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労災・職業病患者に対する「はり・きゆう」等の保険給付打切りに関する質問主意書

衆議院 第98回 第26号

提出者
衆議院
提出日
1983年5月26日
内閣転送 1983年5月26日
答弁書受領日
1983年6月14日
提出から19日
答弁の項目数
3
質問 2,200字/答弁 1,658字

質問本文

衆議院議長 福田 一 殿

労災・職業病患者に対する「はり・きゆう」等の保険給付打切りに関する質問主意書

労働省は昨年五月、「労災保険における、はり・きゆう及びマッサージの施術に係る保険給付の取扱いについて」という通達(基発三七五号)を発し、七月一日から実施した。

この三七五通達は、はり・きゆうの施術が、労災・職業病の治療にとつて根治療法としての医学的効果が認められないとして、施術できる要件をせばめるとともに、施術期間を原則として九ヵ月間にきり縮めたものである。

本通達の実施により、全国で七百名以上の労災・職業病患者が「症状固定・治ゆ」と労働省に一方的に認定され、保険給付が打ち切られ、治療の継続、医療費・生活費の問題及び職場復帰の保障などの点で深刻な状況に直面している。よつて、以下の点について質問する。

一 今回保険給付が打ち切られた患者はすべて、「症状が固定し、治ゆした」という労働基準監督署の認定に基づき給付が不支給とされたものである。

ところが、労働省が今回の打切り措置を行う前に患者の主治医に求めた診断書・意見書では、そのほとんどが症状固定や治ゆを認めたものはなく、症状は不安定であり、ましてや治ゆしておらず、治療の継続が必要であるとしている。

(一) 主治医の医学的判断が右に述べた内容であるにもかかわらず、労働省が「症状固定・治ゆ」と認定した判断の基準は何か。

(二) 患者の症状を判断・認定することは極めて重要な結果をもたらすものであるが、行政側がこれを行う場合の法令上の根拠は何か。

(三) かかる判断・認定を行う場合、慎重さと十分な診察を行うことは最低の前提である。労働省は主治医の判断とは別に、局医の意見を参考にしたと言つているが、局医は直接患者を診察したのかどうか。診察をせずに局医から出された意見は、重大な判断を行う上での医学上の意見たり得ると考えるのかどうか。

(四) 労働省が「症状固定・治ゆ」と認定したとしても、患者自身の自覚症状があり、しかも主治医が、治療の継続が必要と判断している場合、当然のことながら治療は続けられるべきである。しかし、労災保険給付が打ち切られ、しかも「業務上に起因」する疾病である限り、健康保険法第一条の「業務外ノ事由二因ル疾病」の規定によつて、同法による給付の対象とならないことになるが、この場合、一体誰が、この治療費を負担することになるのか。改めて申し述べるまでもないが、国民皆保険制度のもとで、且つ又、業務上に起因する疾病として認定されている以上、自己負担すべき何らの理由は存在しないのである。明確な見解を求める。

二 労災保険制度の目的の一つは「社会復帰の促進」(同法第一条)にあるが、今回の措置は保険給付の打切りにとどまらず、患者の職場復帰をも困難にし、解雇・退職という患者の労働権そのものを脅かすことになりかねないものである。

労働省は十年前の昭和四十八年十一月に、長期療養を余儀なくされている「むちうち症」や「頸肩腕症候群」などの労災・職業病患者の職場復帰を促進するため、基発五九三号通達を発し、特別の対策を進めてきた。この五九三通達は、患者が身体的に傷ついているだけでなく、精神的に不安定な状況にあるという両側面を統一的にとらえており、長期療養者であることを踏まえ、職場復帰には短時間の勤務から徐々に慣らしていくという段階的・計画的な職場復帰訓練がどうしても必要であるとするものであつた。

(一) ところが、休業中の患者に、突然「症状固定・治ゆ」と労働省が認定し、会社にも通知したことにより、会社から患者本人に「治ゆ」である以上、出勤せよとの復職命令が出されている。

また、二時間、四時間など短時間での職場復帰訓練中の労働者にも、「労働省が治ゆと認めた」から普通勤務に復帰せよと強要がなされ、勤務できない労働時間は欠勤扱いにされる労働者も出ている。

労働省が行つた「治ゆ」認定は、即、普通勤務が可能であると意味するのか。

(二) 企業のこのような扱いは、五九三通達の「段階的・計画的な職場復帰訓練」の必要性を否定するものと考えるが、労働省はどう指導するのか。

(三) 企業が段階的訓練就労を認めない場合、欠勤扱いから結局は、解雇問題も発生するであろう。

労働省が「治ゆ」認定したことがその原因であり、解雇させないために、労働省は具体的にどうするのか。

(四) 保険給付を打ち切られた患者のなかには、復帰する職場が倒産等でなくなつている労働者もいるが、このような生活の途を絶たれた者には、どのような生活補償、就労保障を考えているのか。

