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義歯の診療報酬の適正評価に関する質問主意書
衆議院 第126回 第8号承知していない ×2検討してまいりたい ×1
質問本文
今、高齢者の多くは快適な食生活を通して健やかな老後をおくりたいとの願いを強めています。国が現在推進している「八〇二〇運動」も重要な施策であり、官民一体となって大いに実効をあげていく必要があるでしょう。
しかし高齢者の現状はこの掛け声とは程遠く、多くの高齢者は入れ歯のお世話にならざるを得ない状況にあります。しかも昨年一月にNHKが放映した「入れ歯のハナシ」によれば、日本の入れ歯人口一千万人のうち約半数が入れ歯が合わないと悩んでおり、その構造的な原因の一つに保険制度の問題があることが明らかにされています。入れ歯に対する悩みについては、最近千葉県の歯科保険医の団体が県内の老人クラブを対象に実施したアンケート調査(回答数千二百人)でも同様の結果が出ており、使用感を含めて本当に入れ歯に満足しているお年寄りは全体の四割弱にしか過ぎず、残りの六割強は何らかの支障を訴えていることが明らかになっています。ちなみに保険診療で入れ歯を製作したお年寄りは全体の約七割でした。
一方、義歯を提供する側の歯科医療従事者も、低い診療報酬の中で様々な診療努力や経営努力を余儀なくされています。適合の良い義歯を製作するためには、十分な時間、手間ひまをかける必要がありますが、歯科医師は保険診療の不採算をカバーするために必要な診療過程の省略さえ余儀なくされています。歯科技工士に至っては低い工賃と長時間労働のもとで、専門職としての誇りが持てず、転廃業する者も続出しております。
厚生省はこれまで、義歯の部分は赤字であっても、全体として歯科医療経営が成り立てばよいとのトータルバランスの考えに基づいて歯科医療行政を行ってきましたが、事態は極めて深刻です。今後入れ歯を必要とする高齢者が増大し、その入れ歯が歯科医師にとって不採算であるということは、不採算が限りなく拡大していくことを意味し、そのような中にあっては適合の良い入れ歯など望むすべもありません。もしこのような状況が放置されるならば歯科医療経営が破綻するのみならず、国民の歯科医療そのものが成り立たなくなる恐れすらあります。
これらの状況を憂い、義歯の診療報酬の適正評価を求める立場から、左記の事項について質問致しますので、将来ビジョンを含めて明確に回答されるよう要望します。
一 厚生省は高齢化社会に向けた歯科保健対策の一環として「八〇二〇運動」を推進していますが、歯科疾患実態調査等によると残念ながら中長期的には喪失歯数の大幅な減少は見込めず、義歯の需要がますます増大することが予想されています。これらの状況を踏まえ、厚生省としてどのような施策を講じていくのか、成人歯科健診の制度化問題を含めてその方向性を明らかにしてください。
二 高齢化社会を迎え国民の義歯に対する要求はますます大きくなることが予想されていますが、歯科医療に対する各種世論調査では「保険給付の拡充」を望む声が圧倒的であり、高齢者の多くは「保険で安心して良質の義歯を作りたい」と願っています。厚生省は保険給付としての義歯の重要性をどのように認識しているのでしょうか。
三 平成二年に日本口腔保健協会が行った高齢者に対する歯の咀嚼機能回復モデル事業調査によりますと、上下とも入れ歯の具合が悪いと答えた人は八%、上下いずれかが具合が悪いと答えた人が九%でしたが、昨年報道されたNHKの入れ歯スペシャル番組では、入れ歯人口一千万人の内、約半数が「具合が悪い」としていました。厚生省としてはこの二つの調査結果のギャップをどう考えますか。また厚生省として独自に詳細な調査を行う意思はありますか。その見解を明らかにしてください。
四 義歯作製に係わる歯科医師の技術格差については、個々の歯科医師の技能や診療姿勢以外に、診療報酬など保険制度の問題があると言われています。厚生省はそれらの指摘を認めますか。また歯科医師の臨床技術を高めていくために、厚生省としては一般歯科医養成研修事業の推進以外にどのような方法を考えているか、見解を明らかにしてください。
五 昨年四月に診療報酬の改定が行われましたが、総義歯については印象採得や仮床試適、義歯指導料等で若干点数が引き上げられたものの、スタディモデルや補綴時診断料、咬合採得、製作料、装着料など基本的診療行為がすべて据え置かれ、「技術料重視」という掛け声とは程遠い結果に終わりました。これらの結果について厚生省としてどう評価し、今後どのようにすべきと考えていますか。
六 診療報酬の考え方について、厚生省は「全体の各技術の評価によって経営が成り立てば良い」という、いわゆるトータルバランス論を展開してきましたが、その考えは今日に至るも変化はありませんか。
七 歯科医師の義歯作製に係わる診療報酬は、総義歯上下の場合で約五万円であり、この五万円の診療報酬から従業員の人件費や技工料、材料代、水道光熱費等を賄うことになります。厚生省は歯科医療従事者が総義歯上下を作製するためにどの程度時間をかける必要があると考えているか、チェアサイド及びラボサイドのそれぞれについて明らかにしてください。
