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徳山ダム建設事業地域に棲息する大型猛禽類に関する質問主意書

衆議院 第147回 第13号

提出者
衆議院
提出日
2000年3月3日
内閣転送 2000年3月6日
答弁書受領日
2000年4月21日
提出から49日
答弁の項目数
11
質問 3,171字/答弁 2,862字

質問本文

昨年9月、水資源開発公団(以下、公団という)は、徳山ダム建設事業地域における大型猛禽類の調査データを、日本自然保護協会(以下、NACS−Jという)に渡し、公表に関しての助言を求めた。12月、NACS−Jは、調査結果についてのNACS−Jとしての見解を添付して公団に返却した。この添付文書によれば、徳山ダム建設事業地域には、少なくともイヌワシ5番・クマタカ17番の棲息が確認され、全国有数の大型猛禽類の棲息地帯であること、公団は適切な調査を行っておらず、保護策を検討することもできない状況であることが明らかになった。NACS−Jは「一度全ての計画及びそのスケジュールを見直」すべきだと指摘している。ところが、公団は、このNACS−Jの見解の公表と同じ日に即刻「専門家の意見でも、聞けないものもある」として、工事計画・スケジュールの見直しは一切しない旨を明らかにした。

1月5日、公団は、本体工事の入札公告を行い、3月中にも本体工事に入るとの態度を示している。

この問題への対策は緊急を要すると考えられる。

従って、次の事項について質問する。

一 昨年6月23日、当該地域でクマタカの営巣木近くで公団が工事を進めていたことが明らかになった際、環境庁は、流域住民グループに対して、「事業者は環境庁指針を守り、専門家の助言を得て工事を進めていると聞いているので、状況を見守りたい」旨を述べた。これは環境庁指針を守らず、専門家の助言に耳を貸さないことが明白になった時は、環境庁としても何らかの積極的な対応をするという趣旨と受け取れる。

今般、事業者は「専門家の助言」を拒否する旨を明確に明らかにした以上、環境庁としてはもはや看過できない、積極的に対応する段階に入ったと考える。環境庁としての見解を明らかにされたい。

二 イヌワシについて

イヌワシは、国の天然記念物でもあり、また「第二のトキ」といわれるほどに絶滅が危惧されている生物である。繁殖の保障が重要なのはもちろん、今生きている個体の維持もまた無視できない。

1 公団による「徳山ダム ワシタカ類に関する資料」(以下、公開資料という)の一〇一ページ、一〇三ページによれば、イヌワシDつがいは、まさに徳山ダム湖予定地そのものを行動圏としており、仮にダムができれば甚大かつ壊滅的な影響を受けることは必至である。これに対する保護策は現に存在せず、また専門家(NACS−J及び日本イヌワシ研究会のメンバー)によれば保護策を検討するだけの調査ができていない。

この段階で、「ダム計画・スケジュールは変更しない。本体工事を進める」ということは、少なくともDつがいについては公団は「死んでも仕方がない」という判断をなしたも同然であるが、これについて、環境庁の見解を明らかにされたい。

2 同じ資料によれば、Fつがいもその行動圏の一部がダム湖予定地にかかるが、公団としては、調査対象にもせずにその存在を無視して工事を進める姿勢であるが、このことを環境庁はいかに考えるか、明らかにされたい。

3 徳山ダム事業予定地域に関係するだけでも5つがい若しくは6つがいのイヌワシが棲息している。この地域につながる岐阜県奥揖斐地方及び滋賀県・福井県の県境付近は、他のイヌワシも棲息しており、ここは日本で最も重要なイヌワシの棲息地帯であるといっても過言ではない。イヌワシを「第二のトキ」への運命から守るためには、この地域の環境を守ることが不可欠であると考える。「生物多様性条約」「生物多様性国家戦略」「種の保存法」に則って考えるならば、環境庁は積極的にこの地域のイヌワシの保護、環境保全に乗り出す義務を負っていると考えるがいかがか。

三 クマタカについて

徳山ダム事業予定地は、クマタカは実に17つがいも確認されている日本でも有数のクマタカの棲息地である。クマタカは、その習性として、一旦居を定めた場所は移動しない。従ってこの地域の環境改変は、クマタカの繁殖及び生存に影響を与えることは必至である。

1 公開資料一〇二ページを見れば、当該地域のクマタカの行動圏とダムによる自然改変が行われる地域はほぼ重なっており、徳山ダム建設が、この地域のクマタカ個体群すべてに甚大な影響を与えることは論をまたない。にもかかわらず、保護策を検討する調査資料も存在しないうちに、工事スケジュール・工事計画は変えられないとする公団の姿勢は、クマタカの保護・保全とは相容れないと考えるが、いかがか。

