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有明海再生と漁民等の生活をまもる緊急対策に関する質問主意書
衆議院 第151回 第60号
質問本文
小沢和秋 赤嶺政賢
有明海再生と漁民等の生活をまもる緊急対策に関する質問主意書
有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第三者委員会)は、三月二十七日に諫早湾干拓の「潮受け堤防の水門をあけて調査」を提言したが、農水省は水門を開放し調整池に海水を入れる時期を明らかにしなかった。それどころか農水省は、四月十七日の同委員会で「干拓地の排水門を閉めたままで行う現状把握は、少なくとも四季を通じた一年間が必要」と提案し、第三者委員会は漁民代表等の委員の猛烈な反発がある中、これを認めた。これは水門を開放し調整池に海水を入れるまで一年以上かかるということである。関係漁民の間には「今年のノリ作付はできないのではないか」という不安が広がっていたが、水門開放の時期が来春以降に先のばしになったことで、改めて大きな失望と怒りがわき起こっている。
有明海はかつて「宝の海」と呼ばれ、全国有数の漁獲量を誇ってきた。それが一九九〇年の諫早湾干拓潮受け堤防工事着工後、一九九九年までの間に年間漁業生産量は約八万七千トンから約二万八千トンに激減し、さらに一九九七年の堤防閉め切り後、わずか四年で養殖ノリの生産量も約四十四億枚から約二十一億枚へと激減、今や「死の海」になろうとしている。沿岸漁民が「宝の海を返せ」と立ち上がっているのは当然である。小沢は昨年二回にわたって質問主意書を提出し、有明海の漁獲量の推移についてたずねたが、政府は「さしたる変化はない」と、この重大な事態を認めようとしなかった。こういう干拓事業を強引に押し進める政府の姿勢こそが、有明海を瀕死の状態に追い込み、沿岸漁民はもちろん関連産業に従事する人たちまでを苦境に立たせていることは明らかである。
よって、次のとおり質問する。いずれも改めて調査する必要がない問題と思われるので、国会法を遵守し七日以内に答弁されたい。
(一) 「四季を通じた一年間の調査」というが、干拓事業をあくまで推進するために持ち出されたものとしか考えられない。調整池の中にはこの四年間海水を入れておらず、それがどれほど深刻な水質悪化を引き起こしているかは現状を調査すれば十分である。いったい今から何を一年かけて調査し検討するのか。一日も早くヘドロを巻き上げないような方法で水門を開放し、湾内に海水を入れる調査に着手すべきと考えるが、なぜそれができないのか。
(二) 二月二十八日の予算委員会での小沢の質問に対し、農水大臣は「もし水門を開けるとなれば梅雨前」と早期開放を示唆し、その後も「第三者委員会の委員が一人でも水門を開けると言えば開けざるをえない」とまで発言し、漁民に期待を抱かせた。しかし、第三者委員会では数名の委員がただちに水門を開放するよう要求したが、これに応じなかった。その後は「排水門を開ける前の調査をやらなければならないし、開門前の調査がどのくらいかかるかは技術屋じゃないからわからない」と態度を後退させ、ついに今回、水門開放を一年後に先送りするに至った。こういう当初と全くかけ離れた大臣と農水省の無責任な態度に漁民が反発するのは当然である。なぜこのようにくるくると態度を変えたのか。納得できる説明をされたい。
(三) 農水省は第三者委員会で、水門開放に伴う被害が出ないような対策をとることが実施困難として、「開門に当たっては調整池水位をマイナス一メートル以下に保ち、短期間でできる範囲で海水を出入りさせる」と提案した。これは第三者委員会が提言した「できるだけ大量の海水を出入りさせ、数年間にわたり連続的に開門して調査する」ことを完全に否定するものではないか。また、マイナス一メートル以下に水位を保てば海水の流入量も少ないし、しかも短期であれば、「水門を開放しても有明海全域の水質にさしたる変化はなかった」という結論になってしまうことは明らかではないか。
(四) 調整池水位をマイナス一メートルに保てば、干拓工事継続が可能になる。農水省はいったん中断していた干拓工事をすでに部分的に再開しており、近く内部堤防前面を除き工事をほぼ全面再開しようと画策している。「堤防外の環境に悪影響を与える可能性のある工事は凍結することが望ましい」という第三者委員会の提言を逆手にとったこういう態度に漁民が納得しないのは当然である。農水省はあくまで工事を続行することに固執して、水門開放が困難だと主張しているのではないか。まじめに有明海異変の原因究明を進めようというのであれば、少なくとも今後の干拓工事見直しなどに支障がないよう、工事を全面的に止めるべきではないか。
