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国選弁護制度の改善に関する質問主意書
衆議院 第84回 第54号お答えすることは困難 ×2
質問本文
衆議院議長 保利 茂 殿
国選弁護制度の改善に関する質問主意書
刑事事件の公判の開廷についての暫定的特例を定める法律案(以下「特例法」という。)が現在、国会で審議中である。連合赤軍事件のような世間を騒がせた大事件の判決が、現在の裁判制度を前提にし、一ヵ月に二回程度の開廷だと第一審判決が下されるまでだけでも三十年位の期間を要すると言われている。三十年も日時が経過すると、証人も記憶が薄れたり、死亡したりして正しい判決が下されるかどうかもわからない。また、裁判の教育的効果から考えても、どんな大事件でも二年か、三年の期間で判決が下されることを多くの国民は望んでいると思う。そうすると、大事件の場合だと一週間に二日間位は公判を開かねばならなくなるであろう。これの準備のために、毎日、弁護士は膨大な記録を読み、メモを取り、頭の中へ叩き込み、関係者と打合せ等をしなければならなくなり、一週間のうち、ほとんど大半の時間を大事件のために費やさねばならなくなる。大事件の審理促進に協力しようとすれば、担当弁護士は他の事件の依頼をほとんど全部断らねばならず、弁護士は生活して行くことができない。
弁護人抜き裁判法が成立して、審理は促進されても、弁護士が十分に準備できない内容の貧弱な裁判では、民主々義国家ではない。迅速、かつ、充実した裁判を実現するには、特例法を作るだけでなく、国選弁護制度の充実と発展を図ることが不可欠だと思う。
そこで、次の事項について政府の見解を求める。
一 弁護士の生活の全部又はほとんどの精力を大事件の国選弁護のために費やし、他の事件の収入がほとんど途絶えるような場合には、国選弁護料を大幅にアップしなければ、大事件の国選弁護人となる者がないのではないか。
二 現在、国選弁護料は、刑事訴訟費用等に関する法律第八条の「刑事訴訟法第三十八条第二項の規定による弁護人に支給すべき報酬の額は、裁判所が相当と認めるところによる。」という規定を根拠として定められている。
1 大事件の国選弁護を引き受けるか、どうかの場合に、当該弁護士としては、この事件を引き受ければどの位時間を要するのか、この事件を責任を持つて担当するとすれば、他の事件をどの位依頼があつても断らなければならないのか、そのためにどの程度減収になるのか、これだけの犠牲を払いながらこの国選弁護事件を引き受ければ、いつ、どれだけの報酬を、どんな基準で貰えるのかわからなければ、引き受ける人はいないのではないか。国選弁護についても、着手金の支払い、毎月の支払い、明確な計算基準を定めるべきであると思うがいかがか。
2 時として弁護士は、依頼者のために裁判官と争うこともある。ところが、争いの相手方である裁判官が一方的に弁護士の報酬を何の明確な基準もなく定める現在の制度は、改善を要するのではないか。(公務員の場合には人事院、労働者の場合には労働組合の力を借りて、働く者の意見は何かの形で賃金決定に反映できるようになつているが、国選弁護人の場合のみ、働く立場の者の意見が何も反映されないのはおかしい。)
3 報酬の額が国選弁護人にとつて不満の場合に、控訴や、上告によつて争う手段がないのも、制度として不備ではないか。
三 昭和二十三年には裁判官俸給(判事三号俸)が月一二、〇〇〇円、国選弁護料報酬基準額(地裁開廷三回)は一、二〇〇円であつた。昭和五十三年四月には裁判官俸給(判事三号俸)が月六五三、〇〇〇円、国選弁護料報酬基準額(地裁開廷三回)は三三、三〇〇円、同じ法曹でありながら裁判官の給料の上昇に比して、国選弁護料の上昇が極めて悪いのは何故か。
四 法務省、最高裁判所の努力にもかかわらず、他の省と比べ予算の獲得が極めて少なく、そのシワ寄せを国選弁護人に与え、かつ、正しい者を裁判で泣き寝入りにさせている。国選弁護料は、地方裁判所事件で開廷三回の場合には、裁判官俸給(判事三号俸)の一〇パーセント程度と定める等して、政治的圧力の大小によつて、法治国家として必要な経費まで削減されてはならないのではないか。大蔵省は、国選弁護料予算の決定は、何を基準にして行つてきたのか。
五 特例法のみが成立し、一から四までに述べたような国選弁護の改善がなされなければ、感情的に裁判官が公判期日のみを一週間に二日位と決め、弁護士がそれの準備に時間的、経済的に対応し得ず、形骸化された裁判になつてしまうのではないか。特例法の制定以外に国選弁護制度の改善について政府は妙案を考えているのか。
