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バルーチャン水力発電所修復プロジェクト(ミャンマー)に関する質問主意書
衆議院 第151回 第87号
質問本文
プロジェクトの概要
日本政府は本年四月、来日した外務副大臣に対しミャンマー東部カヤー州のバルーチャン水力発電所の修復について無償資金協力(35億円)を行うことを約束した。
バルーチャン水力発電所はミャンマーにおける最大の水力発電所で、ミャンマー全体の電力消費量の2割程度を生産している。1960年、日本の対ビルマ戦時賠償第一号として建設され、1986年には補修のための有償資金協力(35・3億円)が実施されている。
ミャンマーの都市部では停電が常態化するなど電力事情の悪さが大きな問題になっている。一方、発電施設の老朽化、送電時の多大な電力ロス、また98年前後には、発電所水源地域での渇水により、発電量が低下したことが指摘されている。
しかしながら、ミャンマーにおいては軍事政権による深刻な人権問題が存在しており、国連総会、国連人権委員会において軍事政権を非難する決議が採択されている。また、ILOなどの国際機関、人権活動家からも強い非難が寄せられており、状況が改善されない状況で大規模なODA供与を行うことに関しては、世界的な論議の対象になっている。5月15日に行われた米国上院歳出委員会小委員会での公聴会ではパウエル国務長官が「適切な投資ではない」と発言するなど、多くの批判が寄せられている。
日本政府はミャンマーでの電力問題を水力発電所および、周辺設備の維持などの設備面からのみ検討するのではなく、国民民主連盟(NLD)と現政権の対話を進展させ、民主化推進に寄与する役割を果たす手段と捉え、電力確保という名目のもとで生存を脅かされている地域住民の人権状況の改善にも繋がるよう総合的な角度から検討すべきである。本プロジェクト決定の経緯や人権問題に関する政府の見解について、以下質問する。
一 地域住民の合意
このプロジェクトを実施する上で、昨年、国際協力事業団の専門家がフィージビリティースタディー(F/S)を行ったが、プロジェクトの実施によって影響を受ける地域に住む住民の賛同意志については、当然意志確認調査を行ったものと考える。その手法は何か。またどのような結果が得られたのか。プロセスも含め、詳細に示されたい。
二 事前調査について
1 バルーチャン水力発電所の修復に関しては35億円の無償資金が供与されるとされている。従来ミャンマーにおいては、このようなプロジェクト実施に使われる金額の不透明性が指摘されており、このプロジェクトに対する世界的な批判を考慮すると、徹底して透明性を追求しなければならない。35億円はダムの修復費用としては極めて大きな金額であるが、金額の根拠を項目ごとに詳細に示されたい。
2 同州やシャン州では97年から数年に渡って降水量が減少しており、バルーチャン川上流のインレー湖でも水量が激減した。その結果、発電所上流のモブエ・ダムの水量が減少したことが、深刻な電力不足の根本の原因であると指摘されている。同ダムの水量の減少が電力不足の要因であるならば、発電所の修復は本質的な解決にはならないと考えられるが、この点について政府はどのように考えているのか。見解を伺いたい。
3 この水不足を原因の一つとして、モブエ・ダムから農業用水を引いていた農民に対し、ミャンマー政府は98年に取水制限命令を下し、すべての水を発電所向けに確保するため、モブエ・ダムの両脇の水路を閉鎖した。この措置によって、周辺に住む農民は作物を栽培できない状態であると伝えられている。
ダムの修復作業によって、この状況がさらに悪化する可能性も考えられるが、周辺の農業への影響緩和のためにはどのような対策を考えているのか。具体的な対応策を示されたい。
三 人権問題
1 ミャンマーでは従来、大きなプロジェクトが入ると一帯が軍の支配下に置かれ、直接間接的に軍の使役や建設作業のために強制労働が行われる。地域住民の生活は大きな打撃を受け、農業や教育などにも悪影響が生じている。
この実態については国連総会、国連人権委員会において軍事政権を非難する決議が採択されている他、ILOなどの国際機関、人権活動家から強い批判が寄せられているが、政府はミャンマーの人権状況、および奉仕労働の強制の実態をどのように認識しているのか。詳細な説明を示されたい。
2 ミャンマーにおいては、プロジェクトの実施によって発生する強制労働や無償での立ち退きなどより、地域の住民生活の貧困化に拍車がかかるとの見方が一般的である。これは、ODA大綱にある人権への配慮には明らかに反するとみなされ、本プロジェクトの実施についても見直すべきとの諸外国から強い非難が寄せられている。この点に関し政府はどのように認識しているか。 見解を詳細に伺いたい。
3 軍事政権は1981年以降、水力発電所周辺に地雷を設置しており、周辺には未だ3000もの地雷があると言われている。厳密には停戦状態にはないとの指摘もあり、ミャンマー国内の民族融和と民主化が進展していない状況での修復は再び反政府勢力の標的となり、援助が無駄になる可能性もある。これらの状況について政府はどのように認識しているか、見解を示されたい。
