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国会の国政調整権と検察権との関係に関する質問主意書
衆議院 第48回 第10号
質問本文
衆議院議長 ※(注)田 中 殿
国会の国政調査権と検察権との関係に関する質問主意書
一 日本国憲法第六十二条の国政調査権は、本来の裁判作用を除き、広く立法、行政、司法の各分野に及ぶものと思うが、政府の見解いかん。
二 前項の国政調査権は、本来の立法上の補充的権能にとどまらず国会は国権の最高機関として各種の行政作用に対する監督権能であると思うが、政府の所見いかん。
三 検察事務の責任者たる法務大臣は内閣の一員であるから検察事務もまた行政作用の一として調査権の対象となり、犯罪の捜査に関してはもとより起訴、不起訴についてもその妥当性の有無を国会は調査することができると思うが、政府の所見いかん。
四 日本国憲法第六十二条衆議院規則第九十四条一項により国会の常任委員会が国政調査権を有することは明らかであるが、その結果常任委員会の構成員たる各委員が検察権の行使が公正に行なわれたかどうかにつき政府に質問することは委員の当然の権利と思うが、政府の所見いかん。
五 わが国の刑事訴訟法は、起訴、不起訴の権限を検事に独占せしめ、しかも起訴の便宜主義という広範な権限を与えている。この公訴権の官僚独占の弊害をコントロールするために検察審査会法が存在し、刑事訴訟法第二百六十一条が存在する。検察審査会法第一条にあるがごとく公訴権の実行に関し民意を反映せしめその適正を図るという趣旨よりするならば、国民の代表である国会議員がその常任委員会において公訴権行使の適正の有無を明らかにするために質問し、政府は捜査の妨害にもならず、個人の名誉を傷つけざる範囲において詳細に納得のいく説明をすることが国会尊重の日本国憲法および前記法律の精神にかなつたものであると思うが、政府の所見いかん。
六 昭和三十九年十二月十七日第四十七国会の衆議院法務委員会において、近江絹糸株式会社元社長丹波秀伯の業務上横領告発事件につき委員の質問に対する政府委員の答弁は、捜査の密行なる原則を極端に固守して事実の真相を明らかにしなかつたうらみがある。
たとえば、前記丹波が一億二千万円の金を会社から引き出したことは認められるが、丹波は個人の利益のために費消したものではないから犯罪の嫌疑が不十分として不起訴処分にしたと答弁している。
ある金額が個人のために費消されたものでないということから直ちに犯罪の嫌疑が不十分ということになるであろうか。丹波において自分個人のためではなく、会社のためと思つて費消したとしても、その弁解だけで直ちに犯罪の嫌疑なしとはいえない。本来の会社の目的にあらざる方面に費消された場合においては政治資金規正法違反、あるいは刑法の単純贈賄、あつせん贈賄、背任等の犯罪の嫌疑がおこる。これらの犯罪は親告罪でないからたとえ告発人が業務上横領で告発しても、それ以外の犯罪の容疑があるならば検察官は捜査しなければならない。
その点についての説明をせずしては不起訴処分が適正であることの釈明にはならないと思うが、政府の所見いかん。
なお、不起訴処分の理由には、丹波の費消は会社の利益になつたものであるとなつているが、いかなる点が会社の利益になる支出であるか明らかにして欲しい。
七 昭和三十九年二月二十九日、日本社会党の綱紀粛正委員会の山田委員長ほか、坂本、※(注)近、野原、坂上、猪俣の五委員が訪阪し、大阪地方検察庁の検事正室において、当事の井嶋検事正、占部特捜部長、志賀刑事部長同席の席上、占部特捜部長から丹波の費消した金のうち政治献金が五千八百万あることを言明されたのである。しかるに前記法務委員会において政府委員は、かかる明白な点についても答弁しないのである。
その理由として個人の名誉にかかわり、捜査について協力を得られない恐れがある旨の答弁をしている。この理由も誠に珍妙であるが、坂本委員がかさねて個人の名を出さないでいいから一億二千万円がどの方面にどの位費消されたかの点だけでも明らかにせよ、と迫つたに対しても答弁を拒否している。
結論として検察当局が事件の起訴、不起訴の処分後なお捜査の密行なる原則をたてに本件についていうならばいかなる方面に丹波がいくら金を費消したかを明らかにしないことは、公訴権の行使が適正であるかどうかについての議員の国会における調査に協力しないことを意味し、これは検察行政に対する国会の監督権を無視するものである。特に直接調査にあたつた検察官が国会外において公然言明した事実すらも答弁しないことは、国会軽視の態度といわざるをえないと思うが、政府の所見いかん。
右質問する。
政府答弁書
