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諫早湾干拓事業の中・長期開門調査と調整池の水質悪化に関する質問主意書
衆議院 第159回 第2号
質問本文
昨年十二月二十五日、すべて官僚経験者からなる「中・長期開門調査検討会議」(以下、検討会議)は、農水省が諫早湾干拓事業の中・長期開門調査を実施すべきかどうかを判断するための論点を整理した報告書をとりまとめた。一方、二〇〇一年十二月に「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」(以下、第三者委員会)は、「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定され、開門調査はその影響の検証に役立つと考えられる」、「調査に当たって、開門はできるだけ長く、大きいことが望ましい」と、干拓事業によって諫早湾を閉め切ったことが有明海へ悪影響を与えているかどうかを検証するため中・長期開門調査を求める見解を発表している。検討会議報告書は、開門調査に対し両論併記の形をとっているものの、全体を通してみると調査実施に否定的な意見が強くにじみ出ている。これは干拓事業着手後、ノリ不作のみならず有明海全域で起こっている漁獲量の激減に対し、工事中止と排水門開放を求める沿岸漁業者の要求に背を向け、前記の第三者委員会の見解からも大きく後退するものである。
よって、次のとおり質問する。
(一) 昨年四月十五日に小沢和秋前議員と連名で提出した質問主意書(衆質一五六第五三号)において、諫早湾干拓事業を担当した農水省元構造改善局長や同局元次長などの元官僚からなる検討会議委員の人選は、中・長期開門調査を実施すれば工事が大きく遅れ、結果によっては干拓事業中断ということもありうるので、それを防ぐために行ったものではないかと質問した。今回の検討会議報告書は、我々が指摘したとおりのものになったのではないか。
(二) 農水省は検討会議の報告書とりまとめの最終段階になって、中・長期開門調査を実施する場合の様々な対策工事のために、約六百三十億円の費用と約三年の工期が必要という数字を突然公にした。検討会議では、このことについて何ら議論もされなかったのにもかかわらず、報告書の中にはしっかりと記載されている。農水省は開門調査ができない理由とするため、この工事費用と期間を公にしたのか。約六百三十億円の工費と約三年の期間とを算出した詳細な積算根拠を明らかにされたい。
(三) 対策工事の完了までに約三年を要するとすれば、今から工事を始めたとしても二〇〇七年の前半までかかる。干拓事業は二〇〇六年度末を目標に完了という計画だから、工事を強行している現在の状況下では、開門調査の対策工事が終了した時点ですでに干拓事業も完了していることになる。また、排水門のすぐ外側に二ヶ所の導流堤建設工事、調整池内に潜堤建設工事を予定しており、これらと対策工事を並行して施工することは困難と考えられる。この日程から考えると中・長期調査の実施は事業完了後ということになるが、これは中・長期開門調査を行わないことを意味するものではないか。
(四) 農水省は二度目の計画変更の際、事業が予定どおりに進んでも四百三十億円もの赤字になることを明らかにした。元中央水産研究所室長・佐々木克之氏らは、諫早湾の閉め切りによって失われた干潟と浅海域の水質浄化力は、約一千億円規模の下水処理施設に匹敵することを科学的に解明した。調整池の水質の改善は一向に進まず、児島湖の二の舞になることが懸念される。事業をこのまま進めれば有明海の環境はますます悪化し、それによる経済的損失は計り知れない。中・長期開門調査により万一漁業被害が生じることがあっても、その補償額は六百三十億円の対策工事費よりはるかに低いと考えられる。費用対効果に照らしても有明海の環境回復のためには、いったん事業を中止しすみやかに中・長期開門調査を実施すべきではないか。
(五) 潮受堤防閉め切り後も背後地ではしばしば湛水が起こり、被害も生じていた。堤防閉め切りだけで湛水防除は不完全なことを認め、長崎県は現在も国の補助を受け背後地で大規模なかんがい排水事業を実施中で、排水路拡幅工事を進め排水機も増強している。これによって背後地の排水不良は大幅に改善しているのではないか。
(六) 農水省は中・長期調査実施の際には防災機能を確保するため、新たに二百億円を投じて排水機を設置しなければならないと主張しているが、これは長崎県による排水事業の効果を十分に考慮したものなのか。
