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アイヌ民族についての日本政府の認識に関する質問主意書
参議院 第153回 第1号趣旨が明らかではない ×1
質問本文
我が国に居住するアイヌの人々の民族的位置付けに関する政府対応は、これまで様々な紆余曲折を経ながらも平成八年の「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告」と、これに基づき平成九年に制定を見た「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(以下「アイヌ文化振興法」という。)をもって規定したところである。
すなわち、前述の有識者懇談会報告は、アイヌの人々の「民族としての先住性」に関して「当時の『和人』との関係において日本列島北部周辺、とりわけ我が国固有の領土である北海道に先住していたことは否定できない」として、アイヌの人々が「先住民族」であるとの概念を示した。さらに、その今日的な存在については「民族としての帰属意識が脈々と流れており、(中略)民族としての独自性を保っていると見るべきであり、近い将来においてもそれが失われると見通すことはできない」としたのである。
一方、アイヌ文化振興法は、先住民族であり、かつ現に存在しているアイヌの人々に関して、その民族としての誇りが尊重される社会の実現と民族の誇りの源泉であるアイヌ文化の振興と伝統の普及を目的に制定された。しかるに最近、閣僚等においてアイヌ民族の誇りを傷つけ、またアイヌ文化振興法の精神を蔑ろにするかの発言があることは憂慮すべき事態と思慮する。そこでこれらに関連して、以下質問する。
一、平沼経済産業大臣の単一民族発言について
1 平沼大臣は去る七月二日、札幌市内で開催された政経セミナーの講演において「日本ほどレベルの高い単一民族で詰まっている国はない」と発言した。この発言は、発言の真意のいかんを問わず、アイヌ民族の存在を否定することであり、アイヌ民族の誇りと尊厳を著しく傷つけたばかりか、アイヌ文化振興法はもとより、我が国が批准する国際人権規約及び人種差別撤廃条約等の精神にも著しく反し、我が国を代表する国務大臣の資質に欠けるものと思慮するが、政府の見解を示されたい。
2 平沼大臣は、同発言に対する財団法人北海道ウタリ協会(以下「協会」という。)の質問に対し、「アイヌの方々の民族としての誇りを傷つける意図は微塵もなかった」とする一方、「単一民族との言葉を用いたことにより、アイヌの方々に誤解を生じたとすれば遺憾」等とする回答を行った。この回答は意図不明であるばかりか、アイヌ民族の存在を否定したと受け取ることは「アイヌの方々の誤解(誤った解釈)」とも受け取れ、責任の転嫁を図ったものである。
平沼大臣は、自己の非を率直に認め関係する発言の撤回をするとともに、大臣名をもって公式に謝罪すべきが妥当と思慮するが政府の見解を示されたい。あわせて平沼大臣の任命権者である小泉総理大臣の任命責任を明らかにされたい。
3 平沼大臣は、自己の「単一民族」発言について、八月二十四日付けの協会への回答において「単一民族」との発言は不本意であり、講演で私が主張しようとした本意は『日本国民』であります」と答えている。平沼大臣の本意に従えば、発言は「日本ほどレベルの高い『日本国民』で詰まっている国はない」との表現になるが、このような認識自体が母国や民族を異にする様々な人たちとの共生を否定し、「単一民族」観を生み出す誤った認識なのである。閣僚のこのような認識は、国連人種差別撤廃委員会が第千四百五十九回会合において我が国政府に発した最終所見、なかんずくC項「懸念事項及び勧告」の趣旨に反するものと思慮するが、政府の見解を示されたい。
二、田中外務大臣のユーゴスラビア大統領との会談発言について
田中大臣は、去る七月十六日、ユーゴスラビアを公式訪問中、同国大統領との会談において「日本は単一民族」と述べたと外務官僚が記者団に説明、その後、この発言はなかったとの報道がなされた。これが事実であるならば、人権及び民族差別等に関する国際規約等を所掌する外務大臣の発言として看過できないものがあり、政府は、田中大臣とユーゴスラビア大統領との会談記録の公表及び外務省担当官の記者発表の経緯等を明らかにすべきと思慮するが、政府の見解を示されたい。
三、反人種主義・差別撤廃世界会議へのアイヌ民族の代表派遣について
1 政府は、去る八月二十八日から九月七日の期間、南アフリカのダーバンにおいて開催された反人種主義・差別撤廃世界会議に派遣する政府代表団にアイヌ民族を加える方針を固め、七月十一日にはその意向を協会に伝えた。また、八月三日には外務省としての人選結果を伝えたと報道された。
しかしその後、協会は役員人事の異動に伴う人選の差し替えを外務省に申し出たが、外務省は協会の人選に難色を示したことから、協会は政府枠での派遣を見送ったとされている。この件に関して協会は八月二十一日、「(外務省の)人選に不明確な点がある」「(人選については)当協会の意向が尊重されなかったのは遺憾」「(協会役員が外務省に出向いた際の担当官の応接について)デスクをたたいて大声で威圧するなど極めて高圧的」等を要旨とする抗議文を田中外務大臣に送付した。外務省による一連の対応は、協会に対する政府の不当な組織介入、人選への介入、人権と人格を無視した侮蔑行為をうかがわせるに充分なものがあるが、本件に係る一連の政府対応について事実関係と見解を明らかにされたい。