一 国会の衆・参両議院がそれぞれ国政に関する調査を行ない、その調査のため証人の出頭及び証言並びに記録の提出を求めることができることは、憲法第六十二条に規定するところであり、その権限は広く立法、行政、司法の各分野に及ぶものではあるが、そこには、後述するようなこの権限が認められている趣旨及び三権分立の大原則から生ずる一定の限界が存するものと考える。
二 右の国政調査権は、立法権、行政監督権、予算審議権、条約承認権等憲法によつて認められた国会の権限を有効適切に行使するための補充的権限であるから、その限度においてこれを行使しうるものと考える。
三 検察権は行政権の一部であるから、検察行政事務についてはもとより、検察事務についても、国政調査の対象となることは、質問のとおりであり、指摘にかかる犯罪の捜査及び起訴、不起訴の決定が検察事務に属することは、いうまでもない。
しかしながら、検察権は司法権と特殊緊密な関係にあり、準司法的な性格を持つものである。三権分立を原則とする現行憲法のもとにおいて、司法権の独立を確保すべきことは、いうまでもないが、司法が公正に行なわれるためには、まずもつて、その前提をなす検察権が適正公平に行使されることが強く要請せられる。しこうして、検察権を適正に行使するためには、その秘密は、厳重に保持せられる必要がある。検察官は、いかなる犯罪についても、捜査をし、刑事について公訴を行ない、裁判所に法の正当な適用を請求することをもつて最も重要な職務の一つとしている。そして、犯罪を捜査するため、必要とするあらゆる取調べをすることが許されており、場合によつては、令状を得て被疑者を逮捕し、また、被疑者あるいは被疑者以外の物又は住居について捜索をし、証拠物の差押をするなどの強制処分を行なうことができる。かような強い権限に基づいて犯罪の捜査を遂行するのであるから、人の秘密にわたる事項に触れるのはもとより、取調べの内容についても、秘匿を要すべきものがあるとともに、他面、捜査の遂行上、捜査の方針、技術、方法など秘密とすべき事項の含まれることも当然といわなければならない。すなわち、検察が具体的事件の捜査の内容を秘匿しなければならないのは、他人の名誉を保護せんとするにとどまらず、最も大切なことは、捜査の内容自体を秘匿しなければ、その職務の遂行そのものに支障をきたし、現在及び将来にわたる検察の運営に重大な障害をもたらすおそれがあるからである。したがつて、検察権を適正に行使し、司法の公正な運営を確保するためには、刑事訴訟法上にもその旨の規定がおかれているように、捜査の秘密は、厳重に保持せられる必要があるのである。
議院が国政調査権に基づいて、公益上必要ありとして調査を行なう場合において、政府がこれに協力すべきことは当然であるが、右に述べたような観点から、捜査の内容等の秘密であつて現在及び将来の検察運営に重大な支障をきたすおそれのある事項については、国の重大な利益に悪影響を及ぼすおそれのあるものとして、これを明らかにしないこともやむを得ないところと考えるのであり、このような意味において国政調査権に一定の限界の存することは、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律第五条の規定に徴しても明らかである。
四 憲法第六十二条、衆議院規則第九十四条第一項の規定により議院の常任委員会が検察権の行使に関する調査を行なう場合においては、委員は、国政調査権の範囲内において、これに関する質疑を行ないうるものと考える。
五 検察審査会は、検察審査会法の規定するところにより、具体的事件について、検察官のした公訴を提起しない処分の当否を審査する機関である。一方、議院の国政調査権は、二において述べたような権限であるから、検察審査会の具体的事件に関する権限とは、おのずからその目的、行使の方法等において異なるものがあり、議院が国政調査権として検察審査会と同様の権限を行使しうるものとは考えない。
六 指摘にかかる衆議院法務委員会における政府委員の答弁は、三において述べた見地から妥当と認められる範囲において説明を行なつたものである。
七 議院の国政調査権は、十分尊重されるべきものであり、この権限に基づく調査に対しては、政府としてもできる限り協力する考えであるが、本件については、捜査の秘密にわたる部分があつたため、これに関する質問に対し答弁を差し控えたのである。それは、既に述べたとおり、このような捜査の秘密を厳に保持することが、将来にわたる検察権の公正な行使、ひいては刑事司法の公正妥当な運営を期するうえに不可欠であると考えられたためにほかならない。
右答弁する。
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