右質問する。
政府答弁書
一について
国選弁護人に支給される報酬の額は、刑事訴訟費用等に関する法律第八条第二項により、「裁判所が相当と認めるところによる」ものとされているので、政府としては、具体的な報酬額の決定については、答弁し得る立場にないが、裁判所においては、右の規定に基づき、個々の事件について、それぞれ、事件の難易、弁護人の訴訟活動、特に公判前の準備活動の程度、開廷回数、開廷頻度等、諸般の事情を考慮して報酬額を決定されていると承知している。したがつて、御指摘のような場合には、当然、裁判所において、当該国選弁護人の負担の度合等を十分考慮して、相当な額の報酬が支給されることとなるものと思われる。
二について
1 弁護人の訴訟活動は、事件の難易、準備の程度、開廷回数、開廷頻度等によつて千差万別であるから、その報酬について、一律に明確かつ合理的な計算基準を定めることは極めて困難であると思われる。
また、現在でも、例えば、国選弁護人が否認事件等で大部の記録を謄写するなどして多額の謄写料を要した場合等にあつては、当該弁護人からの請求に基づき、その都度裁判所から報酬の支払がなされていると承知しており、このような方法を更に活用するなど、国選弁護人に負担をかけない措置を講ずることにより、御指摘のような問題は解決し得るものと考えられる。
2 国選弁護人に支給される報酬の額は、個々の事件について、事件の難易、弁護人の訴訟活動の程度、特に公判前の準備活動の程度、開廷回数、開廷頻度等の諸般の事情を考慮して決定されるべきものであるところ、右の事情は、現にその事件を担当し、弁護人の訴訟活動につぶさに接している裁判所が最もよく承知しているところであるので、具体的な報酬の額を裁判所が決定することとしている現行の制度には十分理由があるものと考える。
なお、弁護人が、報酬の請求をするに際し、裁判所において報酬の額を決定するに当たつて参しやくすべき具体的な事情を申し出ることは、もちろん差し支えないし、それが合理的なものである限り、裁判所においても十分参しやくされるものと思われる。
3 国選弁護人に支給される報酬の額の決定に当たつては、弁護人の訴訟活動の程度等、とりわけ公判前の準備活動の程度等が十分考慮されなければならないが、これらの事情は、現に事件を担当し、弁護人の訴訟活動につぶさに接した裁判所のみがよく知ることができ、しかも訴訟記録には、それらの事情の一部しか表わされないのを常とするから、報酬額の決定に対し不服申立ての規定を設けていない現行の制度にも十分な合理性があると考える。しかし、御指摘のような考え方にも傾聴すべき点があると考えるので、今後の検討課題といたしたい。
三について
昭和二十三年当時の判事の報酬の区分と現在のそれとはかなり違つており、昭和二十三年当時の判事三号俸は、現在の判事三号俸に対応するものではないので、これを基準とする増加率の比較は困難であるが、最近における国選弁護人報酬の基準額(裁判所による報酬額決定の便宜を考慮して最高裁判所が通達で示している額)の増加率は、裁判官報酬のそれをかなり上回つている。
四について
国選弁護人に支給される報酬の額として、どの程度の額が相当であるかについては、いろいろな見方があると思われるが、国選弁護人が付される事件の大部分は、いわゆる自白事件であり、開廷回数も多くはないこと、それだけに弁護人の負担の度合もさほど高くはないこと等の事情からすれば、一般的には、現在の報酬額が一概に低いとはいい得ないと考える。
もつとも、国選弁護人が付される事件であつても、事案により、弁護人の負担の度合が特に高い場合があり、そのような場合に、裁判所において格別の考慮が払われてしかるべきであること、また、弁護人の訴訟活動が千差万別であるところから、その報酬額を一定のものとするのは必ずしも適当ではないことは、一について及び二についてで説明したとおりである。
なお、国選弁護人に支給される報酬の予算額の決定に当たつては、一般の公務員の給与のべースアップ率等を参考にしつつ、更に、国選弁護人制度の重要性を勘案して、予算上特別な配慮をしている。
五について
裁判の形骸化を防止するためには国選弁護活動の一層の充実強化が必要であり、この点については、法曹三者の協力によつて解決し得るところが少なくないと考えているが、政府としても、国選弁護活動の充実強化のため、今後ともできる限りの努力を尽くす所存である。
右答弁する。
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