八 歯科治療の特殊性は、それぞれの診療行為に相当の時間がかかることであり、その時間のかけ方によって治療の質に差が出ることです。したがって歯科の技術料の適正評価という場合、少なくともハンドワーク部分については診療行為の平均的な所要時間に基づいて合理的に定めるべきと考えますが、厚生省としてはどのように考えますか。また厚生省として診療報酬の適正評価に向け、どのような具体案を検討していますか。
九 保険給付のレジン床義歯と保険給付外の金属床義歯について、人工臓器としての機能にどのような違いがあるのか、製作時間や使用材料等を含めて明らかにしてください。また片顎十五万円から三十万円といわれる金属床義歯の料金の妥当性及び片顎三万円といわれるレジン床義歯との料金格差をどのように考えるか、見解を明らかにしてください。
十 金属床義歯など保険給付外項目の保険導入について、患者・国民のニーズや歯科医師の技術料評価の在り方及び保険財源等との関連で、将来的にどうすべきと考えているのか、タイムスケジュールを含めて明らかにしてください。
十一 経済界のシンクタンクの一つである三菱総合研究所は「入れ歯は一兆円産業」として義歯が企業の巨大なマーケットになることを予測していますが、これは明らかに義歯が保険給付から除外されることを想定しており患者の不安をかき立てるものです。厚生省としては、将来にわたって義歯の保険給付を守ることを国民に明らかにすべきと考えますが、いかがでしょうか。
十二 「公的保険の補完」との触れ込みで、民間歯科保険が出回っていますが、発売開始以降の契約件数及び給付件数を年次別に明らかにすると共に、それらの動向について公的保険との関連でどう考えるか、また今後生保業界をどう指導していくのか、厚生省の見解を明らかにしてください。
十三 今後、人口の高齢化が進み、高齢者の所得水準が低下することが予想される中で、保険の義歯に対するニーズはますます大きくなりますが、一方で歯科医師の診療報酬が不採算のまま放置されるならば、厚生省のトータルバランス論が破綻するのみならず、保険で義歯を製作する歯科技工士がいなくなり、歯科医療そのものが成り立たなくなる危険性も高いと思われます。厚生省としてはどのような基本方針で対応していきますか。
十四 低い技工料金と劣悪な労働条件、苛酷な同業者間競争の中で、歯科技工士の転廃業が進んでいますが、厚生省としては歯科技工士の役割をどのように認識し、高めようとしていますか。また歯科技工士など国家資格を持つ専門職の技術料については、診療報酬の中できちんと位置付け、評価すべきと考えますが、そのような考えはありませんか。
十五 医療保険審議会などで、医療制度の「抜本改革」に向けた審議が行われており、その中で公的保険の役割や保険給付の範囲などが有力な検討課題となっています。しかし保険給付範囲を縮小したり変動給付率制を導入することは、国民の受診を狭め疾病の重症化をもたらし、ひいては医療費増の悪循環を招く恐れがあります。したがって医療制度の「抜本改革」を行う場合は、小手先の医療費抑制ではなく、疾病予防や保険給付の拡充を含めた総合的な対策が必要と考えますが、厚生省の見解はいかがでしょうか。
右質問する。
政府答弁書
一について
国民の歯の健康づくりについては、平成元年十二月から「八〇二〇(ハチマル・ニイマル)運動」を推進しているところであり、平成四年度からはその一層の推進を図るため、推進会議の設置、歯の健康づくりに関するイベント、実践指導者に対する講習会等を行う都道府県に対する補助を実施し、更に平成五年度からは、「八〇二〇運動」を推進している都道府県の担当者等による報告会の開催に補助を行っており、今後こうした事業を推進することにより、国民の歯の健康状況の改善に努めてまいりたい。
なお、成人歯科健診の制度化については、現在成人歯科保健事業及び歯周疾患予防モデル事業を行い、健康診査の方法、有効性等について調査しているところであり、この結果を踏まえ、今後の対応について検討してまいりたい。
二について
国民が健康を保持・増進し、快適な生活を営む上で、食生活が重要であること、今後、高齢化が一層進展し、義歯を必要とする人が増加することが予想されること等にかんがみ、義歯の役割についてはその重要性を認識しているところであり、これまで、保険診療において良質な義歯が製作できるよう、診療報酬上の適切な評価に努めてきたところであるが、今後とも適切に対処してまいりたい。
三について
日本放送協会の調査については、詳細を承知していないため両者を比較することはできない。また、厚生省として調査を行うことは計画していない。
四について
保険診療において良質な義歯が製作できるよう適切な評価が行われているものと考えており、御指摘は当たらないものと考えている。
また、歯科医師の臨床技術の向上については、一般歯科医養成研修事業を実施しているところであり、今後ともその向上に努めてまいりたい。
五について
平成四年四月における診療報酬の改定に当たっては、技術料重視の観点から、良質な総義歯が製作できるよう適切な評価が行われたものと考えている。