(五) 一九九三年に九州農政局は、干拓事業が諫早湾内のタイラギ漁場に与える影響を調査し、タイラギ不漁の原因と対策を検討するため「漁場調査委員会」を設置した。しかし、それから八年たつのに一九九七年以来会議も開かれていない。早急な解明が求められていたにもかかわらず、漁民には今年三月中に出すと約束していた調査報告もいまだに出していない。この委員会がどのように議論し、今日に至っているのか。詳細にその経過と、今日に至っても結論を出しえない理由を明らかにされたい。今回の第三者委員会が、その二の舞にならぬ保証があるか。今後の調査検討の見通しを示されたい。
(六) 有明海は大きな干満差と速い潮流があるため海水が攪拌され、これまで富栄養化しながらも潮受け堤防閉め切り前までは大きな赤潮被害は発生しなかった。月の引力による潮汐振動と有明海独自の固有振動との共振によって、大きな干満差と速い潮流がもたらされていたが、干拓による急激な地形変化のため有明海の共振がなくなり、潮位と潮流が変化したと多くの研究者が指摘している。干拓工事が原因で共振がなくなり潮位と潮流が変化し、赤潮多発・漁獲量激減・ノリ不作が起こったと思うが、国はどう考えるか。
(七) 漁獲量の激減やノリの不作を招いたのは、そもそも干拓事業のアセスメントの際に、農水省が諫早湾外に与える影響はわずかと結論づけ、強引に事業を始めたことによる。諫早湾干拓事業の前にあった「南総計画」に際し、佐賀県が詳細な科学的データを使って独自に行ったアセスメントは、諫早湾外の漁業資源に甚大な影響を与えること、潮の流速と栄養塩濃度低下によるノリの生産低下の懸念があるという結果を出している。これは重要な指摘である。諫早湾の閉め切り面積で見ると諫早干拓は南総計画の約三分の一だが、湾奥の広大な干潟を消滅させた点は全く同じである。十分な調査もせず、干拓の影響はわずかと決めつけた農水省は、厳しく反省すべきではないか。諫早干潟は人体にたとえれば有明海全体の浄化機能をもつ腎臓と、稚仔魚を育成する子宮のような機能をあわせ持っていた。干拓工事はこれらの機能を二つとも破壊したのではないか。
(八) 国の発表によっても諫早湾干拓の費用対効果は、一・〇一、あとわずか工事費が増えただけでこの事業は実施要件を満たさないことになる。最近「市民版」の事業再評価が諫早干潟緊急救済東京事務所等から発表されたが、ここでは費用対効果はどんなに多く見積もっても〇・三にしかならないとされている。水産業不振や人口三十万人の浄化能力を持つ干潟の消失など、貨幣評価可能な損失を費用として算入すべきであり、誰が考えても現在では実質的に一・〇をはるかに切っていることは明らかである。今年は国の事業再評価が行われるが、今や再評価を行うまでもなく、この事業はすでにその意義を失っているのではないか。国が持っている基礎データを明らかにした上で、現時点での費用対効果の数字と論拠を詳細に答えられたい。
(九) 政府発表の一・〇一の費用対効果の内訳を見ると、農業外効果が八十%以上を占め、しかも国土造成効果という正体不明なものまで効果に入れている。これは効果の水増しではないか。農業外効果が五十%を超えること自体、土地改良法の趣旨に反し違法ではないか。また、農水省が従来とってきた見解、すなわち農業外効果が五十%を超える事業については「土地改良事業として実施するのではなく、他事業と協同で行うか、又は事業計画を改めることが必要である」とする見解にも反するのではないか。さらに干拓の目的が防災工事中心というなら、なぜ国土交通省が事業主体にならないのか。
(十) 造成される農地での入植者説明会が今年初めに開かれる予定だったが、無期延期となっている。開催の目途は立っていないというが、対応に追われて手が回らないのではなく、入植農家確保の見通しがないので先送りしているのではないか。なぜ先送りしているのか明らかにされたい。また、現在までに入植の意思が明確な農家が何戸あり、何ヘクタールの分譲を求め、どのような営農計画を持っているのか具体的に明らかにされたい。
(十一) 国は一九八六年に、諫早市内の三十一町を「潮受け堤防を造らなければ高潮被害を受ける恐れがある」として被害地域に想定し、干拓の防災効果の根拠にしてきた。国は翌年この想定地域から八町を除外したが、正式に事業計画から削除したのは一九九九年になってからである。長崎県は初めからこの事実を知っていながら公表せず、諫早市にも防潮効果があるかのごとく言い続けてきた。国はなぜ八町を高潮被害地域から除外しながら、そのことを十二年間も諫早市に明らかにしなかったのか。理由と経過を明らかにされたい。
