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「慰安婦」問題の教科書掲載に関する再質問主意書
衆議院 第141回 第13号
質問本文
私は、平成九年十月六日に『「慰安婦」問題の教科書掲載に関する質問主意書』を提出し、本年度より使用されている複数の中学校社会科・歴史の教科書に、「従軍慰安婦」なる用語が使われていること、慰安婦が「強制連行された」と解釈できる表現が使われていることを取り上げた。
これらの記述と義務教育諸学校教科用図書検定基準(平成元年四月四日・文部省告示第四十三号)の「教科用図書の内容は(以下「図書の内容」という。)は、その学年の児童・生徒の心身の発達段階に適応しており、その能力からみて程度が高過ぎるところ又は低過ぎるところはないこと」「図書の内容に、特定の事柄を特別に強調し過ぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと」「図書の内容に児童・生徒がその意味を理解するのに困難であったり、誤解したりするおそれのある表現はないこと」「未確定な時事的事象について断定的に記述しているところはないこと」等の規定との整合性につき質問したものである。
これに対して平成九年十月二十四日に橋本※(注)太郎内閣総理大臣より衆議院議長に送付された答弁書を拝受した。答弁内容に対して、以下の事項について質問する。
一 答弁書には、歴史教科書の検定は、「検定の時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして審議された結果に基づいて行われるものである」とある。
各教科書には次の記述が見受けられる。
日本書籍 「慰安婦として従軍させ」(二六四ページ)
東京書籍 「従軍慰安婦として強制的に戦場に送りだされた若い女性も多数いた」(二六三ページ)
大阪書籍 「朝鮮などの若い女性たちを慰安婦として戦場に連行しています」(二六〇〜二六一ページ)
教育出版 「多くの朝鮮人女性なども、従軍慰安婦として戦地に送り出された」(二六一ページ)
清水書院 「朝鮮や台湾などの女性のなかには戦地の慰安施設で働かされた者もあった」(二五九ページ)
日本文教出版 「慰安婦として戦場の軍に随行させられた女性もいた」(二五二ページ)
ここで「従軍慰安婦」という用語と「強制連行」を印象付ける表現に関する検定審議に限って、次の点を明らかにされたい。
1 答弁書で言う「検定の時点」とはいつか。
2 答弁書で言う「客観的な学問的成果」とは、具体的に何を指すか。
3 平成九年三月十二日の参議院予算委員会において、小山孝雄委員の質問に対して、平林内閣外政審議室長が「従軍慰安婦に関する限りは強制連行を直接示すような政府資料というものは発見されませんでした」と答弁している。
それでは、答弁書で言う「適切な資料」とは何か、資料名を具体的に示されたい。また、その資料を「適切」と判断した根拠は何か。
4 答弁書には「審議された結果」とあるが、それを検討するために、審議の議事内容を開示していただきたい。もしも、議事録入手に手続きが必要な場合は、その方法を教えてほしい。
二 「慰安婦」に関する記述について、答弁書では「平成五年八月の政府調査結果等種々の調査研究が発表されていること」「この問題が社会的に広く取り上げられていること」などから「その記述が認められた」としているが、次の点を問う。
1 ここで言う「種々の調査研究」とは具体的に何を指すのか、全て明示されたい。
2 平成九年三月十二日の参議院予算委員会において、平林内閣外政審議室長が、平成五年八月の政府調査結果について、「政府の発見した資料の中には強制連行を直接示す記述は見当らなかった」「ほかの証言、資料等も含めて総合的に強制的な要素があった」「個々の証言を裏付ける調査は行わなかった」ことを明らかにしている。
政府は、現時点においても、平成五年八月の政府調査結果の事実における信憑性に確信を持っているか。
3 平林内閣外政審議室長が明らかにした平成五年八月の政府調査結果の実態を踏まえた上で、次回検定審議において、教科書の「慰安婦連行の強制的要素」を示す記述は新たな視点で検討されるべきと考えるかどうか。
4 答弁書では「この問題が社会的に広く取り上げられている」としているが、私は、この問題が社会的に広く取り上げられている中に、「従軍慰安婦」という用語そのものに否定的な考え方や連行の強制的要素を否定する考え方も多く存在すると認識している。