2 反人種主義・差別撤廃世界会議に派遣する政府代表団の人選について、会議を統括する国連人権高等弁務官事務所からの事前の誘引等があったのか否か。あったとすれば、人選に何らかの前提条件等が付されたのかについて明らかにされたい。
3 協会への今後の対応について、政府の方針を示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
政府は、我が国が単一民族国家である旨主張するものではなく、平沼経済産業大臣が本年七月二日に札幌市内で開催された政経セミナーの講演において「これだけの一億二千六百万のレベルの高い、単一民族でびちっと詰まっている国」と発言した趣旨も、我が国にはレベルの高い人的資源が豊富であることから日本経済の潜在的な可能性が高いということであり、「単一民族」との発言は本意ではなく、その本意は「日本国民」 であったと承知している。
社団法人北海道ウタリ協会(以下「ウタリ協会」という。)からの質問に対する平沼経済産業大臣の本年七月十二日付け回答の趣旨は、「単一民族」との言葉を用いたことによりアイヌの人々の誇りを傷つけてしまったとすれば遺憾であるということであり、この趣旨については、平沼経済産業大臣が本年十月二十五日にウタリ協会の方々と会談した際に改めて説明を行い、御理解いただいたと承知している。政府としても、今般の発言によりアイヌの人々の誇りを傷つけてしまったとすれば遺憾であると考えているが、以上のような事実関係等に照らすと、内閣総理大臣の任命責任が問題となるような事案であるとは考えていない。
また、平沼経済産業大臣の認識が、人種差別の撤廃に関する委員会の最終見解C項「懸念事項及び勧告」の趣旨に反するとの御指摘が何を意味するのか必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、政府としては、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成九年法律第五十二号。以下「アイヌ文化振興法」という。)に基づく施策の推進を通じ、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図っていく所存である。
二について
本年七月十六日から十七日までの間、田中外務大臣は、ユーゴースラヴィア連邦共和国を訪問し、十六日、コシュトゥーニツァ同国大統領と会談を行ったが、同会談で田中外務大臣が「日本は単一民族」と発言した事実はない。また、同日の会談後、外務省職員が記者に対し、当初、同会談における田中外務大臣の発言につき事実と異なる説明を行ってしまったものの、直ちにお尋ねのような発言はなかった旨を明確に説明したところである。なお、同会談の記録については、ユーゴースラヴィア連邦共和国との信頼関係が損なわれるおそれがあり、公表は差し控えたい。
三の1について
本年八月三十一日から九月八日までの間、南アフリカ共和国のダーバンにおいて開催された「人種主義、人種差別、外国人排斥及びそれに関連する不寛容に反対する世界会議」(以下「人種主義に反対する世界会議」という。)の日本政府代表団については、会議の趣旨にかんがみ、政府代表団の一員として民間からの参加を内々に検討した。政府としては、当時ウタリ協会の副理事長の地位にあった者(以下「候補者」という。)について、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構理事や北海道立アイヌ民族文化研究センター運営委員を務めるなど候補者の国内での活動、国際連合人権委員会や人権小委員会及び人種差別の撤廃に関する委員会への出席など候補者の国際的活動、候補者の人柄や見識の高さ等から判断して、政府代表団の一員にふさわしいと考え、本年七月までに、ウタリ協会を通じて、候補者に対し、代表団への個人としての参加を非公式に打診したものである。
本年八月六日にウタリ協会から、事情により候補者が政府代表団に参加できなくなった旨の連絡があったので、同月八日、外務省を来訪したウタリ協会理事長らから事情を聴いたところ、ウタリ協会として副理事長を解任された候補者の政府代表団への参加は認められず、再検討にも応じられない旨の回答があったことから、候補者の政府代表団への参加を断念した。
このように、政府としては、候補者に対し個人として政府代表団への参加を打診したものであって、ウタリ協会に対し政府代表団への参加に係る人選を依頼したものではないから、「協会に対する政府の不当な組織介入、人選への介入、人権と人格を無視した侮蔑行為」を行ったとの御指摘は当たらないと考える。また、本年八月八日にウタリ協会理事長らから事情を聴いた際、議論が白熱した場面もあったが、外務省においては、同人らに対し誠実に対応したと考えている。
三の2について
人種主義に反対する世界会議に派遣する政府代表団の構成について、国際連合人権高等弁務官事務所からの事前の要請等はなく、したがって、人選に関するいかなる条件も付された事実はない。
三の3について
政府としては、今後とも、ウタリ協会を始めとする関係者の協力を適切に得つつ、アイヌ文化振興法に基づく施策等、アイヌの人々に関する様々な施策に取り組んでまいる所存である。
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