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小学校の漢字教育に関する質問主意書
衆議院 第142回 第54号お答えすることは困難 ×1
質問本文
いま、日本の小学校では一年生の教室でも授業がまともに成立しない学級がある。このことは学年が進むにしたがってなお顕著になっている。授業がまともに成立しない理由のひとつとして、子どもたちは授業が「わからない・できない」から「おもしろくない」というのがある。それは、子どもたちが「わかるまで・できるまで」、教えることができるようになっていないからである。その原因は教育内容の過多と必要とする指導時間の少なさにある。教科書は、ずっと以前に私たちの世代が使用したものとはるかに異なった詰め込みの内容に変容しているのである。
なかでも国語科の漢字の多さは子どもにとってたいへんな重荷になっているし、小学校の国語教育のひずみの元凶のひとつになっている。
国語は、すべての教科の土台であり、知的活動の基礎である。日本人が自分の考え・意思を伝え、自分の思考をゆたかにして認識を深めていくうえで、漢字・漢字語は特別に重要な位置を占めている。そういう重要性をもった漢字・漢字語の教育において、理解・定着がしっかりはかられないまま、詰め込み教育になってしまっているのはゆゆしき事態である。
そこで、以下、小学校国語科の漢字教育について質問する。
一 「教育課程実施状況に関する総合的調査研究」(国語科は一九九四年実施、一九九七年発表)の結果が公表されている。それによれば、第五学年国語A調査表は、 一年生配当の「休む」および三年生配当の「反対」、「住所」、「運ぶ」の書きの調査である。その通過率は一年生配当分の「休む」こそ九四・五パーセント(それでも二〇人に一人が書けない実態がある)であるものの、三年生配当分の三つは、それぞれ六三・五パーセント、六七・一パーセント、七九・一パーセントである。これらの漢字・漢字語は、日常話すとき、聞くとき、書くとき、読むときに使用するものである。五年生でこれらが書けない子どもは、作文などを書く時に使用できないということになる。
また、第五学年国語B調査表は、あてはまる漢字を選択する問題である。五問中二問の通過率が五〇パーセント台、一問が六〇パーセント台である。
これらの問題の難易度と通過率から見て、児童の学習状況が「おおむね良好」とはいいがたい。
また、書きの前回調査(一九八一年〜一九八二年実施)との比較では、通過率に低下傾向が見られるし、選択問題はあきらかに低下している。選択問題では、五問すべてにおいて低下しており、通過率は、平均マイナス四・四パーセントである。問題によっては通過率マイナス九・ニパーセントというものもある。
文部省は、これらの結果をどのように評価しているか。いまの児童の学習状況に問題はないと判断するのか。
二 小学校第一学年の配当漢字は、現行の学習指導要領では、八〇字である。ひらがな、カタカナ指導のうえにこの漢字八〇字が加わるのである。
一年生のひらがな指導は、たんに「あいうえお……」の文字を指導すればよいわけではない。その文字の指導はもちろん、鉛筆の持ち方、線や形をかく(指導に必要な時間は6時間、以下同)、音と文字との照応(2〜3)、清音(30〜35)、濁音(4〜5)、助詞(3〜4)、促音(2〜3)、拗音(3〜4)、長音(8〜10)、拗長音・拗促音・長促音(3〜5)、特別な使い方「ぢ」、「づ」(2〜3)、まとめ(3〜5)で、70〜90時間必要であると、現場の教師あるいは研究者からの報告がある。ところが、ある有力な出版社の教科用図書の教師用書による配当時間数は、18〜19時間である。
そのうえに、カタカナ指導がはいってくるが、いつその指導をするか、時間をうみだすのも困難な現状である。カタカナは、漢字の構成要素となり、書き順も漢字に似ているので、時間を十分とってしっかり教えるようにすべきである。カタカナは、第二学年および第三学年でも指導されることになっているが、それらの学年で指導時間をうみだすことはいっそう困難になっている。
このように、小学校第一学年の文字指導の内容は、ひらがなで一二〇の学習事項があり、カタカナで一一〇、そのうえ八〇字の漢字指導がある。合計で三〇〇をこえる。