2 徳山ダム事業予定地でのクマタカの繁殖は、1996年が3、1997年が1、1998年と1999年は0である。この数字を見れば、この地域でのクマタカの繁殖が危機的な状況にあることは明らかである。この繁殖成功率の急激な悪化には、ダム関連工事が関係している可能性もあるとの指摘が専門家からなされている。これについて、環境庁はいかが考えるか。

四 環境庁は、「個々の事業に対応できない」と言い、一般論として「事業者は環境庁指針を守って調査している」というが、今回、環境庁指針が守られているとは言い難い実態が明らかになった。守られているかどうかのチェックもできない状況では、到底、本来あるべき責任を果たすことはできない。

1 環境庁指針の遵守を実質的に担保する方向で、当該建設工事のみならず、全国の工事箇所での調査及び保護施策の状況を、早急に把握すべきであると考えるが、いかがか。

2 環境庁の現体制では「個々の事業に対応できない」「指針を守っているかどうかチェックできない」のであれば、個々の事業への指導監督の権限を強め(事業者からの要請がなければ指導も助言もできないというのは環境庁としての存在がなきに等しい)、指針遵守のチェックができるよう、予算や人員の確保を要求して、国会及び関係各省庁に積極的に働きかけるべきだと考えるが、いかがか。

3 現在、猛禽類保護とそのための調査は事業者が実施することになっているが、事業者は事業を推進することが第一であり、事業推進の足かせになるような調査及び保護策には消極的になるのは当然であろう。まして事業中止を事業者自身が考慮・決定するのは容易ではない。実際、公団が前述のように「見直しをしない」と強硬な姿勢をとる原因の一つは、公団自身がダム計画の変更をなす権限を持たないことにもある。いかに事業者が、調査を行い保護策を検討しても、保護策の実施に必要な権限を持たないのであれば、実効性ある対策をとり得ないのは当然である。

従って、生物環境に重大な影響をもたらすことが明らかになった事業については、環境庁の主導で事業計画を再検討する措置をとり得るような法的な保障を確立すべきだと考えるが、いかがか。環境庁の見解を明らかにされたい。

五 NACS−Jによる公開資料・添付文書は以下のように結論づけている。

「今回の徳山ダムにおける猛禽類調査は、地域の生息状況を把握したいわゆる『スクリーニング調査』ができた段階であるのが現状と考えられ、解析に必要な十分な調査がなされたとはいえない状況にある。一度全ての計画及びそのスケジュールを見直し、自然保護と開発活動に関わる自然環境調査のあり方を論議すると共に、猛禽類の地域個体群としての環境保全に必要な措置とその根拠とは何かを再検討すべきといえる。」当面、このことを実現させるのが環境庁の責務と考えるが、いかがか。見解を明らかにされたい。

六 徳山ダムは、環境アセスメント実施の対象事業になっていない。しかし、現に絶滅危惧種に対して甚大な影響を与える可能性が明らかになってきた以上、本体工事実施以前にアセス新法に則った環境アセスメントを実施すべきと考えるが、いかがか。

右質問する。

衆議院の原文・経過

政府答弁書

一について

環境庁においては、平成八年八月、ダムの建設などの開発行為等に際して猛禽類の保護対策を進めていくための指針として、「猛禽類保護の進め方」(以下「進め方」という。)を策定し、事業者が個々の事業ごとに進め方を参考として専門家の指導助言を仰ぎながら適切な調査及び保護対策を検討すべきであるとの基本的な考え方を示しているところである。徳山ダムの建設事業の事業者である水資源開発公団(以下「公団」という。)は、今後、「徳山ダム環境保全対策委員会(仮称)」を設立し、同委員会を中心に専門家の指導及び助言を得ながら、効果的な環境保全対策及び一層の調査研究を推進するとしており、当該事業の実施に当たっては、進め方の考え方に沿って、専門家の指導及び助言を得ながら、希少な猛禽類の保護への配慮がなされていくものと考えている。

二の1について

平成十一年十二月に公団が公開した「徳山ダムワシタカ類に関する資料」によれば、御指摘のイヌワシDつがいの行動圏には、徳山ダムの建設事業に係るダム湖、湛水域、道路等として地形が改変される区域が含まれており、当該事業によりイヌワシDつがいの生息に影響が及ぶ可能性があると考えられるため、公団においてイヌワシDつがいの生息環境についての適切な保全対策を講じる必要があると考えている。

二の2について

御指摘のイヌワシFつがいについては、公団において平成十一年十一月からその行動圏に関する補足調査を実施しており、同調査の結果を踏まえて、必要に応じ、イヌワシFつがいの生息環境についての保全対策が講じられるものと考えている。

二の3について

個々の開発行為等に伴うイヌワシ等の希少な猛禽類の保護対策は、進め方で示しているように、各事業者が主体となって実施することが基本になると考えている。

環境庁においては、イヌワシ等の希少な猛禽類の分布や生態に関する科学的な知見の充実に努めるとともに、御質問の地域を含め猛禽類の保護対策上必要と判断される場合は、事業者に対し助言等を行ってまいりたい。

