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染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビスクロロ・メチールエーテル等)の製造及び使用に従事した従業員の被災救済に関する質問主意書
参議院 第77回 第20号承知していない ×1
質問本文
昭和三〇年代に始まつたわが国の高度経済成長政策は技術革新、産業の合理化によつて生産工程、生産方法とそれに伴う労働および労働条件、作業環境に急激な変化をもたらした。それらが同時に職業病あるいは健康障害について、量と質の変化さらには種類の大幅な拡大をもたらし、深刻な社会問題となつている。
こうしたなかで、最近、染料中間体を製造使用の労働に従事していた労働者が膀胱ガン、肺ガンなどの職業ガンによつて死亡する事例があいついで発生している。いうまでもなく職業ガンは潜伏期間が長いうえにその原因や発生条件が必ずしも単純でないので、その発見から対策までに著しく長い年月が費やされてきた。それだけに職業ガン対策は迅速な情報の処理によつて手速くうたれなければならない。
現在問題となつている染料中間体は、英国のICI社では、ベーターナフチルアミンが一九五二年に、ベンジジンについては一九六二年にすでに自主的に製造を中止しており、また英国政府は、一九六七年に「発ガン性物質取締規則」を制定し、これによつてこれら有害物質の製造、使用を禁止しているだけでなく製造、使用のための雇用の禁止をも実施している。しかるにわが国においては、ベンジジン及びベーターナフチルアミンがそれぞれ一九七二年一〇月、ビスクロロ・メチールエーテルが昨年四月に「特定化学物質等障害予防規則」によてつ製造がやつと禁止になつた。したがつて、わが国の染料中間体による職業ガン予防対策は英国など諸外国と比較して二〇年も遅れており、労働者の人命軽視の労働行政がこれまで行われていたことになる。
そこで染料中間体による職業疾患は、発病までに一〇年から二〇年もの長年月を経過したのちに発病するという実態からみて、かつて製造と使用に従事してきた労働者の健康管理は「仕事によつてかかつた病気は完全になおさせる」という原則から当然企業と行政の責任によつて実施すべきである。
このような観点から、これら従業員の補償による救済健康管理さらに職業ガン発生予防について政府に次の諸点にわたり質問するので明確にして誠意ある答弁を求める。
一 一九七四年の第五九回ILO総会において「がん原性物質及び因子による職業性障害の防止及び管理に関する条約」(第一三九号)と勧告が採択された。しかし政府は、この条約と勧告について、おおむね妥当であるが、わが国の実情に照らして若干の問題もあり、慎重に検討を加えるとして、この条約の批准に消極的な姿勢を示している。そこで政府は具体的にこの条約及び勧告についてどこに問題があつて批准をしようとしないのか、さらにいつ頃までに関係国内法を整備してこの条約を批准するのか明らかにせよ。
二 さきに述べたように、わが国において、染料中間体による職業ガンが起因で死亡する労働者及び疾病者が潜伏期間が長いことから今後多数発生すると予測される。そこで原因を明らかにし、労働者の健康管理を徹底させるためにも、わが国における染料中間体の製造企業名と製造企業別に製造開始と中止の時期、またわが国の年次別及び製造企業別の生産量、これら製品の市場における商品名さらにこの商品を販売した卸売企業等の企業名を明らかにされたい。
三 次に染料中間体を輸入した業者名、輸入の開始と終了の時期、またわが国の年次別の輸入実績量、さらに、輸入先のメーカー名を公表すること。
四 染料中間体のユーザー企業名の一覧表と年次別の各企業の使用量を明らかにすること。
五 染料中間体を使用した企業におけるその使用方法、工程等の状況を明らかにすること。
六 染料中間体の製造、ユーザー、輸入の各部門の企業で実際に従事した労働者数を明らかにするとともに、特に製造、ユーザー部門の企業名別の従業員数を明確にすること。
七 政府が染料中間体の製造を許可した理由及び製造を中止した理由についても詳細かつ明確に説明すること。
八 米国、英国、西独等の諸外国において染料中間体が起因である職業ガンの発生状況、被災者に対する政府、企業の生活補償制度の内容さらに米国、西独において製造が禁止となつた年度について詳細に報告せよ。
九 現在労働省は、染料中間体の製造、使用に従事した従業員の健康管理をどのように実施し、また、すでに企業を退職した従業員についての追跡調査によつて、どの程度の人数と健康状態を個々にどの程度把握しているのかその実態を明らかにすること。
十 全国各地に散在している職業ガンによる死亡者及び疾病被災者の員数とこれら被災者に対する労働者災害補償保険制度及び企業の責任による独自の生活補償の実態を明らかにせよ。
十一 職業ガンにかかわる争訟の事例があるか、もしあればその概要を示せ。
十二 これら被災者らの救済のために今後政府がとるべき措置を具体的に明らかにすること。
右質問する。
政府答弁書
一について
御指摘の条約及び勧告の内容は、我が国においては、労働安全衛生法その他関係法令によりおおむね実施されているところである。
なお、できるだけ早く関係国内法令を整備し、この条約を批准する方向で、細部について更に検討を加えているところである。
二について
我が国における染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン及びビス(クロロメチル)エーテル)の製造開始時期は、ベンジジンにあつては大正八年、ベーターナフチルアミンにあつては大正十年、ビス(クロロメチル)エーテルにあつては昭和三十年であるが、前記二品目の本格的な生産が行われたのは昭和二十年代である。製造を中止した時期は、ベンジジンにあつては昭和四十七年、ベーターナフチルアミンにあつては昭和四十五年、ビス(クロロメチル)エーテルにあつては昭和三十七年であり、その間の生産量の推移は、化成品工業協会の調べによると別表のとおりである。