(十二) 一部に防災を理由に潮受け堤防の水門を開放することに反対し、工事の続行を要求する声がある。しかし、諫早市街地の洪水対策についてはこの堤防は何の効果もないのではないか。本年三月の長崎県議会での日本共産党中田晋介議員の質問に対し、県農林部の諫早湾干拓担当参事監は「干拓の効果としては、中心部の対策とかの効果としては認めません。都市部の上の方の洪水対策への効果としては見ておりません」と答弁し、洪水対策として干拓が機能しないことを長崎県当局自身も認めた。国はどう考えるか。
(十三) 干拓地周辺と同じような低平地を抱える佐賀県では、干拓堤防の強化やかさ上げ、百カ所を超える揚排水ポンプを整備することにより高潮及び内水浸水被害に備え、かつてはひどかった浸水被害を大きく減らしている実績がある。諫早でも海岸に近い低平地の浸水対策については、旧海岸堤防の補強、大型ポンプ増設、水路や水門の整備などを急ぐことこそ求められているのではないか。
(十四) 有明海沿岸四県のノリ生産額は昨年十一月から今年三月までの五カ月間で、前年同期比で約百五十四億円の減収となっている。国は緊急対策として融資枠の拡大等の金融支援を打ち出したが、ノリ漁民はノリ生産に関わる機械器具等の購入のためにすでに多額の借金を抱えている。漁場回復の目途が立っていない状態で、これ以上の借金をすることはできないというのが、多数の漁民の声である。今回の養殖ノリ不作は、明らかに政府の諫早湾干拓事業強行の結果として引き起こされたものであり、漁民に対し政府が全面的に補償を行う責任があるのではないか。
(十五) 農水大臣は第三者委員会で、「水門の開放が来春以降になり、またノリが不作の事態になった場合に備え、経営安定のための対応を図りたい」と発言した。具体的にどういうことを検討しているのか。
(十六) 九州農政局と、有明海沿岸三県(福岡・佐賀・熊本)漁連及び長崎県の漁業権者会との間で一九八七年に、干拓事業により「予測しえなかった新たな被害又は支障が生じた場合には、誠意をもって協議し、解決するよう努める」という内容の確認書を取り交わしている。干拓事業の過程で、とりわけ潮受け堤防工事着工直後から漁獲量が激減し、堤防閉め切り以降ノリ不作が起こっているのだから、確認書にもとづき関係漁連等と対策、補償等について協議を行うのが当然ではないか。
(十七) 干拓工事中断によって仕事と収入を失っている人は、その多くが干拓によって漁業を続けることができず工事に就労していた元漁民であり、度重なる失業によって生活はきわめて深刻な打撃を受けている。この人々に政府の責任で、最優先で就労の場をつくるべきではないか。
(十八) 所得の場を失った漁民に対し、諫早湾干潟再生や有明海の水産業振興のために必要な公共事業など、就労の場を設けることが緊急の課題となっている。国は関係四県の労働局と連絡をとって検討するというが、早急に結論を出さなければならない。具体的にどのように進め、現在の状況はどうなっているのか。また、養殖ノリ漁民だけでなく、干拓工事で大打撃を受けているすべての漁民も、さらに漁業関連の産業に従事している地域中小業者も緊急援助の対象とするのが当然ではないか。
右質問する。
政府答弁書
(一)について
本年二月に農林水産省に設置された有識者及び漁業者から構成される有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(以下「委員会」という。)において、三月二十七日に、第一回から第三回までの委員会の議論の結果を踏まえ、「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第一〜三回)の委員長まとめ」(以下「委員長まとめ」という。)が取りまとめられたところである。
委員長まとめにおいて、平成十二年度の有明海におけるノリ不作等の原因究明に係る調査(以下「本調査」という。)については、「ノリ不作が生じた環境について検討するのであるから、その環境ができるだけ変化しない条件でまず行うことに留意すべきであろう。このことを考えれば諫早干拓地の排水門の常時開門には技術的に克服すべき問題もあり、まず閉めたままで、十分な調査を行って現状把握を行うことが必要である。」とされている。
