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国立公衆衛生院、人口問題研究所、国立多摩研究所の統廃合案に関する質問主意書

衆議院 第134回 第12号

提出者
衆議院
提出日
1995年11月10日
内閣転送 1995年11月13日
答弁書受領日
1995年12月5日
提出から25日
答弁の項目数
11
質問 3,615字/答弁 2,336字

質問本文

厚生省は一九九五年一月二十三日、厚生省所管の七国立試験研究機関の組織再編計画の骨子「二十一世紀に向けた厚生科学研究の総合的推進について」を発表し、続けて厚生省厚生科学課は三月六日と四月十一日の厚生科学課による「国立試験研究機関の重点整備・再構築(案)」を提示した(以下一括して「再編案」と呼ぶ)。

この再編案は厚生省の七試験研究機関及び特殊法人社会保障研究所を統廃合するというものである。十月二十四日の衆議院厚生委員会での質疑でも指摘したが、当事者である研究者・職員との事前の話し合いがないままに、またオープンな議論もないままに、トップダウンに一方的・唐突に提示されたものであり、現場の研究者・職員の意見・構想がほとんど反映されていない。

本来、国民の健康と暮らしを守ることを使命とする厚生省は、国民生活に最も密着した官庁として、国民にとって必要な試験・研究・教育を実施する責務がある。しかし、再編案は国民本位の厚生行政の推進という理念が根本的に欠如しており、本来厚生省において必要な試験・研究・教育を充実・発展させる方向ではなく、後退・縮小・切り捨てへと向かわせるものである。これでは国民のニーズが高い領域や専門職員が失われ、国民的な不利益が生じることが懸念される。

とりわけ、�@国立公衆衛生院の廃止、�A人口問題研究所と特殊法人社会保障研究所との統合、�B国立多摩研究所と国立予防衛生研究所との統合、という三つの統廃合案には、当該各職員のみならず国民の各界、各方面から驚きと大きな疑問が投げかけられている。

以上の立場にたって、次の事項を質問する。

一 国立公衆衛生院の廃止に関して

1 「公衆衛生」の理念と国立公衆衛生院の組織について

(1) 日本国憲法第二十五条は、国民の生存権の保障について定めており、同条第二項は、その生存権を具現するための三大シビル・ミニマムの一つとして「公衆衛生」を掲げている。したがって「公衆衛生」という言葉には、国民の健康に対する国の公的責任という意味が含まれているのではないか。

(2) 「公衆衛生」という言葉には、人間のまた人間社会の健康を願うすべての人々(ヒトの健康に関わるすべての職種及び市民)が共同で取り組む、という意味が含まれており、このように国の公的責任(公共性)並びに総合性(学際性)という要素を含む「公衆衛生」という言葉は、他のどんな類語(たとえば、保健医療、地域保健、健康科学など)によっても置き換えのできないものではないか。

(3) 憲法第二十五条第二項は「国は、公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。国がこの責務を果たすためには、今後とも厚生省において公衆衛生の研究・教育が推進されなければならないのではないか。

(4) 国立公衆衛生院は先に述べた公衆衛生の総合性を担保するために�@情報政策系、対人保健系、環境衛生系など公衆衛生の全部門をそろえ、かつ�A研究と教育を一体化する、という理念にもとづいて設立され、今日までわが国における公衆衛生の一大拠点として活動してきた。公衆衛生の向上及び増進のために、また公衆衛生の国際協力のために、今後とも国立公衆衛生院を存続すべきではないか。

(5) 公衆衛生のシンボルともいえる国立公衆衛生院の廃止・解体は、憲法第二十五条第二項に違反しないといえるか。

(6) 公衆衛生教育の面から見ると、国立公衆衛生院は日本における唯一の総合的な公衆衛生教育機関であり、WHO(世界保健機関)からも日本における唯一の公衆衛生大学院(スクール・オブ・パブリックヘルス)として認められている。これまでの修業者は二万六千人を超え、公衆衛生の各分野において活躍してきた。国立公衆衛生院を廃止すれば、わが国の公衆衛生教育の水準・内容が大きく後退し、地方自治体や国民の期待に応えることができなくなるのではないか。