政府は、これらの否定的な見解についても勘案するべきとは考えないのか。
三 答弁書には「従軍慰安婦という用語については、辞書等にも広く収録されるなど、広く社会一般に用いられていることから、教科書においてもこの用語を許容しているところであり、検定は適切に行われたものと考えている」とあるが、次の点を問う。
1 主要辞典の中で、「日本国語大辞典」(小学館)、「大辞泉」(小学館)、「万有大百科事典」(小学館)、「ブリタニカ国際大百科事典」(TBSブリタニカ)では、「慰安婦」という項目はあっても「従軍慰安婦」という用語は収録されていない。
「広辞苑」(岩波書店)では、平成四年に宮澤首相が慰安婦問題で韓国に謝罪した後の平成四年十二月発行の第四版第二刷から「従軍慰安婦」という用語を収録しているが、第四版第一刷(平成三年十一月発行)までは収録されていなかった。「大辞林」(三省堂)でも、第一版(昭和六三年十一月発行)では記述されていなかった「従軍慰安婦」の用語が第二版(平成七年十一月発行)から突然収録されたが、「女子挺身隊」と混同した誤った説明がなされている。「国史大辞典」(吉川弘文館)、「世界大百科事典」(平凡社)、「日本史大事典」(平凡社)でも「女子挺身隊」と混同して「従軍慰安婦」という用語を説明している。
以上のように、辞書によって「従軍慰安婦」という用語の扱いはまちまちで、「辞書等にも収録されるなど、広く社会一般に用いられている」状況にあるとはとても考え難いが、改めて政府の状況認識を問う。
2 その用語が辞書等に収録されることをもって教科書における使用を許容するのであれば、政府は「辞書の記述が正確」であることに責任を持てるのかどうか。
3 例えば、平成九年三月十二日の参議院予算委員会で、平林内閣外政審議室長が「慰安婦と女子挺身隊は全く異なるもの」と答弁しているが、「大辞林」(三省堂)では「従軍慰安婦」について「朝鮮などアジアから女子挺身隊の名で動員され、兵士相手に慰安所で性の相手となることを強要された女性たち」と説明している。「国史大辞典」(吉川弘文館)、「世界大百科事典」(平凡社)、「日本史大事典」(平凡社)でも同様の混同が見られる。
政府見解と異なる内容の辞書も存在する現状で、教科書における用語許容の理由の一つとして「辞書等への収録」を挙げられた答弁に納得しかねるが、この点についてどう考えるか。
4 第二次世界大戦中に「従軍慰安婦」という用語は、広く社会一般に用いられていたと考えるか。
5 「従軍慰安婦」という用語が「広く社会一般に用いられている」と政府が理解したのはいつからか。
四 「従軍慰安婦」という用語について、答弁書では「従軍とは、軍隊に従って戦地に行くことを言い、軍の人、兵士等軍に所属する人が軍隊と共に戦いに行くことという意味のほかに、兵士でない者が軍隊について戦地に行くことという意味があるとされているところである」と記してある。
例えば、「従軍看護婦」は、法令上の用語ではないが、軍属たる身分を有するので「従軍・・」という呼称の使用は当然と考える。また、「従軍神職僧侶教師」ならびに「従軍記者」は、軍属ではないが、法令で定められた身分に基づき、指定された部隊に配属され、軍の規律に服したことから「従軍・・」の呼称は問題ないと思う。
これに対して、「慰安婦」は、軍属でもなければ、法令によって「従軍」したものでもない。軍隊の駐屯地周辺に開設された戦地娼家であった慰安所において、接客を生業とする従業員として雇用された者に過ぎない。
1 以上のことから、例えば「従軍商人」といった呼称が使われていないのに、商業行為をしていた者の中で慰安婦にのみ「従軍」を付けることは、いかにも不自然な感じを受けるが、そうでないと判断する理由は何か。
2 「従軍慰安婦」という呼称は、「従軍看護婦」「従軍神職僧侶教師」「従軍記者」が担った公的な「従軍」の実質が無いにもかかわらず、これらと同様の「従軍」をしたものと混同・誤解される恐れが大いにあり、検定基準の「図書の内容に、児童・生徒がその意味を理解するのに困難であったり、誤解したりするおそれのある表現はないこと」という規定に整合しないと考える。改めて政府の見解を問う。
3 ここに例示したもの以外で、「兵士でない者が軍隊について戦地に行くこと」をもって「従軍・・」と呼称されている例を全て列挙願いたい。