これだけの量の学習事項を習得させることが、すべての子どもにとって可能であると、文部省は考えているのか。
三 小学校第三学年の配当漢字数は二〇〇である。この数は、毎日漢字約一字ずつ学習していくことになる。
そのうえ、一・二年生時の漢字が、「山」、「川」、「学校」など、日常接する具体物をあらわすのに対して、三年生で出てくるものは、「意」、「発」、「安」など、抽象度の高い概念で使用される漢字が多くなってくる。そのため子どもたちは、新しい知識・概念を身につける漢字学習が本来は楽しくなってくるはずなのであるが、時間を十分にかけないと、理解がむずかしくなる。
ところが、毎日一字はたいへんな負担で、読み、意味、成り立ち、筆順、使われ方などを理解するには十分な時間がとれない。「たくさんの漢字に教師も子どもたちもあえいでいます」との、現場の教師の声もある。
国語嫌いの子どもが多いという調査があるが、それは漢字の詰め込みにも原因がある。機械的な書きの過密な練習が子どもを国語嫌いにさせている。
小学校三年生で二〇〇字の漢字は過多ではないか。それが国語嫌いの子どもをつくっている原因のひとつではないか。
四 文部省はいま、「厳選」という観点で学習指導要領の改定作業に入っているとおもわれる。
現行学習指導要領に基づく教育漢字の総数は一〇〇六である。このなかには、第六学年に配当されている「仁」や「操」などのように、現代日本の子どもの発達段階からみて理解が困難とおもわれる難漢字がふくまれている。また、第四学年配当の「梅」、「松」あるいは第六学年配当の「絹」などのように、抽象的概念を獲得して発達していくうえで必要性が高いとはおもわれない、その漢字一字だけでしか使用されない種類の漢字(雑漢字)がふくまれている。
子どもたちが漢字を理解しながら楽しく学習していくためには、漢字指導を、日常生活における読み書き能力の形成と概念獲得のための、ことばの指導として位置づける必要がある。そのような点から、現行の教育漢字を、のちの学習に必要な基本的漢字と、雑漢字・難漢字とにわけ、精選し、全体として教育漢字数を減らすことが必要とおもわれるが、いかがか。
五 教育課程審議会の作業は近々答申をまとめるという段階にはいっていると報道されている。
教育課程審議会は、これまでに現場の教師の研究団体あるいは教職員組合などから漢字教育の実態およびありかたなどについてヒアリングをしているのか。漢字教育の現状に批判、あるいは疑問をもっている団体から意見を聴取したことはあるのか。もしあるなら、どんな意見・疑問が出されたのか知らされたい。もしないなら、今後そういうとりくみを計画すべきであると考えるが、いかがか。
右質問する。
政府答弁書
一について
平成五年度に実施した小学校の国語の「教育課程実施状況に関する総合的調査研究」のペーパーテストは、漢字の問題、文章の読み取り問題、作文の問題等で構成されており、これらの問題を一定の時間内に解答する方法で行われたものである。その性格にかんがみ、平均通過率が七〇パーセント程度であれば、全体としてはおおむね良好であると考えている。
漢字の問題は、平仮名を漢字に直す問題、漢字の読み仮名を問う問題、文の中に入れる漢字を選択する問題、漢字を組み合わせて熟語をつくる問題で構成されており、その平均通過率は、第五学年では七十七・七パーセント、第六学年では七十八・六パーセントであった。今回の調査と過去の調査の結果を見ると、第五学年国語A調査の平仮名を漢字に直す問題では過去との比較で通過率が平均十・九ポイント上昇するなど高くなったものがある一方、同B調査の文の中に入れる漢字を選択する問題では過去との比較で通過率が平均四・四ポイント減少するなど低くなったものもあり、一概に比較することはできないが、全体としてはおおむね良好であると考えている。
また、文部省が委嘱した「児童の語彙及び漢字の習得に関する調査研究(平成七年度)」において平成元年の小学校学習指導要領の改訂で学年移動し又は追加した漢字八十字の習得状況等について調査した結果によると、六十六字については、読み書きともに習得率が八十パーセントを超え、残りの十四字については、八十パーセント以下であったが、いずれも六十一パーセント以上であった。
このような調査結果を踏まえ、文部省においては、現行の漢字の学年配当及び児童の学習状況については特に問題はないと考えている。
二について
