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北富士演習場地区に係わる林野雑産物損失補償金の支出に関する質問主意書
衆議院 第147回 第7号
質問本文
横浜防衛施設局は、北富士演習場関係住民に対して、これまで長年にわたり林野雑産物損失補償金を毎年度支出してきた。林野雑産物損失補償(以下、林雑補償)は、いわゆる実損主義に基づいて支出されるものであるが、今日において演習場関係住民に実損が発生していると言い難く、支出の実質的根拠を欠いたまま不適切な支出が行われていると考えられる。
この点について調査するため、以下の事項について質問する。
一 北富士演習場の関係者に林野雑産物損失補償金が支出されるようになった経緯ついて
昭和一三年、旧陸軍が現在の北富士演習場内国有地及び自衛隊梨ヶ原廠舎用地、合計一九六五・五九〇二ヘクタールの買収を完了するや、翌一四年、山梨県南都留郡忍野村忍草部落は、旧陸軍に対し同買収地が部落の生存にかかわる入会地であることを陳情し、その結果、同一六年旧陸軍は同地における雑粗朶、下草、桑葉、溶岩の採取を許可した。
ところが、その許可は二〇年八月の終戦と同時に効力を失い、同年一〇月同演習場は占領米軍の接収地に変わった。そこで忍草部落は占領米軍に対し、当初は自ら、また昭和二一年九月山梨県渉外事務所設置後は同事務所を通じて連年不断に陳情し、その成果が調達庁の「占領期間中ニオケル林野関係雑損失補償要領」及び「林野特産物損失補償額算定基準」となって、昭和二七年度以降の損失補償金が同二八年より忍草部落(忍草入会組合=昭和二一年結成)に入るようになった。
その後、北富士演習場が昭和四八年に米軍演習場から自衛隊演習場へと使用転換が行われた後も、林雑補償金の支払いは今日に至っている。
以上、林雑補償金が忍草部落に支出されるようになった経緯につき、相違ないか明らかにされたい。
二 林雑補償の法的性質並びに支出根拠について
1 林雑補償の法的性質については、入会慣行に基づく入会権を根拠とするところの補償と、単なる行政措置による実損補償の二説がある。林雑補償金の支出は、当初、昭和二八年調達規第四号占領期間中における林野関係雑産物損失補償要領を根拠とし、また今日では昭和六〇年防衛施設庁訓令林野特産物損失補償額算定基準を根拠とするものであり、北富士関係住民が家畜飼料及び堆肥に供するための野草採取の入会慣行のある林野において、事実上収益してきたいわゆる採取行為がその林野を演習場に供することによって阻害されたことにより現実に被る損失を補※(注)する必要があることから(実損主義)、設けられたものと考えられるが政府の見解を示されたい。
2 防衛施設庁は、実損主義に基づき林雑補償の要件を、米軍あるいは自衛隊が使用する演習場において林野雑産物を採取していた者で、演習場に立ち入って林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が現在も存在し、かつ立入制限によって演習場内の林野雑産物の採集が阻害されている事実がある者を対象として、その者の申請に基づいてその阻害の程度に応じて補償する取り扱いを行っていたと考えるが、相違ないか見解を示されたい。
3 昭和四八年四月の自衛隊使用転換にあたり、田邉國男山梨県知事と二階堂進内閣官房長官の覚書によって、「林野雑産物補償については、国(防衛施設庁)と北富士演習場対策協議会との間において協議されたところにより措置されるものとする」ことになり、実損がなく前記の要件に該当しないにもかかわらず、入会権を主張しない者や演習場対策協議会の言い分に従う者だけに林雑補償が支払われていると思われるが、政府の見解を示されたい。
三 昭和四八年四月三日の田邉知事、二階堂官房長官の覚書以降、昭和五〇年当時に既に林野雑産物を採取する農業経営上の必要性がなかったことについて
1 防衛施設庁は、具体的な林雑補償金額について、当初、演習場内への立入制限による野草採取の阻害の程度を個人別の田畑面積あるいは牛馬別の頭数及び家族数、粗朶使用箇所数等の資料に基づきいわゆる実損主義により算定していたものと解して良いか。また、現在の算定方法も同様であると解して良いか。
2 この覚書以降昭和五〇年当時、既に農業の実態は一変し、野草を堆肥とする農業は皆無であり、また牛馬による農業もほとんど行われなくなっていた。農業経営上野草を採取する必要性はほとんど存在せず、粗朶についてもプロパンガスの全戸普及によってその使用の必要性は全くなくなっていた。
このように、昭和五〇年当時、既に野草を必要とする農業経営は存在せず、草刈り、粗朶採りのための演習場への立入許可日にも北富士農民は演習場へ立ち入らなくなっていたのであり、林雑補償の申請者には既に林雑補償の受給資格がなくなっていたと考えられるが、政府の見解を示されたい。
