かれた第四回目の委員会資料で、国営飛鳥・平城宮跡歴史公園の費用便益が計算されている。

このうち、平城宮跡歴史公園の費用設定の施設費としてあげられている建物復元整備と公園施設整備の施設費、用地費について第一次、第二次整備各々の費用と整備内容を明らかにされたい。

十一 平城宮跡の保全に関し、第三十五回世界遺産委員会(二〇一一年六月)決議に基づきユネスコ世界遺産センターに行った回答と資産の保全状況の報告を公表することを政府は拒否している。

国の特別史跡でもある平城宮跡の保全状況の評価を国民に公表する措置をとるのは当然である。

世界遺産条約や同条約履行のための作業指針などの関連法規に、この種の報告書の当該政府による公表を禁ずる規定はないと考えるがどうか。

右質問する。

参議院の原文・経過

政府答弁書

一について

平城宮跡の保存及び整備に当たっては、文化庁では、学識経験者等で構成される「平城宮跡及び藤原宮跡等の保存整備に関する検討委員会」(以下「検討委員会」という。)において検討を行っており、また、国土交通省では、学識経験者等で構成される「国営飛鳥・平城宮跡歴史公園平城宮跡区域(仮称)基本計画検討委員会」において、「国営飛鳥・平城宮跡歴史公園平城宮跡区域基本計画」(以下「公園基本計画」という。)案の検討を行い、公園基本計画案についてのパブリックコメントを実施するなど、学識経験者及び関係地方公共団体等の意見も参考にしてきたところである。

また、文化審議会文化財分科会における御指摘の「個々の現状変更許可」に係る審議の公開及び審議内容の公表については、同分科会における今後の中立公正な審議の遂行の支障となるおそれがあること等から、行わないこととしている。

二について

御指摘の「保存管理計画」については、「特別史跡平城宮跡保存整備基本構想推進計画」(平成二十年五月文化庁策定。以下「推進計画」という。)に基づき、奈良県が国等と連携して策定することとされており、同県において策定するものと認識しているが、政府としては、平城宮跡の管理等については、検討委員会等における議論を踏まえ、適切に行ってまいりたい。

三について

国土交通省としては、国営飛鳥・平城宮跡歴史公園平城宮跡区域(以下「国営平城宮跡歴史公園」という。)の整備については、「特別史跡平城宮跡保存整備基本構想」(昭和五十三年五月文化庁策定)や推進計画を踏まえて策定した公園基本計画に基づき実施しているところである。

四について

平城宮跡の整備については、世界遺産における完全性及び真正性の観点に十分に配慮し、適切に行っているものと認識している。なお、国際連合教育科学文化機関の顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護のための政府間委員会(以下「世界遺産委員会」という。)が平成二十三年に行った「古都奈良の文化財に係る決議」(以下「決議」という。)については、世界遺産委員会の事務局に我が国の考え方を報告書として提出したところである。

五について

国土交通省としては、国営平城宮跡歴史公園の整備については、「古都奈良の歴史的・文化的景観の中で、平城宮跡の保存と活用を通じて、奈良時代を今に感じる空間を創出する。」との公園基本計画における基本理念に沿って実施しており、「現代の建物を無秩序に増やす」ものではなく、「宮跡の歴史的・文化的景観を壊す」との御指摘は当たらないものと考えている。

また、同省としては、第一次朝堂院付近の休憩所等については、御指摘の「史跡等整備の手引き」も踏まえ、その設置場所を選定したところである。なお、当該休憩所等の設置に当たっては、文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)第百六十八条第二項の規定に基づき、文化庁長官の同意を得て行うこととしている。

六について

国土交通省としては、御指摘の「第一次朝堂院広場の舗装と調整池設置の工事」については、文化財保護法第百六十八条第二項の規定に基づき、文化庁長官の同意を得ていることから、平城宮跡の保護の観点から問題はないものと考えており、引き続き、適切に実施してまいりたい。また、文化庁としても、御指摘の「第一次朝堂院広場の舗装と調整池設置の工事」を含む平城宮跡の整備については、検討委員会において検討されており、御指摘の「今後の調査・研究」を阻害するものではないと考えている。