現行小学校学習指導要領の第一学年では、その後の学習や他教科の学習の基礎となる平仮名、片仮名及び漢字についての指導を重点的に取り上げることとしており、平仮名を読み、また、書くこと、片仮名の大体を読み、また、書くこと、当該学年に配当されている漢字を読みその大体を書くこと等を指導することとしている。
現行小学校学習指導要領の漢字の学年別配当については、学識経験者や教員等の専門家からなる会議を設け、各種の調査を踏まえて検討を行ったものであり、児童の日常生活及び他教科の学習において必要な漢字であること、児童の習得率等からみて無理のない漢字であること等を考慮し、第一学年においては、八十字の漢字を配当している。
このため、第一学年の各教科、道徳及び特別活動の年間総授業時数(八百五十単位時間)のうち、その三十六パーセントに当たる年間三百六単位時間(週当たり九単位時間)を国語に配当しているところである。この授業時数で、これらの指導事項を習得することは可能であると考えている。
三について
二についてで述べたとおりの検討を行い、第三学年においては、二百字の漢字を配当し、当該学年までに配当されている漢字を読みその大体を書くことを指導することとしている。
一についてで述べたペーパーテストの結果によると、第三学年に配当されている漢字の平均通過率は八十一パーセントであった。
また、一についてで述べた「児童の語彙及び漢字の習得に関する調査研究(平成七年度)」において平成元年の学習指導要領の改訂で第三学年に加えられた漢字十九字の習得状況等について調査した結果によると、読みについては十九字すべての漢字が習得率八十パーセントを超え、書きについては習得率が八十パーセントを超えた漢字が十六字で、その他三字は七十一パーセント以上八十パーセント以下となっている。このような調査結果を踏まえ、文部省においては、現行の学年配当は適切なものと考えている。
なお、教科の好き嫌いには、様々な要因が考えられるが、それを特定することは困難である。
四について
現行学習指導要領における漢字の取扱いについては、常用漢字表(千九百四十五字)が一般社会における漢字使用の目安として制定されたものであることを考慮し、高等学校までの指導において常用漢字の読みに慣れ、主な常用漢字を書くことができるよう漢字の力を身に付けさせるという観点に立って定めている。小学校及び中学校段階における字数及び字種については、児童生徒の発達段階、これまでの実施の経験を踏まえ、定めているところであり、小学校については、中学校及び高等学校との関連を考慮し、次のような基準により選定し、千六字の漢字を読みその大体を書くことを指導することとしている。
1 当該学年の児童の日常生活及び学校生活に必要な用語を表記する漢字であること。その際、国民としての将来の社会生活に必要な用語を表記する漢字についても考慮すること。
2 当該学年の国語科及び他教科において必要な学習用語を表記する漢字であること。
3 当該学年の児童にとって従来の習得率や定着率からみて無理のない漢字であること。
4 漢字の字形及び字義について、漢字の構成上基本的なものであることや意味上の対応関係からみて適切な漢字であることを考慮すること。
教育課程の基準の改善について審議を行っている教育課程審議会の審議のまとめにおいては、現行小学校学習指導要領の学年別漢字配当表の漢字について、児童生徒の学習負担の実態に配慮し、読みの指導は基本的に現行どおりとしつつ、書きの指導については上の学年に移行することとしており、文部省においては、その答申を踏まえ、適切に対処してまいりたい。
五について
教育課程審議会においては、審議の過程において、教科教育研究団体、教職員団体等から意見を聴取し、審議の参考にしているところである。
漢字の指導については、教科教育研究団体、教職員団体等から、漢字を覚えることは全教科の最も重要な基本であること、学年別配当漢字を弾力化するとともに、読みを中心とすること、「読める漢字」と「書ける漢字」に分け、「書ける漢字」の数を減らすこと、小学校で覚えなければならない漢字の数を減らすこと、「読み」と「書き」を分離した学習は、子どもの学習を困難にすることなどの意見が寄せられた。
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