三について
ベンジジンとベーターナフチルアミンは、昭和四十七年労働安全衛生法に基づき製造禁止となり、IQ品目(輸入割当品目)に指定されて以来輸入実績はない。
また、ビス(クロロメチル)エーテルは、昭和五十年に同法に基づき製造禁止となり、同時にIQ品目(輸入割当品目)に指定されて以来輸入実績はない。
四について
染料中間体のユーザーは、染料製造業界であるが、極めて多種多様の染料に使用されているので、個別の使用量についてはは握できていない。
五について
(一) ベンジジンを使用した染料製造工程
テトラゾ槽でベンジジンをテトラゾ化してカップリング槽に移す。H酸、アニリン-メタ-フエニレンジアミンをカップリング槽に入れカップリングを行う。塩酸で酸析してフイルタープレスでろ過後、減圧乾燥機で乾燥し、次に粉砕機で粉砕して配合機で配合する。
(二) ベーターナフチルアミンを使用した染料製造工程
縮合釜にトルオール、ベーターオキシナフトエ酸、ベーターナフチルアミンを仕込み三塩化リンを注入した後沸とう点において逆流下反応が終了するまで煮沸する。ケーキ状になつたものにソーダ灰液を加えてかくはんし、フイルタープレスでろ過、洗浄を行う。
(三) ビス(クロロメチル)エーテルを使用した染料製造工程
塩化アルミとピリジンを冷却しつつかくはんしながらこれにビス(クロロメチル)エーテルとフタロシアニンブルーを少量ずつ加える。
一方、硫酸を加えて次にパラホルムアルデヒドを加えて冷却しながらかくはんし溶解したものにクロールスルホン酸を少量ずつ加えて前者と反応させる。
六について
製造等が禁止されている染料中間体等の製造を行つていた事業場において当該業務に従事していた労働者数で、は握されているものは、次のとおりである。
(一) ベンジジン及びベーターナフチルアミンの製造の業務に従事していた労働者数 約一、九〇〇名
(二) ビス(クロロメチル)エーテルの製造に従事していた労働者数 約三〇名
また、輸入、ユーザー部門に従事した労働者数については、不明である。
七について
染料中間体に対して政府の「製造許可制度」というものは元来なかつた。その後、染料中間体製造業務従事者に膀胱腫瘍の発生がみられたことから、設備改善について強力な監督指導を行つてきたが、昭和三十九年以降は染料中間体の中で特に発がん性の強いベンジジン及びベーターナフチルアミンについて製造を中止するよう行政指導を行うとともに、代替品の研究、開発についても指導を行つてきた。
これらの結果、関係事業場においては漸次製造を中止し、昭和四十七年に労働安全衛生法に基づきこれらの製造が禁止される以前に、全事業場における製造は自主的に中止された。
八について
(一) 西ドイツにおいては、バイエル社等でベンジジンによる膀胱がんの発生事例があり、バイエル社は昭和四十六年に自主的に製造を中止した。しかし、ベンジジンの製造は法律上は禁止されていない。
イギリスにおいては、昭和四十二年十二月に、がん原性物質規制規則によりベンジジン(塩酸塩を除く)等の製造が禁止された。
アメリカにおいては、労働安全衛生法上、ベンジジン、ベーターナフチルアミン等のがん原性の染料中間体の製造は禁止されていない。
(二) 染料中間体に起因して発生する職業がんの患者に対する諸外国の政府等による補償の実情はつまびらかではないが、イギリスにおいては一九六五年国民保険(労働災害)法、西ドイツにおいてはライヒ保険法(第三編)、アメリカにおいては各州の州法により、業務に起因する傷病についてはそれぞれ所定の補償等が行われている。
九について
染料中間体等の製造等の業務に常時従事した者で当該事業場において現に使用されているものに対しては労働安全衛生法に基づき、当該事業者に医師による特別の健康診断を実施させている。また、同法においては退職者で一定の期間以上、これらの業務に従事した経験を有するものについては、健康管理手帳の交付を受け国の費用により同様の健康診断を受けることができることになつている。現在これについては約一、一七〇名とは握しているがこの結果、業務に起因する疾病が発見された場合には労災補償を行つている。
十について
(一) 現在は握している職業がんによる死亡者数は一〇二名、被災者数は一一七名である。
(二) 労災保険では、およそ業務に起因する傷病に対しては、事業主の過失の有無にかかわらず、所定の給付を行うこととしている。
(三) なお、労災保険の給付以外に企業が行つているいわゆる上積み補償については、労使間の自主的交渉により決められ、運用されているので、その性格、額、支給方法等も企業によりまちまちであり、実態は必ずしも定かでない。
十一について
職業がんに関する争訟の事例については、現在のところ承知していない。
十二について
業務に起因するがんについては、かねてから、内外の情報の収集、調査研究等を行うことにより、取扱物質等と発がんとの因果関係の究明、保険給付の迅速適正な決定に努めているが、がんについては、その発生のメカニズムあるいは治療方法等医学的にまだ研究が進んでいない部分が少なくなく、的確な予防又は治療対策をたてにくい状況にあるので、問題の重要性にかんがみ、今後とも総合的な対策の推進に一層の努力を尽くしてまいりたい。
別表 染料中間体の生産量(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビス(クロロメチル)エーテル)
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