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義歯の診療報酬の適正評価に関する質問主意書
衆議院 第129回 第1号お答えすることは困難 ×2
質問本文
近年、「保険でよい入れ歯を」の要望が高まり、その実現を求める地方議会決議も干五百を超えています。その背景には、高齢者が増え、入れ歯人口が一〇〇〇万人を超えていながら、入れ歯が合わず、「噛めない」「話せない」「笑えない」といった深刻な悩みを持つ人々がますます広がっているという現状があります。同時にその主な原因が、個々の歯科医師の技術にあるのではなく、歯科診療報酬が低いことにあり、国の歯科政策の問題として、多くの国民が認識するようになってきたことの反映でもあります。
政府・厚生省は、これまでも国民の健康維持・増進、病気予防を重視すると説明してきました。しかし、問題は、病気予防を大きな視野に立ってとらえることです。そして「合わない入れ歯」の放置がいかに国民の健康維持に否定的な影響を与えているのかを直視しなければなりません。合わない入れ歯が、食物の咀嚼を遠ざけ、人との会話も消極的にするなど、食生活面でも悪影響を及ぼし、健康被害の要因となることは、体験的にも最近の各種調査でも実証されています。このことを考えるなら、十分に手間・ひまをかけて良く合う入れ歯を製作するのに相応しい診療報酬に改善することが、国民の健康を維持し、病気予防にも貢献することになることは明らかです。
また、入れ歯をはじめとした歯科医療問題を解決するために、歯科診療所が経営維持のため収入の一部を患者の保険外負担に求めざるを得ないという歯科医療政策の長年の構造的矛盾を改めることが重要です。
義歯等の診療報酬の引き上げについては、国会でも再三の質疑が行われ、各議員から多くの質問主意書が提出されています。しかし、政府の回答はいずれも真正面から答えたものとはいえません。
そこで、以下の点についてあらためて質問し、回答を求めます。
一 「保険でよい入れ歯を」の国民の世論が広がり、自治体の半数に迫る地方議会で意見書採択が相次いで行われていますが、このような現状を政府はどのように受けとめ、対応しようとしているのか、明確な回答を示していただきたい。
二 「合わない入れ歯」の主要な原因は、入れ歯の設計・製作・調整が精緻な技術と時間を要するにもかかわらず、その技術に対する評価(診療報酬)が極めて低いことが指摘されています。厚生省は「適正に評価している」としていますが、診療に携わる歯科医師の大半が、いまの保険点数ではあまりにも低すぎて、手間・ひまをかけるほど赤字になると答えています。この現実をどのように考えているのか。報酬は適正であり、問題なしというならば、合わない入れ歯の主要な要因は何であると考えているのか、その見解を述べていただきたい。
三 「入れ歯」にかかわる保険点数を、設計・製作・調整などに費やす平均労働時間をもとに換算すると到底正当な報酬とはいえません。にもかかわらず、「適正に評価している」というならば、歯科医師の入れ歯の設計・製作・調整に関する平均的労働時間をどれくらいにみているのか。そして、時間報酬に換算するなら、一時間当たり金額にして何円の報酬になるとみているのか、明確に示していただきたい。
四 熟練した技術をもつ歯科技工士が、低コストの技工料によって長時間労働を強いられ展望がもてず、転職する事態が相次いでいます。そもそも義歯の製作にかかわる報酬が低いうえ、技工士の技術料は義歯製作料に含まれるという現行体系は、専門職の労働を正当に評価しようとしないものです。厚生省は技工士の技術料については「歯冠修復等の行為と一体的に評価することが適切との考えであり、細分化しない」として、この不合理に固執していますが、それはそもそも義歯を歯科医師が製作していた時代の考え方であり、技工士の専門技術を否定する暴論です。「製作料に技術料は含まれる」というならば、一体いくら含んでいるのか明確にしてください。また、これについて今後どのように改善していく考えがあるのかどうか、お答えしていただきたい。
五 中医協の「医療経営実態調査」報告の公表は、四月の診療報酬改定後となり、多くの医師から批判が集中しています。「医療経営実態調査」の結果をふまえた診療報酬の改定を、本当に行うのであれば、そのもとになる調査報告を診療報酬改定論議の前に、国民や関係者に公表すべきであると考えますが、政府の見解を示していただきたい。
六 厚生省の「保健福祉動向調査」(八七年)によれば、国民の歯科医療に対する要望の第一に「保険の範囲をひろげてほしい」との項目があげられます。不況、国民の生活悪化のひろがりのもとで、その要求はますます切実になっています。この問題の背景に、日進月歩の歯科医療技術を保険に導入せず、患者負担にするのは当然という歯科医療軽視の考えが、長年にわたって踏襲されてきたことと結びついています。これをあらため基礎的技術料の適正評価を前提にして、新しい歯科医療技術も特定療養費としてではなく、全部保険で給付するという基本にたつことが必要と考えます。この点について見解を明らかにしていただきたい。