(七) 福岡・佐賀・熊本各県議会をはじめ、佐賀県内の合計二十四の市町村議会は、「検討会議の審議や報告書は、中・長期開門調査の意義と目的を逸脱した感がある」などとして、沿岸漁業者の切実な要望をくみ取り、中・長期開門調査実施を求める意見書を昨年十二月に採択し国に提出している。この要求を重く受け止め、中・長期開門調査を実施すべきではないか。
(八) 東幹夫・長崎大学教授をはじめとする九名の研究者は、連名で開門調査を求める共同声明を二度にわたり発表している。その主旨は、「検討会議および同専門委員会の論点整理は、現在得られているさまざまな知見のうち開門調査が必要であるという情報を無視した非科学的なものであり、得られるすべての情報を用いて科学的に検討すべきである」ということであった。また第三者委員会の元委員長・清水誠氏は「有明海全体の環境に干拓事業が何らかの影響を及ぼしているという状況、第三者委員会の見解は今も何ら変わっていない」(二〇〇三年十二月二十六日付、西日本新聞)と、中・長期調査の実施を求めている。これら研究者の声明や第三者委員会の見解を真摯に受け止め、科学的な見地に立ってすみやかに開門調査の実施を決定すべきではないか。
(九) 小沢前議員との連名による昨年七月十日に提出した質問主意書(衆質一五六第一二五号)において、調整池の汚染について質問したが、国は答弁書(八月二十九日閣議決定)で、「潮受堤防の締切り後の調整池の水質は、基本的には流入河川の水質を反映しており、最大の流入河川である本明川下流の水質と比較して、特段汚染しているものではない」と答えた。同じく九月二十六日に提出した質問主意書(衆質一五七第九号)においてその根拠について質問した。これに対し、答弁書(十月七日閣議決定・以下前回答弁書という)は別表一に本明川の水質と調整池中央(環境モニタリング測点S11)の水質を掲げ、調整池の水質は特段汚染していないという根拠としている。
長崎県の公共用水域水質測定結果を基に、潮受堤防閉め切り後の一九九七年度から二〇〇二年度まで、本明川下流(不知火橋)の水質を年度ごとに平均すると、COD(�r/l)は「六・〇」→「五・〇」→「四・三」→「四・九」→「五・〇」→「四・四」に、全窒素(�r/l)は「二・〇〇」→「一・六八」→「一・五三」→「一・七三」→「一・六八」→「一・五五」に、全燐(�r/l)は「〇・二七三」→「〇・二六三」→「〇・一四五」→「〇・二五五」→「〇・二一五」→「〇・一三五」と、三項目とも改善している。これに対し、農水省の環境モニタリングによる調整池中央の水質を一九九七年度から二〇〇二年度まで年度ごとに平均すると、CODは「六・八」→「六・九」→「六・一」→「七・四」→「六・六」→「七・〇」に、全窒素は「一・一〇」→「一・二七」→「一・四三」→「一・三九」→「一・〇〇」→「一・三九」に、全燐は「〇・一五九」→「〇・二二六」→「〇・二二二」→「〇・二四九」→「〇・一七六」→「〇・一九四」と、三項目とも悪化している。このように本明川と調整池の水質変化の傾向は全く反対で、二〇〇二年度の平均値で全窒素以外は調整池の水質の方が悪いのに、なぜ調整池の水質は本明川の河川の水質を反映し、特段汚染していないと断言できるのか。
(十) このように調整池の水質が悪化し続け、本明川の水質より改善しない理由は、潮受堤防によって諫早湾奥が閉め切られ、かつての干潟と浅海域の浄化機能が全く失われたからではないのか。
(十一) 前回答弁書の別表一で示された「本明川河口」の位置は、農水省の環境モニタリング測点「P1」である。農水省はこの場所はこれまで調整池と答弁していたが、いつからどういう理由で本明川河口に変更したのか。
(十二) モニタリング測点「P1」は、中央干拓地の農業用水の取水口とほぼ同じ場所である。ここが本明川の河口ならば、「中央干拓地の農業用水については、調整池から取水する」という農水省のこれまでの答弁は誤りで、農業用水は調整池の水でなく直接本明川の水を取り入れて使うのではないか。
(十三) 有明海での漁獲量減少やノリの不作により沿岸漁業者の生活は困窮し、将来の展望を失うところまで追いつめられている。有明海異変により被害を受けている漁業者に対し、既往借入制度資金の据置期間延長、償還猶予、利子免除、新たな無利子貸与など積極的な財政的支援を行うべきではないか。