2 国立公衆衛生院の移転について

(1) 一九八八年当時はいわゆる「バブル」期であったが、その後「バブル」経済の崩壊、政府内における首都移転論議の高まりなど社会情勢に大きな変化がみられている。特々会計(現在地の売却により移転費用を捻出)を前提とした一九八八年の閣議決定「国の行政機関等の地方移転」は、「バブル」崩壊による都心の土地の値下がりにより前提が崩れており、また政府内の首都移転推進論議と整合性を欠くなど現実に合わなくなっており見直すべきではないか。

(2) 特に国立公衆衛生院の場合、特々会計における土地の評価額が当初の見込みより極端に低く、特々会計だけでは不足し、移転には一般会計予算も必要という。現在の建物で十分間に合うというのに、移転となると、職員百人ほどの施設を東京都港区白金台から埼玉県和光市まで直線距離にしてわずか一〇キロほど移転させるだけなのに、数百億円の国費が必要となる。財政難のおり、一九八八年の閣議決定に機械的に従って不要不急と思える移転を行うのは、適正な国費の支出といえないのではないか。

(3) 国立公衆衛生院の現在の建物は、日本建築学会が保存必要建物に指定するなど、重要文化財に指定される可能性のある価値ある文化財であり、移転の前に保存問題が検討されなければならないのではないか。

(4) 一九八八年の閣議決定により移転対象機関とされたのは国立公衆衛生院であって、再編案により国立公衆衛生院が廃止されるとなれば、この移転は自体が白紙に戻るのではないか。

(5) 再編案に基づく移転は即、国立公衆衛生院の廃止・解体の実現であり、再編案について職員の十分な納得なしに移転がなされてよいはずがない。職員との十分な話し合いがなされるべきではないか。

(6) 一九八八年の閣議決定により移転対象機関とされた七十九機関中、予め移転を計画していた機関を除いて、未解決の問題をいくつも抱えている国立公衆衛生院の移転のみ急ぐのは合点がいかない。少なくとも上記の問題が解決するまで、移転の予算化は見送るべきではないか。

二 人口問題研究所の統廃合に関して

1 一九九四年の国連主催の国際人口・開発会議(カイロ会議)は、人口研究の重要性を各国政府に勧告しており、わが国政府もこの分野での国際貢献を公約している(河野副総理兼外務大臣演説=一九九四年九月六日)。このように国際的にも人口研究は今後ますます重要性を強めていく中で、現在わが国で唯一の総合的人口研究機関である人口問題研究所はその分野における研究を充実していくべきではないか。

2 特殊法人社会保障研究所と統合する理由は何か。社会保障研究が必要であるのならば本来、社会保障研究所自体を充実すべきことであり、これを廃止する理由はない。「行政改革」の名目で特殊法人社会保障研究所を「廃止」したとみせかけて国に繰り入れるのは、ニセ「行政改革」であり、国民を愚弄するものではないか。ましてやその分の定員を現在の七試験研究機関の定員でまかなうのは、従来の七試験研究機関が責務として担ってきた分野の研究水準を悪化させるものであり、厚生行政の後退ではないか。

3 世界において持続的な経済開発・環境保全と爆発的に増加する人口との調和という難問、国内においては少子化・人口高齢化という難問に直面している現在、人口問題研究は独自の、しかも今後いっそう重要性を増す研究分野であり、社会保障研究に統合できるものではないのではないか。

三 国立多摩研究所の統廃合に関して

1 世界には約千二百万人のハンセン病患者がおり、新患発生も約六十九万人で減少傾向にはない。人類をハンセン病から解放するため、「らいの免疫機構の解明」「予防ワクチンの開発」「らい末梢神経障害の研究」「早期診断技術の開発」「新治らい薬の開発」など解決すべき研究課題が多く残されているが、「らい研究の必要性」についてどのように考えているのか。

2 国立多摩研究所の現在の組織・定員と予算を維持・継続し、現在地に「ハンセン病治療研究センター(仮称)」として残すのであれば、なぜ多くの反対意見やらい研究が縮小されるとの危惧の指摘があるのに、国立予防衛生研究所と統合し支所としなければならないのか。