五 多くはまだ性体験そのものがないはずの中学生に対し、軍の慰安婦という極めて難しい「性」の問題をあえて教科書で取り上げ、学校教育の場で教師が教えることは、「その学年の児童・生徒の心身の発達段階に適応しており、その能力からみて程度が高過ぎるところ又は低過ぎるところはないこと」という検定基準の規定に整合しないのではないかと質問した。
これに対する答弁書には、「中学生の心身の発達段階にかんがみれば、中学生が先の大戦の悲惨な状況を学習する際の歴史的事象の一つとして理解することは可能であると判断されたところである」と記されていたが、次の点を問う。
1 「慰安婦」に関する記述について「歴史的事象の一つ」としているが、改めて確認するが、政府は、平成九年度の各教科書にある「従軍慰安婦」なる用語と連行の強制的要素を示す表現について「歴史的事象の一つ」と断定しているのか。
2 「慰安婦」は、あくまでも歴史的事象の一つであり、性の問題とは無関係と考えているのか。
3 「慰安婦とはどういう女性であるか」と生徒から質問があった場合、教師はどう答えるのが好ましいと考えるか。
4 「中学生の心身の発達段階にかんがみれば」とあるが、政府が考える「現在の中学生の心身の発達段階」とはどのようなものか。
5 政府が把握する「中学生の心身の発達段階」の根拠は何か。
6 前回の教科書検定時に較べて、中学生の心身の発達段階に変化はあったか。
7 文部省の中学校学習指導要領では、社会科の目標について、「広い視野に立って、我が国の国土と歴史に対する理解を深め、公民としての基礎的教養を培い、国際社会に生きる民主的、平和的な国家.社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」と記している。歴史的分野の目標については、「我が国の歴史を、世界の歴史を背景に理解させ、それを通して我が国の文化と伝統の特色を広い視野に立って考えさせるとともに、国民としての自覚を育てる」と記している。
「自国の歴史を学習して」という中学生のレポートに「自分の国がいやになってしまう」「日本という国はアジアの中で一番野蛮な国なのだ」などと書かれている現状を知るにつけ、文部省学習指導要領の目指す目標は達成できていないと感じる。
本年度使用されている教科書の「慰安婦」に関する記述内容は、前記の文部省学習指導要領の目標達成に寄与するものと考えているのか。
右質問する。
政府答弁書
一の1について
御指摘の教科書の検定の時点は、平成七年四月に検定の申請の受理を行った時から、平成八年二月に検定の決定を行うまでの期間である。
一の2及び3について
御指摘の教科書の記述に係る検定については、教科用図書検定調査審議会(以下「検定審議会」という。)において、検定当時に発表されていた調査研究をも参考としつつ、平成五年八月の政府調査結果(「いわゆる従軍慰安婦問題について」)(以下「政府調査結果」という。)に照らして審議されたところである。
一の4について
教科書の検定に関しては、検定審査終了後、申請図書、検定合格した見本本、検定意見箇所の一覧、主な検定意見の概要及び不合格となった図書についての不合格理由書を公開しているところである。
検定審議会教科用図書検定調査分科会の審議内容については、この分科会が検定の決定又は検定審査不合格の決定という行政処分に係る審議を行っており、委員の自由な議論を確保し審査の公正を担保する等の観点から、従来より非公開としているところである。
二の1について
検定当時においては、「慰安婦」の問題に関する数多くの出版物等が存在していたと認識している。
二の2について
いわゆる従軍慰安婦問題に関する政府調査においては、発見された公文書等には、軍や官憲による慰安婦の強制連行を直接的に示すような記述は見られなかった。他方、調査に当たっては、各種の証言集における記述、大韓民国における元慰安婦に対する証言聴取の結果等も参考としており、これらを総合的に判断した結果、政府調査結果の内容となったものである。
政府調査結果は、政府として全力を挙げて誠実に調査した結果を全体的に取りまとめたものであり、政府としては、これまでのところ、政府調査結果の内容を変更すべき事由はないものと考えている。
二の3について
中学校教科書に係る次回の検定審議においては、著作者又は発行者によって文部大臣に検定申請された図書について、検定審議会において当該検定の時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして審議されるものと考える。
二の4について