農林水産省においては、委員長まとめを最大限尊重し、本年度から、関係省庁及び有明海沿岸各県等の関係機関と共同で有明海の水質、底質及び生態系の現況把握と環境変動の要因分析に着手したところであり、あわせて、海象メカニズムの分析・解明等を行うこととしている。
(二)について
御指摘の「第三者委員会の委員が一人でも水門を開けると言えば開けざるをえない」との発言は、本年三月二日に記者の質問に対して前農林水産大臣が答えたものであるが、翌三日の記者会見において前農林水産大臣は、前日の発言の趣旨は、そのような意見があれば委員会で取り上げるということである旨述べているところであり、政府としては、本調査の実施に当たっては、委員会の議論の結果を最大限尊重するというのが、これまでの一貫した考え方である。
なお、本年四月十七日に開催された第四回の委員会においては、委員長が「まずは現況の把握が必要であるということで、それには四季の変化も押さえなければいけないから、少なくとも一年間、とりあえずの現状で調査をしていただく」とまとめており、これを踏まえ、本調査を進めていく考えである。
(三)について
委員長まとめにおいて、本調査については、「まず閉めたままで、十分な調査を行って現状把握を行うことが必要である。」とされているが、それに関連して国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)の潮受堤防の排水門を開門して行う調査(以下「開門調査」という。)については、「将来、比較のため、また、干拓地の機能を知るために排水門を開門する必要が生じると思われるが、排水門を開けることによって被害を生ずるようなことがあってはならないので、開門前に環境影響評価を行うとともに、影響対策を十分に施すことが求められる。」とされたところである。
御指摘の第四回の委員会における農林水産省の提案は、開門調査の方法として、排水門における海水の流入出速度を排水門周辺の環境に急激な影響を与えないような、また、構造物の安全に影響のない範囲とし、防災機能にできるだけ影響を与えないよう調整池の水位を標高マイナス一メートル以下に保つものであるが、これは、委員長まとめを踏まえつつ、できるだけ早期に開門調査に着手できるように、そのために必要な最小限の対策を早急に行い、できる範囲で海水を出入りさせる案として提案したものである。
開門調査の方法については、この提案を基に委員会において議論されているところである。
(四)について
本事業の工事については、委員長まとめにおいて、「現地調査に関しては、ノリ不作が生じた環境について検討するのであるから、その環境ができるだけ変化しない条件でまず行うことに留意すべきであろう。このことを考えれば諫早干拓地の排水門の常時開門には技術的に克服すべき問題もあり、まず閉めたままで、十分な調査を行って現状把握を行うことが必要である。これに関連して、干拓現場においても、堤防外の環境に悪影響を与える可能性のある工事は凍結することが望ましい。」とされており、これを踏まえ実施する方針である。
なお、御指摘の「有明海異変の原因究明」については、委員長まとめにおいて、「有明海の環境悪化がどのようにして起きたかは今後解明しなければならない課題」とされており、(一)についてで述べたとおり、委員長まとめを最大限尊重し、開門調査の方法の検討も行いつつ、本調査を進めていく考えである。
(五)について
お尋ねの「漁場調査委員会」とは、本事業の工事施工に伴うタイラギ等漁場への影響に関する調査方法や調査結果(以下「漁場調査結果等」という。)について、専門的な立場から助言及び指導を行うために農林水産省九州農政局諫早湾干拓事務所に設置された「諫早湾漁場調査委員会」(以下「調査委員会」という。)であると考えられるが、調査委員会における検討の中で、タイラギの生息環境について更に十分調査することが必要であるとの結論に達したため、調査委員会に設置された学識経験者から構成される専門部会において、議論を重ねてきている。調査委員会及び専門部会のこれまでの開催実績は、別表一のとおりである。
専門部会においては、タイラギの生態について、なお未解明な部分があり、収集したデータの評価及び検討に時間を要しているところである。
また、委員会の今後の検討見通しについては、次期ノリ漁期への対策に向けた中間取りまとめを本年九月中に行うべく、本年の八月及び九月に各一回ずつの委員会の開催を予定している。さらに、現状把握を含め、本調査の進ちょく状況の確認及び来年度の調査の検討のために、本年度末に委員会の開催を予定しているが、本調査の進ちょく状況や対策の検討状況等に応じ、それ以前に委員会を開催することも考えられる。