3 防衛施設庁は、北富士演習場の安定的使用のために、住民による草刈り、粗朶採りのため演習場への立入許可日にもその立ち入りが全くないことを承知の上で林雑補償金の支出を行い、また、田畑を全く耕作しておらず如何に考えても林雑補償の対象者となり得ない者に対しても入会団体の一員だということだけで現実の各戸の実態とは関係なく林雑補償金を支出していたのであって、自ら実損主義の原則を敢えて破り、実態において全く受給資格のない者へ林雑補償金の支払いを行ってきたと考えられるが、政府の見解を示されたい。
4 林雑補償金の支払いに関連して、昭和五二年には、富士吉田市新屋部落の農民らが、いまどき草や粗朶を採っている家はなく虚偽の申請をして補償金を受け取れば詐欺になるとして、昭和五〇年度分の林雑補償金を横浜防衛施設局に突き返したという事件が起き、またその前年の昭和五一年には、富士吉田市上吉田入会組合(藤井徳次郎組合長)の一六名が、入会権に基づく集団補償であれば別として、野草、粗朶などを採取もしていないのに損失補償金を個人で受け取るのは良心に反し、後ろめたい金は受け取れないとして、昭和四八年度分、同四九年度分の林雑補償金を組合員所属の各自治会に寄付したという事件等も起きているが、このとおり相違ないか明らかにされたい。
5 以上のとおり、昭和五〇年当時、既に実態において、林雑補償金の多くは全く受給資格のない者へ支払われていたものであり、防衛施設庁は国民の大切な血税を法律上の根拠もなく実損主義に反する支出を行っていたものと思料されるが政府の見解を示されたい。
四 これまでの防衛施設庁並びに会計検査院の対応について
1 防衛施設庁は再三、国会(昭和五三年三月二三日及び同年六月一日の各衆議院決算委員会)から、林雑補償金の算出の根拠となる個人別の田畑面積あるいは牛馬別の頭数及び家族数、粗朶使用箇所数等を付した個人別補償額の資料の提出を求められたにもかかわらず、合理的な根拠もなく今日まで一切資料を提出せず、これまで一貫してその公表を拒んできた。今後これらの資料を公表すべきだと思われるが、政府の見解を示されたい。
2 一方、昭和五三年六月一日の衆議院決算委員会における原茂衆議院議員の質問に対して、会計検査院の柴崎敏郎事務総局次長は、以下のような趣旨の回答を行っている。
「まず、林雑補償金の性質について争いがあるが、その基盤にあるのはやはり実損であり、実損の実態について防衛施設庁が昭和四九年に実態調査を行ったということであるが、会計検査院としても実損の実態について極めて大きな関心を持っている。また、林雑補償が個人補償となっていながら、各個人に渡る金額が実際に算定された金額と異なり、その大半が入会組合自体に留保されている(金銭の行方が判明していないのが実際である)ことについて、林雑補償が入会権に基づくものであるとしたら、必ずしも違法とならないが、個人補償としたら疑問が残る。そこで会計検査院としては、入会権の有無が先決問題と考えており、それらを含めて腑に落ちない点について防衛施設庁に回答を求めたが、防衛施設庁からの回答は率直に言って釈然としない内容であり、実態を解明するため、肩越し検査によるとはいえ、今月調査に赴くことにしている。さらに、林雑補償の算定については、各申請者の用途ごとの野草等の年間所要量から演習場内の採草可能数量を控除して算定する方式になっているので、林野雑産物の損失補償の申請書や農家の経営実態調査表、防衛施設庁作成の昭和四九年度の実態調査表等を突き合わせるなどして、耕地面積あるいは所有牛馬の頭数、単位面積当たりの所要の野草量等の補償額の算定の基礎となっている事項について照合を行い書面上の検査を行っているところであり、今月中にも防衛施設庁の協力のもとに現地調査を実施する予定である。その上で、会計検査院は本件問題は非常に腑に落ちない点が多いので、信頼される検査院という意味において厳正なる検査を施行したい」と回答していた。
以上のように、会計検査院は防衛施設庁の協力を得て現地調査を施行するとの回答を行っていたが、実際に現地調査が行われたかどうか、また現地調査の結果、防衛施設庁は会計検査院から本件林雑補償が具体的な実損に基づき支出されているとの回答があったかどうか明らかにされたい。
3 以上のとおり、林雑補償は演習場内への立入制限による野草採取の阻害の程度を個人別の田畑面積あるいは牛馬別の頭数及び家族数、粗朶使用箇所数などを付した資料に基づき算定するものであり、あくまで実損主義を前提とするものであるとしたら、政府として、現在でも林野雑産物を採集する農業経営上の必要性並びに林野雑産物の採取の阻害の事実があるかどうかにつき、改めて実態を調査すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