個々の診療行為の診療報酬上の評価については、今後とも、中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)の議論を踏まえ、適切に対処してまいりたい。
六について
診療報酬の改定に当たっては、従来から、中医協の医療経済実態調査により医業経営の実態を把握し、あわせて、物価及び賃金の動向等医療を取り巻く諸状況を総合的に勘案するとともに、中医協の議論を踏まえ、全体として健全な医業経営が確保されるよう努めてきたところである。
また、個々の診療行為の診療報酬上の評価についても、医療の実態を勘案し、中医協の議論を踏まえ、適切な評価が行われている。
七について
総義歯の製作に必要な時間については、顎堤等口腔の状態、歯科医療従事者の経験等によって差異が生じるものであり、個々の診療において異なるものと考えている。
八について
歯科診療報酬における個々の技術の評価については、医学的な有効性や費用の合理性等様々な要素を総合的に勘案して、中医協の議論を踏まえ、適切な評価が行われている。
今後とも、中医協の議論を踏まえながら、技術料重視の観点から、適切に対処してまいりたい。
九について
金属床義歯は床部分に金属を、レジン床義歯は床部分にレジンを使用するものであり、金属床義歯の製作には床部分を金属で作成する工程が必要であることから、レジン床義歯と比べて、一般的に製作時間が長くなるものと考えられるが、金属床義歯がレジン床義歯と比べ医学的な有効性が高いかどうかについては、必ずしも明確でないと考えている。
また、保険給付の対象外である金属床義歯の料金は、医療機関と患者の間で決定されるものであり、その妥当性について判断することはできない。なお、保険給付の対象であるレジン床義歯については、診療報酬上適切な評価が行われているものと考えている。
十について
保険給付の対象外とされている診療のうち、保険診療上の有用性が認められるものについては、中医協の議論を踏まえながら、適宜、保険導入を図っているところであり、今後とも、中医協の議論を踏まえつつ適切に対処してまいりたい。
なお、金属床義歯については、平成三年十月の中医協の歯科小委員会において、保険診療上の有用性と審美性・快適性との関連性等についてなお慎重に検討する必要があるとの考え方が示されているところである。
十一について
義歯については、その重要性を認識しており、保険給付から除外することは考えていない。
十二について
民間歯科医療保険については、公的医療保険の給付の対象とならない歯科診療を受けたときに一定額を支給するものが昭和六十三年から発売されているが、その契約件数及び給付件数は、公表されておらず、承知していない。
また、国民にとって必要な医療は公的医療保険を中心に保障されるべきものと考えているが、医療に対する国民のニーズの高度化・多様化に適切に対応するため、公的医療保険を補完し、その趣旨を損なうことがないよう配慮しつつ、民間医療保険の適切な導入及び普及が図られることが望ましいと考えている。なお、公的医療保険と民間医療保険との関係については、医療保険審議会において検討が進められることとなっており、その検討内容等も踏まえ、適切に対応してまいりたい。
十三について
歯科医療については、従来から、医療経済実態調査の結果等を勘案しつつ、中医協の議論を踏まえ、健全な歯科医業経営が確保されるよう診療報酬改定を行ってきたところであり、義歯の製作等歯科技工に関連する技術についても適切な評価が行われているものと考えている。
今後とも、中医協の議論を踏まえ、適切に対処してまいりたい。
十四について
高齢社会を迎え、国民に良質な義歯等を供給していく上で、歯科技工士の果たす役割は重要であると認識している。このため、高度な技術水準を有する資質の高い歯科技工士が養成されるよう、先般、歯科技工士養成所指定規則等の一部改正を行い、一学級当たりの定員、養成所の学科課程等の見直しを行ったところである。
また、医療における種々の診療行為をどのように特掲して評価していくかについては、従来から、専門技術的な観点も含め、中医協の議論を踏まえて判断しているところである。歯科技工に係る評価については、歯科技工に関する歯冠修復等の一連の行為を一体的に評価することが適切であるとの考え方から、これを細分化せず、評価しているところであり、今後とも、中医協の議論を踏まえつつ、適切に対処してまいりたい。
十五について
高齢化の進展、疾病構造の変化、国民の生活水準の向上、医療に対する国民のニーズの高度化・多様化等社会経済情勢の変化等を踏まえ、今後の本格的な高齢社会においても、良質な医療を効率的かつ安定的に供給できるよう、医療保険制度の改革を図る必要があり、昨年創設された医療保険審議会において、現在進められている公的医療保険の役割、保険給付の範囲・内容、給付と負担の公平等医療保険制度全般にわたる幅広い観点からの審議内容等を踏まえ、適切に対応してまいりたい。
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