(六)について
委員長まとめにおいては、今回のノリの色落ちの原因となる珪藻赤潮については、「十一月の異常な降水、十二月に入ってからの例年より非常に長い日照時間、このところ続いている高水温・高塩分、などのいわば異常気象・海象が引き金になって生じた。もちろん珪藻の大発生には有明海の富栄養化が素因としてあることは事実であり、珪藻増殖の抑制に寄与すると考えられる二枚貝等の減少も関係している可能性がある。」とあり、また、有明海全体について、「漁業生産の落ち込み、各種生物の衰退・消滅も顕著で、明らかに有明海の環境は悪化していると見られる。まだ知見が十分ではないが、潮汐等海洋の流動にも変化が見られるようである。」とまとめられたところであり、この取りまとめを受け、有明海の環境悪化がどのようにして起きたかを解明するため、本調査を開始したところである。
(七)について
本事業に係る環境影響評価は、事業実施主体である農林水産省九州農政局が長崎県環境影響評価事務指導要綱(昭和五十五年七月一日付け長崎県副知事通知)に基づき、環境への影響を予測するために必要な各種資料の収集及び現地調査を行い、その結果を学識経験者から構成される環境影響評価検討委員会で検討した上で成案を作成し、関係住民への公告、縦覧、説明会の開催等の手続を経て評価書として取りまとめており、当時の知見やデータ等に照らし、適切に実施したものである。
また、干潟の消失については、委員長まとめの付属資料において、「有明海では、古くから土砂の堆積により干潟が発達する一方で、沿岸各地での干拓等により干潟の喪失が進んできた。しかしながら、最近では干拓事業による諫早湾内の干潟の喪失が最も大規模なものであり、それによる環境浄化能力の直接的低下、さらには、調整池内に溜まった富栄養化した水や浮泥の定期的排出による周辺環境の悪化や夏季の有毒赤潮の誘発との関係が懸念されており、具体的な因果関係を明らかにするための調査・研究が必要である。一方、諫早湾のみでなく、近年の有明海全体での自然の海岸線の減少が、本来、自然の感潮域が持つ、環境浄化や生物生産などの生態系維持における多面的機能を大きく減退させたとの指摘もあり、あわせて定量的な評価が必要であろう。」とされているところであり、干潟の有する有明海全体の浄化機能と稚仔魚を育成する機能の評価も含め、有明海の環境変化がどのようにして起きたかを解明するため、本調査を開始したところである。
(八)について
本事業は、昭和六十一年着工に際して、「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和六十年七月一日付け農林水産省構造改善局長通知。以下「構造改善局長通知」という。)に基づき適正に費用対効果分析を行い、経済的妥当性を確認した上で事業に着手しているところであり、平成十一年事業計画変更時においても、同様の検証を行っている。
平成十一年十二月に決定した国営諫早湾土地改良事業変更計画において、事業施行後に見込まれる年増加見込効果額は百六十二億七千二百万円であり、これに基づく妥当投資額は二千五百八十七億七千九百万円である。一方、本事業の計画上の総事業費は二千四百九十億円であり、これについて過年度の投資額を変更計画作成時点(平成十年度)の投資額に換算した総事業費は二千五百五十九億八千万円である。この結果、本事業の費用対効果は一・〇一となり、効果が費用を上回っているものである。
本事業の実施により見込まれる効果としては、作物生産効果、維持管理費節減効果、災害防止効果、一般交通等経費節減効果及び国土造成効果があり、その基礎データは事業計画変更時に用いたもので別表二のとおりであり、現時点ではこれが最新の数値である。
また、本事業については、「国営土地改良事業等再評価実施要領」(平成十年三月二十七日付け農林水産省構造改善局長、畜産局長通知)に基づき、本年度、再評価を行う予定であり、その中で事業の進ちょく状況、関係団体の意向、営農及び事業効果を取り巻く情勢の変化等を評価し、適切に対処してまいりたい。
なお、干潟の有する浄化能力の喪失などの外部不経済については、食料自給率の向上、淡水系の生態系が生まれることによる新たな環境資源の創出等の効果と同様に、現時点では貨幣評価する手法が確立されていないことから、土地改良事業では測定方法を定めていない。
(九)について