4 軍事政権・国家平和発展評議会による民主化勢力の抑圧や少数民族への人権侵害は全国的に続いており、国境のタイ側には13万人以上とも言われる難民が避難している。また数十万人が国内避難民として国内で生活しており、外部から一切の援助を受けることができない状況が続いていると報道されている。これらはこの国の人権問題を表す実例であるが、政府はこの状況についてどのように認識しているのか。
四 ユーゴスラビアの援助と中国からの資金の還流
このプロジェクトに関する日本政府が実施予定の改修工事以外の送電線工事などについては、ユーゴスラビアが請け負うことになり、総額3000万ドル、年利3・5%で有償資金協力を行うことがミャンマー政府との間で契約に正式調印された(平成13年5月17日)。
しかしながら、ユーゴスラビアが海外に資金援助できる余裕がないことは明白で、日本から資金援助を受ける一方で、第三国への支援を拡大している中国の資金の還流を指摘する声も出ている。
1 この件に関しては、中国、およびユーゴ政府の見解について、どのような形で事情聴取を行ったのか。中国、ユーゴスラビア両政府の見解はどのようなものだったのか詳細を示されたい。
2 我が国のODAが第三国に還流される事態は看過できないものであるが、日本政府としてはどのように認識しているのか。また、今後はどのような対応を考えているのか、具体的に示されたい。
五 電力の軍事利用に関して
日本政府はこのプロジェクトを人道援助としているが、インターナショナルヘラルドトリビューン紙などの報道機関は、電力の3分の1は軍関係が使っているとの調査結果を報道している。人道援助と称して発電所の改修を行い、軍に電力を供給することは許されないとの国際社会の指摘について、政府の見解を示されたい。
六 民主化実現への影響
ミャンマー国内において人権問題等の状況に進展が見られず、国際社会が軍事政権と国民民主連盟(NLD)との対話を慎重な姿勢を取る中、日本が経済援助を行うことは、軍事政権の政策を容認しているとのシグナルを発することになる。この点についての影響力をどのように認識しているのか。見解を示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
バルーチャン第二水力発電所(以下「本件発電所」という。)の補修工事(以下「本件補修工事」という。)は、老朽化した発電機、変圧器等の入替え等小規模な工事を積み重ねていく性格のものであり、現地住民の生活に重大な影響を及ぼすような大規模なものではないが、政府としては、現地住民の意見を含め、本件補修工事の様々な側面につき調査を行っていく考えである。ちなみに、政府は、本年六月十九日から同月二十一日まで現地に調査団(以下「現地調査団」という。)を派遣し現地住民の意向も聴取したところ、現地住民からは本件補修工事の実施を支持する意向が表明された。
なお、御指摘の国際協力事業団の専門家は、本件発電所の保守点検を行うために派遣されたものであり、本件補修工事の実施を想定した調査を行ったわけではない。
二の1について
本件補修工事に係る供与額は、今後基本設計調査を行い、ミャンマー政府とも協議を行った上で決定されていくものであり、現時点で確定しているわけではない。
二の2について
平成九年及び平成十年の異常な降水量の減少のために平成十年及び平成十一年のモビエ・ダムの貯水量が大幅に減少したことから、平成十年度及び平成十一年度の本件発電所における発電量は大幅に減少したが、平成十一年秋以降、同ダムの貯水量は回復し、昨年度の発電量は平成九年度以前の水準に回復したと承知している。ミャンマーには雨季と乾季があり、年間を通じて同ダムの貯水量は変動するが、通常は乾季においても、本件発電所の能力を発揮するために十分な貯水量が確保されていると承知している。
他方、本件発電所は、建設後約四十年が経過し設備が老朽化し、現在同ダムの貯水量は十分であるにもかかわらず、本件発電所の現在の出力は本来の発電能力に達しておらず、また、漏水、漏電、磨耗等により発電機が頻繁に緊急停止する状況にあるとともに、現状のままでは、水車の破損、絶縁不良による火災等により完全に機能を停止するおそれもあり、これらの点は現地調査団も確認している。政府としては、そのような事態に陥れば、多数のミャンマー国民の日常生活に影響を与えることから、本件補修工事を緊急に実施する必要があると考えている。
二の3について
ミャンマー政府に照会したところ、平成十年に取水制限を行ったことはないとの回答を得ている。また、現地調査団からは、平成九年及び平成十年の異常な降水量の減少に伴い、モビエ・ダム周辺が渇水状況にあったため周辺の農民が取水に困難を来したことはあるが、同ダムの両脇の水路が閉鎖された事実はなく、また、農作物については、収量は減少したものの、栽培できなかったという事実はないとの報告を得ている。