右質問する。
政府答弁書
(一)について
諫早湾干拓事業の開門調査検討会議に関する質問に対する答弁書(平成十五年五月二十日内閣衆質一五六第五三号)(一)についてで述べたとおり、国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)に係る中・長期開門調査(以下「本調査」という。)については、その実施の可否を含め技術面や環境面等から様々な意見があることから、農林水産省においては、本調査に係る必要な論点を取りまとめるため、中・長期開門調査検討会議(以下「検討会議」という。)を設置するとともに、検討会議の委員として、環境と水産、環境と農業、環境と河川に関する行政等の経験を有し、その視点に立って事項を整理することができる者を委嘱したものである。
本調査の取扱いについては、平成十五年十二月二十五日に取りまとめられた中・長期開門調査検討会議報告書(以下「検討会議報告書」という。)を踏まえ、関係者から意見を聴いた上で、今後、農林水産省が判断することとしているところである。
(二)について
平成十五年十二月三日に開催された第七回検討会議において、検討会議の委員から、農林水産省農村振興局に対し、それまでの議論を踏まえて本調査を実施する場合の影響と対策について取りまとめることを求められたため、同局において必要な検討を行い、その結果を第八回検討会議の資料として提出したところであり、当該資料は同月十九日の時点で公表されている。検討会議報告書は、当該資料に基づく委員の議論を踏まえて取りまとめられたものである。
工事費用の積算根拠と期間の算定については別表のとおり概算しているが、事前の調査、設計及び各種の協議に必要な費用は含まれていない。期間についても工事に要するおおむねの期間を示したものであり、事前の調査、設計及び各種の協議に必要な期間は含まれていない。
(三)及び(四)について
農林水産省においては、農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(以下「委員会」という。)が平成十三年十二月十九日に発表した「諫早湾干拓地排水門の開門調査に関する見解」の趣旨等を踏まえ、短期の開門調査を含む開門総合調査を行うとともに、本調査に係る必要な論点を取りまとめるため、検討会議を設置したところであり、検討会議報告書を踏まえ、今後、農林水産省が、その取扱いについて判断することとしているところである。
一方、本事業については、平成十三年度に行われた本事業の再評価に当たり、農林水産省九州農政局国営事業管理委員会に設置された第三者委員会の意見を踏まえ、予定された事業期間の厳守等の四つの視点に立って、総合的に検討を行った結果、事業計画の見直しを行うとともに、平成十八年度に事業を完了することとしたところである。また、平成十四年四月十五日の農林水産大臣と長崎県知事、長崎県議会議長、長崎県漁業協同組合連合会会長、佐賀県有明海漁業協同組合連合会会長、福岡県有明海漁業協同組合連合会会長、熊本県漁業協同組合連合会会長等との会談において、「短期開門調査を実施し、平成十八年度に事業を完了させる」との農林水産省の方針について理解が示され、現在、この方針に沿って事業の推進に努めているところである。
このように本事業を平成十八年度に完了させるとの方針は、本調査とは別の観点から決定されたものであり、本事業の完了が本調査を行わないことを意味するものではない。
なお、御指摘の佐々木克之氏らの意見は検討会議の委員に提示されており、これも踏まえて検討会議報告書が取りまとめられたものと考えている。
(五)について
諫早湾干拓事業の見直しと「防災」機能等に関する質問に対する答弁書(平成十三年十二月七日内閣衆質一五三第二一号)(六)についてで述べたとおり、諫早湾周辺地域における排水不良対策については、潮受堤防の設置により可能となった調整池の水位を標高マイナス一メートルに保つことを基本に、関係機関が連携を図りながら、排水路の整備等を順次実施していく必要があると考えている。
現在、諫早湾周辺地域においては、六地区で県営かんがい排水事業が実施されているが、これらの事業は調整池の水位を標高マイナス一メートルとなるよう管理することにより、計画に即した効果が発揮されるものである。
(六)について