三の1について

「徳山ダムワシタカ類に関する資料」の百二ページは、徳山ダムの建設事業により自然が改変される区域を中心に選定した観察地点において観察されたすべてのクマタカの飛翔記録等を図示したものであるが、飛翔記録があることのみをもって、御指摘のようにこの地域のすべてのクマタカの行動圏と徳山ダムの建設事業により自然が改変される区域がほぼ重なると判断するのは適切ではなく、飛翔記録の頻度や営巣等の状況を踏まえれば、徳山ダムの建設事業がこの地域に生息するクマタカ個体群すべてに甚大な影響を与えるものとは考えられない。

公団は、これまでも現地の状況に応じて付替道路工事においてトンネル区間を増やすなど道路線形を変更したほか、平成十一年五月に工事現場の近くでクマタカの営巣木が確認された際には、工事を一時中断し、周辺の調査を行う等の対応を行ってきており、徳山ダムの建設事業に関し、環境保全対策に万全を期して工事を実施しているところである。また、一についてで述べたとおり、公団において今後更に必要な調査研究及び環境保全対策の検討が進められるものと承知している。

三の2について

御指摘のダム関連工事と工事予定地周辺におけるクマタカの繁殖の成否との関係については、環境庁において十分な知見を有しておらず、その因果関係は明らかではない。

四の1について

進め方は、猛禽類の生息地周辺において各種開発行為等が実施される際に各事業者が猛禽類の保護対策を進めていくための指針として策定されたものであり、各事業者が進め方の考え方に基づき、適切な調査及び保護対策を講ずることが重要であると考えている。環境庁においては、進め方の考え方が適切に反映されるよう、必要に応じ、各事業者が行う保護対策等に関する情報の収集に努めてまいりたい。

四の2について

環境庁においては、猛禽類の保護対策は重要な課題と認識しており、各種開発行為等と猛禽類の保護との適切な調整を図る上で必要となる科学的知見の充実を図るため、平成九年度から五年間の計画で、通商産業省、建設省等の関係省庁と共に、所要の予算を確保しつつ、全国のイヌワシ及びクマタカの分布を明らかにするとともにその行動や生息環境などの生態を把握するための調査を進めているところである。今後とも、猛禽類の保護対策を進めていく上で必要な科学的知見の充実に努めてまいりたい。

四の3について

環境基本法(平成五年法律第九十一号)第二十条においては、「事業者が、その事業の実施に当たりあらかじめその事業に係る環境への影響について自ら適正に調査、予測又は評価を行い、その結果に基づき、その事業に係る環境の保全について適正に配慮する」こととし、国はこれを推進するために必要な措置を講ずる旨が規定されている。生物環境の保全についても、事業者がそれぞれの事業の特性に応じた適切な配慮を行うべきものと考えており、環境庁においては、猛禽類等の野生動植物の保護の観点から、必要に応じ、各事業者に対する助言又は指導を行ってまいりたい。

五について

猛禽類の保護に当たっては、専門家の意見を踏まえて、イヌワシ、クマタカ等の各つがいごとに、行動圏及び行動圏内部における営巣、採餌等の環境利用の状況を明らかにし、それぞれの生息環境としての機能に応じて、適切な環境保全対策を講じていくことが重要と考えている。

公団は、「徳山ダム環境保全対策委員会(仮称)」を設立し、同委員会を中心に専門家の指導及び助言を得ながら、効果的な環境保全対策及び一層の調査研究を推進するとしており、猛禽類の生息環境の保全について適切な対応が図られていくものと考えている。

六について

徳山ダムの建設事業については、昭和五十一年九月二十八日、公団が水資源開発公団法(昭和三十六年法律第二百十八号)第二十条に基づく事業実施計画の認可を受けていることから、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)附則第三条第一項第一号の規定により環境影響評価の適用を除外されている。

一方で、公団は、平成八年五月から平成十年九月までの間において「徳山ダムワシタカ類研究会」等の専門家の指導を得ながら猛禽類調査を実施し、平成十一年十二月、イヌワシ及びクマタカの行動圏等について「徳山ダムワシタカ類に関する資料」として公開するとともに、平成十二年二月、徳山ダムの建設事業によるイヌワシ及びクマタカの生息環境への影響について「徳山ダム周辺の希少猛禽類とその保全」として公表するなど、環境の保全について適切な配慮を行うための措置の実施に努めてきている。

さらに、公団は、「徳山ダム環境保全対策委員会(仮称)」を設立し、同委員会を中心に専門家の指導及び助言を得ながら、効果的な環境保全対策及び一層の調査研究を推進するとしており、生物環境の保全について適切な対応が図られていくものと考えている。

衆議院の原文

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