七について

文化庁としては、第一次朝堂院の広場の整備による地下遺構への影響については、建設機械による局部的な荷重負担等を防止する配慮がなされるとされていたこと、また、平城宮跡の地下水は、平城宮跡の周辺部北側から流入し、南側へ流出しており、当該広場の舗装が直下の地下水位に与える影響は少ないと考えられたこと等から、問題はないと判断したところである。

御指摘の「土系舗装の透水性」の試験については、国土交通省としては、現時点では行っていないが、今後、当該広場の舗装に実際に使用する土を用いて試験することを考えている。また、同省としては、御指摘の「地下遺構や木簡、生態系への影響」に関する調査については、土系舗装が自然素材である真砂土と少量のセメントの混合物により舗装するものであるため周辺環境と調和しやすく、史跡等の整備において多く用いられているものであることから、行っていない。

八について

国土交通省としては、平城宮跡が市街地に囲まれた広大なオープンスペースとして歴史体験や観光のほか、地域住民の日常的な多目的利用の場として幅広く活用されているものと考えている。これを踏まえ、公園基本計画においては、国営平城宮跡歴史公園に「導入すべき機能」として、「歴史・文化体感・体験機能」、「自然的環境保全・創出機能」等を設定するとともに、「空間配置計画」として、歴史資産の活用を主とする空間等を「シンボルゾーン」等と位置付け、また、歴史資産の保全活用と併せて景観や自然的環境の保全など多様な機能との調和を図る空間等を「緑地ゾーン」等として位置付けているものである。

また、国営平城宮跡歴史公園の整備に当たっては、継続的に自然環境調査を行うことにより動植物の生息状況を把握し、生態系に十分配慮することとしており、御指摘の「調整池」の整備に当たっても、御指摘のカヤネズミ等の生息状況を把握した上で実施しているところである。

九について

国土交通省としては、第一次朝堂院の広場の整備に当たっては、盛土工事に着手する前の平成二十四年四月から定期的に、当該広場の二地点で地下水位の調査を行っており、これまで盛土工事の施工後において地下水位が低下している傾向は確認されていないこと、また、七についてで述べたとおり、当該広場の舗装が直下の地下水位に与える影響は少ないと考えられることから、御指摘の水位回復のための措置は考えていない。なお、今後も地下水位のモニタリングを継続していくこととしている。

十について

御指摘の事業評価監視委員会が平成二十二年度に実施した事業評価時点における国営平城宮跡歴史公園の建物復原整備及び公園施設整備に係る施設費及び整備内容については、整備時期ごとに、それぞれ次のとおりである。

建物復原整備の第一次整備 五百六十六億五千三百万円 第一次大極殿院東西回廊、東西楼、南門等の整備

建物復原整備の第二次整備 九十六億三千六百万円 第一次大極殿院北面回廊等の整備

公園施設整備の第一次整備 八十二億三百万円 拠点ゾーン施設、園路広場、管理施設、調整池等の整備

公園施設整備の第二次整備 四十億七千二百万円 植栽、園路広場、管理施設等の整備

また、このほか、奈良県による公園施設整備の第二次整備における用地費として百三十六億円、施設費として八十八億七千二百万円を見込んでおり、その整備内容は、交通ターミナル等の整備である。

十一について

世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(平成四年条約第七号)や世界遺産委員会が平成二十四年七月に改訂した「世界遺産条約履行のための作業指針」においては、御指摘の「回答」等の公表を禁止する特段の規定はなく、公表するか否かの判断は同条約の締約国に委ねられている。

なお、決議を受けて、我が国が世界遺産委員会の事務局に提出した報告書については、これまで、世界遺産委員会における結論が示されておらず、当該報告書を公表することは、今後の世界遺産委員会における審議に影響を及ぼすおそれ等があることから、公表していないところである。

参議院の原文

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