本事業の効果は、(八)についてで述べたとおり、作物生産効果、維持管理費節減効果、災害防止効果、一般交通等経費節減効果及び国土造成効果について算定しているが、このうち農業効果として明確に区分されるものは、作物生産効果及び維持管理費節減効果の全部と災害防止効果の中の農業用の堤防、農地及び農業用施設等に対する効果であり、これらの農業効果の年効果額の合計は農業外の年効果額の合計を上回っていることから、本事業は土地改良事業として妥当なものと考えている。なお、一般交通等経費節減効果の中にも、農業関係の交通に係る効果が含まれている。
また、国土造成効果は、本事業により干拓地が造成されることに伴い、他の地域の農地において農業以外の利用を行ったとした場合に得られる間接的な効果であり、構造改善局長通知に基づき適正に算定したものである。
なお、本事業は、平坦な農地が乏しい長崎県において、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、主として農地である諫早湾周辺低平地の高潮、洪水及び常時の排水不良等に対する防災機能の強化を図ることを目的としており、農林水産省が土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)の定める手続に従って適正に実施しているものである。
(十)について
本事業により造成される干拓地の土地配分を行うに当たり、農林水産省九州農政局及び長崎県においては、配分を希望する者の募集に関する資料の作成を進めつつ現地説明会の開催を検討してきたところであるが、最近における本事業をめぐる諸情勢から、説明会開催の条件が整っておらず、説明会の開催に至っていないものである。
また、営農者の見込みについては、農林水産省九州農政局において、平成九年度から三年間にわたって諫早湾周辺地域の農家及び九州各県の農業生産法人に対して意向調査を行っている。この意向調査結果では、営農意欲の高い畑作や畜産の農家等から干拓地の農地面積を上回る農地利用の要望があるほか、関係行政機関へも直接干拓地利用の希望が寄せられていることから、干拓地は農地として有効に利用されるものと考えている。
(十一)について
本事業の効果算定に当たっての高潮による被害想定地域は、平成十一年の事業計画の変更の際に、平成九年から平成十年にかけて行った現地調査を踏まえ、関係省庁で策定され昭和六十二年に改訂された「海岸保全施設築造基準解説」に基づき新たに設定されたものであり、その結果、諫早市内の八町が被害想定地域とはならないことが明らかになったところであり、御指摘のように昭和六十二年に被害想定地域の変更を行った事実はない。
(十二)について
諫早市街地の一部を含む諫早湾周辺地域は、極めて低平地であることから、これまで幾度となく高潮・洪水の被害を受け、また潮汐の影響及び既存堤防の排水樋門の前面におけるガタ土の堆積によるミオ筋(流路)の埋没によって円滑な排水に支障が生じていた。
本事業では、潮受堤防を設置し高潮を防止するとともに、その内側に設けた調整池の水位を標高マイナス一メートルとなるように管理する結果、潮汐の直接的な影響を受けなくなること、既存堤防の排水樋門の前面におけるガタ土の堆積が解消され、ミオ筋の確保が容易となることから、河川、排水路等から調整池への排水が速やかに行われ、大雨時でも洪水被害の軽減が図られることとなり、本事業の防災効果は諫早湾周辺低平地に広く及ぶものである。
なお、これまでの大雨においても、調整池の背後地の一部で湛水が生じたものの、その程度や湛水時間は大きく改善されたと地元から高い評価を得ているところである。
(十三)について
干拓方式には、海面を直接堤防で囲み、内部を排水して干陸化する「単式干拓」と海湾を潮受堤防で締め切って調整池を造り、その中に内部堤防をめぐらして干拓する「複式干拓」とがある。
諫早湾周辺低平地では、これまで幾度となく高潮・洪水の被害を受け、また潮汐の影響等による円滑な排水に支障が生じていたことに加え、諫早湾が狭あいな地形を有していることから、本事業の計画策定時において、潮受堤防で諫早湾の一部を締め切り、内部堤防との間に調整池を設けることによって高潮の防止と洪水時の円滑な排水を可能とする「複式干拓」によることが、「単式干拓」と併せて既存堤防の強化や排水ポンプの整備等を行うことと比較し、有効かつ効率的であると判断したものである。
また、既に平成九年四月に潮受堤防で締め切り、調整池の水位を標高マイナス一メートルとなるように管理して防災機能を発揮させており、地元から高い評価を得ている中で、干拓方式を御指摘のような海岸堤防の強化、排水ポンプ場の増設等に切り替えることは現実的でないと考えられる。