七 「八十歳で二十本の歯を残そう」という「八〇二〇運動」に厚生省も取り組んでいますが、これを実効あるものにするため、老人保健法、労働安全衛生法にもとづき地域や職場での歯科健診の創設、ブラッシング指導など歯の健康と予防に対する適正な報酬制度に見直す必要があると考えます。この点での見解を示していただきたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
歯科診療報酬については、従来から技術料重視の考え方に立ち、診療報酬の改定の都度、技術料の引上げ等が行われてきているところであり、良質な義歯が作成できるよう適切な評価が行われている。今後とも、中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)の議論を踏まえ適切に対処してまいりたい。
二について
義歯の作成に要する時間は、患者の顎堤等口腔の状態、歯科医療従事者の経験等によって差異が生じるものと考えられるが、歯科診療報酬において、全体として良質な義歯が作成できるよう適切な評価が行われている。
また、入れ歯が適合しなくなる原因は、歯科医学的には、義歯装着後の年月の経過に伴う義歯床下の顎堤の吸収等によるものとされている。
なお、平成六年四月の診療報酬改定において、有床義歯の装着後、定期的に検査を行い、その適合を図るための調整等を行う必要があるとの観点から、有床義歯の長期的な調整指導についての評価を行うこととしている。
三について
義歯の作成に関する評価を含め、診療報酬は物価及び賃金の動向、医業経営の実態等医療を取り巻く諸状況を総合的に勘案して決定されているものであるため、義歯の製作等に関する平均的な労働時間及び時間当たりの単価を示すことは困難である。
四について
義歯に関する製作管理及び製作技工は一連の行為であるため、診療報酬において歯冠修復及び欠損補綴料として一体的に評価しているところであるが、このうち製作技工に要する費用は、おおむね百分の七十と考えている。
なお、平成六年四月の診療報酬改定において、歯冠修復及び欠損補綴に関する評価について引上げを行うこととしている。
五について
中医協の実施する医療経済実態調査は、病院、一般診療所及び歯科診療所を対象とするため対象数が極めて多く、結果の取りまとめに時間を要するが、医療機関の収支の動向については速報値として、診療報酬改定前に取りまとめられ、中医協における診療報酬改定の資料とされているところである。
なお、今回の速報値については、中医協における議論の結果、平成五年十二月に公表されたところである。
六について
医療保険は、広く国民から集めた保険料を主たる財源とするものであることから、すべての医療技術がその給付の対象とされるのではなく、新しい歯科医療技術について給付の対象とするか否かは、その普及性、有効性、効率性などを総合的に勘案し、中医協の審議を踏まえ、決定することとしている。
なお、一般に普及していない高度な医療技術を用いた医療行為であるが、将来の保険給付の対象となる可能性のあるものについては、中医協の審議を踏まえ、まず高度先進医療として承認し、その基礎的部分について保険給付を行うこととしている。
七について
地域における歯科健診については、老人保健法(昭和五十七年法律第八十号)による実施を検討するため、市町村において平成四年度から歯周疾患予防モデル事業を実施している。なお、老人保健法の保健事業において、壮年期からの歯の健康づくりとして歯の健康教育、歯の健康相談及び家庭において寝たきりの状態にある者等に対する訪問口腔衛生指導を実施している。
また、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に基づく健康診断は、主として労働がもたらす労働者の健康障害の早期発見及び進行の防止を目的として、その実施が事業者に義務付けられているものであり、一般的な健康診断の項目として歯科健診を追加することは、同法に基づく健康診断の性格上なじまず、困難である。
さらに、歯の健康管理に関する診療報酬上の評価については、平成五年九月に取りまとめられた「中央社会保険医療協議会診療報酬基本問題小委員会報告」において、歯周疾患等について技術の進展や疾患の変化に伴い治療と併せて管理が重要となってきている旨指摘されているところであり、今後の中医協の議論を踏まえつつ適切に対処してまいりたい。
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