五 現在の状況について
1 右会計検査院の回答以降も、防衛施設庁による林雑補償金の支出は継続され、山梨県作成の平成一一年三月の北富士演習場問題の概要によれば、平成九年度だけでも林雑補償金として一億二〇八五万五四九四円が支出され、当初より平成九年度までに累計総額一九億七七七一万二〇九二円が支出されたことになっているが、そのとおりであると理解してよいか明らかにされたい。
2 前述したとおり昭和五〇年当時において、既に農業の状況は一変し、林雑補償金が全く受給資格のない者へ支払われていたものであり、ましてや今日、旧来の農業の状況は跡形もなく激変し、野草を田畑の堆肥とし、農業用の牛馬の飼料として採取する農業は皆無となっている。家庭の燃料として粗朶の必要性がないことも明らかである。その上、当初の林雑補償の受給資格者のうち、そもそも農業自体を行っていない者が大半を占めるようになっている。
このように現在では、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性は、実態として皆無となっており、防衛施設庁は受給資格のない者に対して、法律上の根拠もなく実損主義に基づかない支出を行っていることが明らかであると思料されるので、林雑補償金の支出については速やかな是正措置をとられるべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
林野雑産物補償は、アメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)による演習場等としての使用開始時まで継続的に林野雑産物を採取し農業経営の一助としていた者が、米軍による演習場等としての使用によりその採取が阻害され損失を被ったという事案が各地にあり、関係市町村長等から政府に対し、被害に対する適切な救済措置を講ずるよう要請があったことも踏まえ、調達庁において、「占領期間中ニオケル林野関係雑損失補償要領」及び「林野特産物損失補償額算定基準」を制定し、昭和二十七年度から行っているものである。
こうした状況の中、北富士演習場についても、昭和二十八年三月、山梨県南都留郡忍野村忍草区長から、林野雑産物の採取が阻害されている者の委任状を付して横浜調達局長に林野雑産物補償の申請があり、昭和二十八年八月、同区長と損失補償契約を締結し、昭和二十五年四月から昭和二十七年四月までの補償金を支払ったものである。その後においても、林野雑産物の採取が阻害されている者から委任を受けた忍草入会組合長と損失補償契約を締結し、補償金を支払ってきたところであり、また、昭和四十八年四月に自衛隊の演習場となった後は、同区住民を含む林野雑産物の採取が阻害されている者から委任を受けた北富士演習場対策協議会会長と損失補償契約を締結し、補償金を支払ってきている。
なお、昭和十三年までに旧陸軍が北富士演習場用地の買収を完了したこと、昭和十六年に旧陸軍が同演習場における雑粗だ等の採取を許可したこと、昭和二十年十月に同演習場が米軍により接収されたことについては、御指摘のとおりである。
二について
林野雑産物補償は、現在自衛隊又は米軍が演習場等として使用している林野において、米軍の使用開始時まで継続的に林野雑産物を採取していた者で、その演習場等に立ち入って林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が存続し、かつ、その演習場等への立入制限等によりその演習場等における林野雑産物の採取が阻害されている事実があるものを対象とし、その者の申請に基づき、その阻害の程度に応じて、行政措置として行っているものである。
なお、御指摘の覚書の規定の趣旨は、補償申請者は所属入会組合長を通じ北富士演習場対策協議会会長に委任すること等の補償の申請等の手続について、防衛施設庁と北富士演習場対策協議会との間において協議されたところによるとしたものであり、この覚書によって林野雑産物補償の要件が変更されたものではない。したがって、要件に該当しないにもかかわらず、入会権を主張しない者や北富士演習場対策協議会の言い分に従う者だけに林野雑産物補償金が支払われているとの御指摘は当たらない。
三の1について
林野雑産物の損失補償額については、当初から、補償の申請者ごとに、耕地面積、牛馬飼育頭数、粗だ使用施設の台数、家族数、演習場等以外の採取地の面積等農業経営の実態を把握し、その資料を基に算定してきたところであり、現在も同様の方法により算定しているところである。
三の2、3及び5について