その後、平成十一年及び平成十二年において降水量が回復したことから、現在は同ダムの貯水量は十分に確保されている。また、同ダムから下流域に位置する本件発電所の補修工事は同ダムの貯水量に影響を与えるものではないことから、同ダム周辺の農業に悪影響が及ぶことは想定されず、この点は現地調査団も確認した。したがって、現時点において我が国政府として特段の対策を検討していることはない。ちなみに、現地調査団によれば、同ダムのかんがい地域の農民は、同ダム建設及び本件発電所の電力を使用した揚水設備によるかんがい水路の整備により生産が安定し、二期作も可能となったこと、同ダム周辺の農村に電力が供給され生活や教育が向上したこと等の恩恵を受けているとのことであった。
いずれにせよ、本件補修工事についての今後の調査においては、地域住民に与える影響を含め様々な側面につき検討していく考えである。
三の1について
我が国は、ミャンマーにおける出版物の事前検閲、集会及び結社の自由の制限、強制労働等、様々な人権問題について懸念しており、同国の人権状況の一層の改善が必要であると考えている。このため、同国に対し引き続き粘り強い働き掛けを行っていく所存である。
特に強制労働問題については、国際労働機関(以下「ILO」という。)審査委員会勧告を受けて同国が実施したとされる強制労働廃止のための実効的措置の実施状況等を客観的に評価する目的でILOの調査団が本年九月に同国に派遣される予定であり、我が国としては、同調査団の調査報告をも注意深く検討していく考えである。
三の2について
本件補修工事は、発電機、変圧器等の入替え等の小規模な工事を積み重ねていく性格のものであり、したがって、多数の労働者を現地で雇用したり、周辺住民を移転させたりする必要があるプロジェクトではない。いずれにせよ、本件補修工事については、政府開発援助大綱(平成四年六月三十日閣議決定)を踏まえ、民主化の促進、基本的人権の保障等にも十分注意を払いつつ、ミャンマー政府の要請、その経済社会状況、日本とミャンマーとの二国間関係等を総合的に判断した上で、実施する旨をミャンマー政府に伝えたものであり、同大綱に抵触するものではない。
なお、ミャンマー政府に対しては、従来から、民主化、人権状況の改善等につき申入れを行ってきており、今後ともこうした働き掛けを行うとともに、本件補修工事については、ミャンマーにおける今後の状況を十分勘案しつつ実施することを考えている。
三の3について
ミャンマー政府に照会したところ、本件発電所周辺には、地雷は埋設されておらず、また、反政府勢力の基地も存在しないとの回答を得ており、現地の治安状況に特段の問題はないと考えているが、本件補修工事の実施に際しては、同国政府に対して現地の治安の確保に努めるよう要請する等、治安状況に最大限留意していく考えである。
三の4について
我が国政府は、ミャンマーにおける民主化勢力に対する抑圧、少数民族に対する人権侵害、タイへの難民及び国内避難民に関する問題等、様々な人権問題について懸念しており、ミャンマーの民主化及び人権状況の一層の改善が必要であると考えている。このため、同国に対し引き続き粘り強い働き掛けを行っていく所存である。
四の1について
御指摘の送電線工事については、本年五月十日にユーゴースラヴィアの企業とミャンマー電力公社との間で契約が締結されたと承知しているが、本件発電所とは直接関係がないと承知している。
また、中国及びユーゴースラヴィア両国政府に対し、我が国大使館を通じて事実関係を照会したところ、中国政府からは、我が国が供与した資金を他に使用することは制度上あり得ないとの回答を得ており、また、ユーゴースラヴィア政府からは、同政府としては当該契約に関与していないとの回答を得ている。
四の2について
我が国の政府開発援助資金は、我が国政府の認証した特定のプロジェクトに関する契約に従い当該契約業者に対し支払われることを国際約束により担保しているため、第三国において他の目的で使用されることはあり得ない。
五について
本件発電所はミャンマー全体の約二十五パーセントの電力を発電しており、そのほとんどがヤンゴン及びマンダレー両都市を中心に広く一般国民に供給されているとともに、病院や貧困層向け施設に優先して供給されている。また、ミャンマー政府電力省からは、平成十一年度の総供給量の九十五パーセントないし九十六パーセントが民生向けであるとの回答を得ている。したがって、本件補修工事はあくまでも民生目的の支援である。
六について
我が国としては、ミャンマーにおける現在の民主化及び人権状況に決して満足しているものではなく、状況改善のためにはミャンマー政府と国民民主連盟との間で現在行われている対話を更に意味のあるものとしていくことが重要と認識している。
ミャンマーに対する政府開発援助については、民主化及び人権状況の改善を見守りつつ、当面は既往継続案件や民衆に直接裨益する基礎生活分野の案件を中心に個別に検討の上実施する方針である。今般、ミャンマー政府に対し通報を行った本件補修工事もその一環として実施するものであり、その際、この対話を進展させるよう強く申し入れたところである。
このようなミャンマー政府に対する働き掛けは、同国政府との関係を維持してこそ可能であり、本件援助も、この意味で、右の対話の進展等にも資するものと考えている。
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