「慰安婦」の問題については、御指摘のような見解があることは承知している。このため、「慰安婦」に関する記述についても、著作者又は発行者によって文部大臣に検定申請された図書について、検定審議会において検定の時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして審議が行われ、その結果、この記述が認められたところである。
三の1及び3並びに四の1及び2について
「従軍慰安婦」という用語については、検定審議会における審議を踏まえ、複数の辞書等にもその用語が収録されていることを始め、広く社会一般に用いられている状況にあることから、教科書においてもその用語を許容しているところである。
三の2について
「従軍慰安婦」という用語については、検定審議会における審議を踏まえ、複数の辞書等にもその用語が収録されていることを始め、広く社会一般に用いられている状況にあることから、教科書においてもその用語を許容しているところであり、このことは、辞書の記述が正確であることに責任を持つことを意味するものではない。
三の4及び5について
歴史教科書の検定は、特定の用語がいつから広く社会一般に用いられていたのかを審議するものではなく、著作者又は発行者によって文部大臣に検定申請された図書について、検定審議会において検定の時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして審議された結果に基づいて行われるものである。
平成九年度から使用されている中学校社会科(歴史的分野)の教科書の検定の時点においては、「従軍慰安婦」という用語は、辞書等にも収録されるなど、広く社会一般に用いられているものと認識していた。
四の3について
平成九年度から使用されている中学校社会科(歴史的分野)の教科書の中で、第二次世界大戦中のこととして、再質問主意書に例示されているもの以外に「従軍」を付した用語を使用しているものはない。
なお、辞書等の中には、例えば「従軍作家」という用語を収録しているものもあるところである。
五の1について
検定審議会においては、「慰安婦」の問題は先の大戦の悲惨な状況を学習する際の歴史的事象の一つと判断されたところである。
五の2について
「慰安婦」の問題は、性の問題とも関連を有すると考えるが、歴史教科書においては、歴史的事象の一つとして扱われているものである。
五の3から5までについて
中学校の段階においては、一般的に、心身の発達が著しく、性的にも成熟し、また、知的な面でも抽象的、論理的思考が発達するとともに、社会性なども発達してくると言われており、検定審議会において、「慰安婦」の問題を先の大戦の悲惨な状況を学習する際の歴史的事象の一つとして理解することが可能な発達段階と判断されたものである。
なお、小学校における、基本的人権の尊重、男女の体のつくりや年齢による体の変化などの学習の上に立って、中学校においては、例えば、男女の人間関係の在り方や、心身の機能の発達を学習する中で身体各器官の機能や身体の発達に伴う二次性徴の出現などについて学習することとされている。
「慰安婦」の問題については、先の大戦の悲惨な状況を学習する中で扱われることとなるが、生徒から質問があった場合、教員は質問の趣旨などを踏まえ、それぞれに応じて対応すべきものと考える。
五の6について
前回の教科書検定の時期と平成九年度から使用されている教科書の検定の時期とを比較して、中学生の心身の発達段階に大きな変化があったとは考えていない。
五の7について
平成九年度から使用されている中学校社会科(歴史的分野)の教科書については、著作者又は発行者によって文部大臣に検定申請された図書について、義務教育諸学校教科用図書検定基準(平成元年文部省告示第四十三号)の定めるところを検定の基準として、検定審議会において検定の時点における客観的な学問的成果や適切な資料等に照らして審議された結果に基づいて検定が行われたものであり、中学校学習指導要領(平成元年文部省告示第二十五号)に定める社会科及び歴史的分野の目標に照らして適切なものであると考える。
歴史教育においては、教科書を主たる教材として使用しつつ、客観的、学問的な研究成果を踏まえて、事実は事実として正しく教えるとともに、生徒が歴史の教訓を未来に生かし、我が国の歴史や文化を大切にし、日本人としての自覚を持って、国際社会の中で生きていくことができるよう、指導の充実を図ることが重要であると考える。
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