農林水産省においては、確保すべき防災機能として、調整池の水位を標高マイナス一メートルとなるよう管理することにより発揮される排水機能及び調整池の淡水化により背後低平地において塩害が発生していない現状の確保を想定しており、本調査の実施によりこれらの機能が損なわれることのないようにするため、別表に示されている対策を検討したものである。
この場合における洪水時の対策については、常時開門を行う場合の背後低平地の湛水の状況を想定し、常時開門による影響相当分を排水するのに必要なポンプの規模と費用を算定したものであり、検討に当たっては、長崎県が実施しているかんがい排水事業で整備される排水施設を利用することを前提としている。
(七)について
検討会議報告書において、本調査の取扱いを判断する論点として、「漁業関係者や諫早湾周辺住民の方々に配慮しつつ・・・行政として時間意識や費用対効果にも照らして判断をしていく必要がある」と整理されているところであり、農林水産省においては、本調査の取扱いについて、御指摘の意見書も考慮した上で、総合的に判断する考えである。
(八)について
検討会議においては、有明海海域環境調査、有明海の海洋環境の変化が生物生産に及ぼす影響の解明及び開門総合調査等の各種調査の結果、委員会の委員、有明海海域環境調査検討委員会の委員及び有明海関係の学識経験者から聴取した意見、有明海・八代海総合調査評価委員会における学識経験者の研究発表、学会等に発表された文献等を踏まえ、本調査の取扱いの判断に必要な論点を整理し、検討会議報告書が取りまとめられたところである。
(一)についてで述べたとおり、本調査の取扱いについては、検討会議報告書を踏まえ、今後、農林水産省が判断することとしているところである。
(九)について
潮受堤防締切り後の平成九年度から平成十四年度までの調整池中央の水質は、季節や降雨の影響等により変動はあるものの、化学的酸素要求量(以下「COD」という。)は一リットル当たり七ミリグラム前後、全窒素は一リットル当たり一ミリグラム前後、全リンは一リットル当たり〇・二ミリグラム前後で推移しており、経年的に悪化しているとは認められない。
また、調整池中央の水質は、本明川下流の水質と比較して、CODがやや高い傾向にあるものの、全窒素はやや低く、全リンは同程度であることから、これらの各水質項目の濃度を踏まえて、諫早湾干拓事業の進行に伴う漁業被害と環境破壊拡大への対応に関する質問に対する答弁書(平成十五年八月二十九日内閣衆質一五六第一二五号。以下「第一二五号答弁書」という。)(十)についてで、調整池の水質は、基本的には流入河川の水質を反映しており、最大の流入河川である本明川下流の水質と比較して特段汚染しているものではないと述べている。
(十)について
(九)についてで述べたとおり、調整池の水質は、経年的に悪化しているとは認められない。
(十一)及び(十二)について
調整池水質調査における調査地点P1は、調整池に位置するものの、本明川の現河口の近傍に位置し、本明川河口の水質を最も良く反映している調査地点であることから、諫早湾干拓事業の進行に伴う環境破壊拡大と短期開門調査結果の評価に関する質問に対する答弁書(平成十五年十月七日内閣衆質一五七第九号)別表一において、位置を示した上で、本明川河口と表記したものである。
また、第一二五号答弁書で述べたとおり、中央干拓地の農業用水の取水口の設置位置は、水質調査地点P1よりも調整池中央寄りとなる、本明川の現河口から約千四百メートルの地点に決定したものであり、調整池から取水するとしたこれまでの答弁に誤りはない。
(十三)について
有明海における漁業の健全な発展を確保するため、有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律(平成十四年法律第百二十号)に基づく基本方針に即して、有明海の環境の保全及び改善並びに有明海における水産資源の回復等による漁業の振興を図ることとしており、これにより漁業経営の安定及び発展に努めてまいりたい。
なお、災害による被害を受けた漁業者等に対しては、農林漁業金融公庫の沿岸漁業経営安定資金等の低利の融資制度が措置されているところである。また、農林漁業金融公庫資金、漁業近代化資金等の既往借入制度資金については、災害による被害を受けた漁業者等からの申出に基づき、金融機関等が一定の範囲内で据置期間の延長、償還猶予等を行うことができることとされている。
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