(五) 無理を押して職場復帰し、再び症状が悪化するなど再発の場合どのように取り扱うのか。

三 今回の対象者は頸肩腕症候群など難治性の長期療養者が多数である。

今回の三七五通達実施によつて、今後は保険給付の打切りが「制度化」されることになり、その都度、今回のような深刻な事態が繰り返されることになるのである。従つて、今、最も重要なことは、頸肩腕症候群などの労災・職業病に対して抜本的な治療方法を研究し、確立することである。

(一) 労働省は、この問題についてどのような対策を持つているのか。

(二) 労働省は、厚生省や文部省と協議し、本格的な検討を行うべきだと考えるがどうか。

右質問する。

衆議院の原文・経過

政府答弁書

一について

(一) 労働者災害補償保険においては、傷病の状態が固定し、療養の効果が期待し得ないと認められるに至つたときは治癒とすることとしており、疾病については、慢性症状が持続しているとしても急性症状が消退し療養の効果が期待し得ない状態になつたと判断されたときは治癒とすることとしている。

はり・きゆうの施術については、根治療法ではないが、疼痛・しびれ等の神経症状を緩解するという効果が期待され、その効果はおおむね六か月の期間においてみられるという医学的な考え方に基づき、従来、労働者災害補償保険においては施術期間の限度を六か月としてきたところであるが、先般、はり・きゆうについて造詣の深い専門家の意見を参酌し、また、労働者災害補償保険の特殊性をも考慮して、この施術期間の限度を三か月間延長し九か月とし、特に必要なものについては十二か月としたものである。

(二) 療養補償給付は、労働者災害補償保険法第十二条の八第二項に定める要件に該当する場合に、同法第十三条に定めるところにより行うものである。

(三) 労働基準監督署長は、保険給付を行うに当たつて、傷病労働者の療養の経過、主治医の診断及び意見、地方労災医員(以下「局医」という。)の意見等を参考にするとともに、必要に応じ傷病労働者に対し受診命令を行う等により症状を把握し、適正な処理に努めているところである。

局医の意見は必ずしも傷病労働者を診察した上で出されるものではないが、その療養の内容及び経過、主治医の診断及び意見等の医証により療養の効果の有無について客観的、専門的に判断しているものである。

(四) 労働者災害補償保険における療養補償給付は、当該傷病について療養の効果が期待できる場合に支給するものであり、療養の効果が期待できない状態に至つた後は支給できない。

二について

(一) 労働者災害補償保険における治癒の判断は、当該労働者について療養補償給付を継続して支給するか否かを決定するためのものであり、いかなる勤務に服することができるかという問題に係るものではない。

なお、傷病が治癒したときに一定の身体障害が存する場合は、請求により、その障害の程度に応じて障害補償給付を受けることができるものである。

(二)から(四)まで 治癒後の被災労働者の職場復帰に関する問題及び当該労働者の企業内における処遇に関する問題は、本来、労使間で解決すべきものであることから、昭和四十八年十一月五日付け基発第五百九十三号通達の範囲において所要の指導を行う考えであり、法令に違反する行為があると認められる場合を除き、行政庁が強権をもつてこれらの問題に介入することはない。また、倒産等で職場を失い就労することができない者に対しては、その者の希望や適性に応じ、職業紹介、職業訓練等を関係行政機関において実施しているところである。

(五) 業務上の傷病が治癒した後に、次の要件のいずれをも満たすに至つた場合には、再発として労働者災害補償保険における所定の保険給付の対象となるものである。

(1) 現在の傷病と業務上の傷病たる当初の傷病との間に医学上の相当因果関係が存在すること。

(2) 治癒時の症状に比し現在の傷病の症状が悪化していること。

(3) 療養の効果が期待できるものであること。

三について

頸肩腕症候群については、その発生の仕組みが医学的にみて必ずしも明確にされておらず、したがつて効果的な治療方法も確立されていない現状である。

頸肩腕症候群等の疾病の治療方法については、基本的には、より広い医学的見地から取り組むべき問題であると考えるが、労働省においては、これらの疾病の治療方法等に関する専門的な研究を委託する等の方策を講じてきたところである。今後とも調査研究の充実により、更に効果的な治療方法の解明に努め、一方、それらを通じて医学界における職業性疾病の治療方法の確立のための研究気運の醸成を図るとともに、関係省庁の連携にも配慮してまいりたい。

右答弁する。

衆議院の原文

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