(十四)について
今回のノリ不作をもたらした珪藻赤潮の発生等の原因は現時点では明らかではないが、まずは、予断を持たずに本調査を行うことが重要であると考えており、今回のノリ不作が本事業に起因するとの前提で対応することはできない。
(十五)について
次期の有明海のノリ養殖に係る対策については、第四回の委員会での取りまとめ等を受け、漁業共済制度において、臨時特例的に、加入促進を図るため、大規模な不作に対応した新てん補方式を試験的に実施するとともに、漁業者負担の軽減を目的として、国及び県が協力して掛金の助成を行うこととしたところであり、これらの措置を講ずることにより、十分な対応に努めてまいりたい。
(十六)について
農林水産省九州農政局は、昭和六十二年七月二十日に長崎県の十一の漁業協同組合との間で、本事業に起因し漁業補償契約書締結時に予測し得なかった新たな被害が生じた場合に、誠意をもって協議し解決するよう努める旨の「確認書」を、また、同年九月二十六日に佐賀県有明海漁業協同組合連合会、福岡県有明海漁業協同組合連合会及び熊本県漁業協同組合連合会との間で、本事業に起因し有明海水産業に予測し得なかった新たな被害又は支障が万一生じた場合に、誠意をもって協議し解決するよう努める旨の「諫早湾干拓事業に関する確認書」を取り交わしている。
委員長まとめによると、ノリ不作の直接の原因は、例年と異なる気象、海象の変化による珪藻赤潮の早期かつ持続的な発生によるとされているが、これが本事業に起因するかどうかは、現時点では判明しておらず、農林水産省においては、まずは、予断を持たずに本調査を推進することが重要と考えている。
(十七)について
工事が中断されていることにより失業を余儀なくされている者に対しては、公共職業安定所において早期に再就職ができるようきめ細かな職業指導、職業相談、職業紹介等を行っているところである。また、地方公共団体が各地の実情に応じて創意工夫に基づいた事業を実施することにより臨時的な就業の機会を創出することを目的とした緊急地域雇用特別交付金事業が実施されているところであり、その活用に関し関係県と連携を図ってまいりたい。
(十八)について
有明海の漁業就業者及び漁業関連企業における就業者の就業の安定を図るための対策を検討するため、本年二月十三日に関係四県の労働局による「有明海沿岸関係労働局連絡会議」を設置し、情報収集に努めており、本年五月一日の調査時点では、ノリ養殖業者及びノリ関係事業所等の従業員で公共職業安定所に求職登録されている者は、三十三名と把握している。これらの者を含め失業を余儀なくされている者に対しては、(十七)についてで述べたとおり、公共職業安定所において職業紹介等を行っているところである。また、地方公共団体が臨時的な就業の機会を創出することを目的とした緊急地域雇用特別交付金事業が実施されているところであり、その活用に関し関係県と連携を図ってまいりたい。
また、今回のノリ不作により大きな被害を受けたノリ養殖業者に対しては、農林漁業金融公庫の沿岸漁業経営安定資金について、地元自治体との協力による貸付利率の無利子化、貸付限度額の引上げ等、災害時における金融対策としては最大限の措置を講じているところであり、さらに、漁業共済制度において、(十五)についてで述べたとおり、臨時特例措置を実施することとしたところである。なお、ノリ養殖以外の漁業者についても、一般の沿岸漁業経営安定資金の利用が可能であり、また、関係県において独自の資金を措置しており、これらの措置も含め、被害漁業者の支援に適切に対応してまいりたい。
さらに、有明海のノリ不作により悪影響を受けた関連中小商工業者の経営安定のため、政府系金融機関、関係県の信用保証協会等に対し、特別の相談窓口の設置、返済猶予等既往債務の条件変更、担保徴求の弾力化等について個別企業の実情に応じて十分対応するよう指示するとともに、信用保証協会におけるノリ製造業者等に対する保証を促進するため、本年四月十日に、中小企業信用保険法(昭和二十五年法律第二百六十四号)第二条第三項第三号の規定に基づき、経済産業省告示を制定し、有明海のノリ不作を同号の災害その他の突発的事由として定めるとともに、対象地域及び業種の指定を行い、保険限度額の別枠化や保険料率の引下げ等の経営安定関連保証の特例措置を講じたところである。
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