北富士演習場については、昭和五十年当時においても、野草は飼料、堆肥及び牛馬飼育時の敷料として、また、粗だは燃料及び野菜栽培時の支柱として引き続き採取する農業経営上の必要性があるとし、林野雑産物補償の申請があり、横浜防衛施設局において、申請者ごとに、耕地面積、牛馬飼育頭数、粗だ使用施設の台数、家族数、演習場以外の採取地の面積等農業経営の実態の調査を行い、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が存続し、かつ、立入制限等により林野雑産物の採取が阻害されていると認められた場合に、補償を行ったところである。したがって、昭和五十年当時、既に野草を必要とする農業経営は存在せず、林野雑産物補償の申請者には既に受給資格がなくなっていた、また、田畑を全く耕作しておらず林野雑産物補償の対象者となり得ない者に対して入会団体の一員だというだけで林野雑産物補償金を支出していた等の御指摘は当たらない。
また、二についてで述べた林野雑産物補償の要件を備えている者である限り、現実に立入許可日に演習場等に立ち入って林野雑産物の採取を行っていなくても、林野雑産物補償の対象となり得るものである。なお、補償額の算定に当たっては、立入許可日は原則として立入りがなされて林野雑産物の採取が行われたものとして取り扱うこととし、補償の対象から除いているところである。
三の4について
北富士演習場の林野雑産物補償金については、横浜防衛施設局長において、補償申請者の復代理人である北富士演習場対策協議会会長と損失補償契約を締結し、支出しているところである。昭和五十二年五月、富士吉田市新屋入会組合所属の補償申請者の一部から横浜防衛施設局長に対し、昭和五十年度分の補償金を返還するとして現金が送付されてきたため、横浜防衛施設局長において、同月、契約の復代理人である北富士演習場対策協議会会長に対し、当該申請者及び代理人である新屋入会組合長と円満に解決するよう依頼するとともに、当該送付のあった金員を返還したところである。
また、御質問の十六名が昭和四十八年度分及び昭和四十九年度分の補償金を自治会に寄附したとの新聞報道等があることは承知しているが、当該十六名に係る林野雑産物補償については、上吉田松山入会組合長等を通じて行われた申請に基づき、三の1についてで述べたところにより調査確認の上、補償金を支払ったものである。
四の1について
御質問の資料については、公にしないとの条件で提供されたものであり、また、当該資料を公表することとした場合には、地元に混乱を生じさせ、ひいては北富士演習場の安定的使用を損なうおそれがあるので、当該資料の公表については差し控えるべきものと考えている。
四の2について
昭和五十三年六月、会計検査院の職員が北富士演習場が所在する山梨県に赴き関係者から事情を聴取するとともに、横浜防衛施設局の検査を実施したところである。
また、防衛施設庁は、林野雑産物補償金の支出について、会計検査院から違法、不当との指摘は受けていない。
四の3について
北富士演習場については、現在においても、昭和五十年当時と同様に、野草及び粗だを引き続き採取する農業経営上の必要性があるとし、林野雑産物補償の申請があり、横浜防衛施設局において、申請者ごとに、耕地面積、牛馬飼育頭数、粗だ使用施設の台数、家族数、演習場以外の採取地の面積等農業経営の実態の調査を行い、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が存続し、かつ、立入制限等により林野雑産物の採取が阻害されていると認められる場合に、補償を行っているところである。
五の1について
北富士演習場の林野雑産物補償金の平成九年度支出額は一億千四百九十九万二千六百八十九円であり、昭和二十八年度から平成九年度までに支出した総額は十八億六千百五十八万八千三百七十円である。
なお、御指摘の一億二千八十五万五千四百九十四円は、平成十年度支出額である。
五の2について
現在では、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性は、実態として皆無となっている等との御指摘については、現在においても、四の3についてで述べたとおり、申請があった者について、農業経営の実態の調査を行い、林野雑産物を採取する農業経営上の必要性が存続し、かつ、立入制限等により林野雑産物の採取が阻害されていると認められる場合に、補償を行っているところである。
政府としては、林野雑産物補償について、その要件を備えているかどうかを判断するため、今後とも、農業経営の実態の調査を適切に実施してまいりたいと考えている。
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