3 国立多摩研究所がハンセン病単一疾患研究所としてハンセン病療養所に隣接して設立された歴史的経緯がある。また大学等でのらい研究施設は研究者の反対にもかかわらずそのほとんどが閉鎖を余儀なくされた。

「厚生科学研究の大いなる飛躍をめざして・新たな重点研究分野の設定と推進(厚生科学会議)」で「感染症、多剤耐性の結核菌に関する研究」の重点化を答申しているが「結核・非結核性抗酸菌症」研究は、本来国立予防衛生研究所で強化すべきもので、なぜ「ハンセン病治療研究センター」の職務として行わなければならないのか。

右質問する。

衆議院の原文・経過

政府答弁書

一の1の(1)及び(2)について

憲法第二十五条の規定は、全体として、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように国政を運営すべきことを国の責務として宣明したものであり、同条第二項の「公衆衛生」という語のみによってこれに対する国の公的責任が表されているものではないと考える。

一の1の(3)から(6)までについて

厚生省は、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進を図ることを任務とし、これを遂行するために必要な試験、研究等を行うための機関(以下「試験研究機関」という。)を設置しているところである。厚生省においては、人口構造の高齢化、科学技術の進展等を踏まえ、国立公衆衛生院等七つの試験研究機関及び特殊法人社会保障研究所について試験研究及び人材の養成訓練の体制を充実するため、再構築を行うこととしている。国立公衆衛生院は、公衆衛生技術者の養成訓練及びこれに対する公衆衛生に関する学理の応用の調査研究をつかさどる機関であるが、この再構築において、国立医療・病院管理研究所等の機能を統合して、地域の保健医療福祉に関する総合的、実践的な調査研究及び保健医療福祉サービスを担う人材の育成等を行う国立保健医療福祉政策研究所(仮称)に発展的に改組することとしており、御指摘の公衆衛生の研究・教育及び国際協力等の現在の国立公衆衛生院の機能は、再構築後の試験研究機関において承継することとしている。

一の2の(1)について

国の行政機関等の移転は、東京都区部における人口及び行政、経済、文化等に関する機能の過度の集中の是正に資するため、多極分散型国土形成促進法(昭和六十三年法律第八十三号)に基づき、「国の行政機関等の移転について」(昭和六十三年七月十九日閣議決定。以下「昭和六十三年閣議決定」という。)において定めた基本方針に基づいて、業務上東京都区部内に立地することが適当なものを除く地方支分部局、施設等機関等を東京都区部から移転するものである。国の行政機関等の移転については、依然として諸機能等が高い東京集中をみせている状況にあることから、景気の動向に左右されることなく引き続き推進していく必要があるものと考えている。

なお、首都機能の移転は、国会等の移転に関する法律(平成四年法律第百九号)に基づき、国会並びに行政及び司法に関する機能のうち中枢的なものを東京圏以外の地域に移転するものである。現在、その具体化に向けて積極的に検討を進めているところであり、国の行政機関等の移転とあいまって東京一極集甲の是正を図るものである。

一の2の(2)及び(6)について

国立公衆衛生院の移転場所及び移転時期については、昭和六十三年閣議決定及び国の機関等移転推進連絡会議において取りまとめられたものであり、適切なものであると考えている。

一の2の(3)について

現在の国立公衆衛生院の建物については、重要文化財の指定等その保存について検討する予定はない。

一の2の(4)について

厚生省の試験研究機関の再構築においては、国立公衆衛生院の業務の大部分を国立保健医療福祉政策研究所(仮称)が承継することとしていることから、その場合には、当該機関が昭和六十三年閣議決定に基づく移転対象となるものである。

一の2の(5)について

国立公衆衛生院の移転及び試験研究機関の再構築を進めるに当たっては、職員の理解と協力が得られるよう今後とも十分努力してまいりたい。

二の1及び3について

人口問題研究所については、試験研究機関の再構築の一環として、特殊法人社会保障研究所等の機能を承継し、国立社会保障・人口問題研究所(仮称)に発展的に改組することを検討しており、関連分野の研究との連携を強化する等研究体制の充実を図ることとしている。

二の2について

国立社会保障・人口問題研究所(仮称)において社会保障研究所の機能を承継することとするのは、行政改革の一環として特殊法人の整理合理化を推進するだけでなく、二十一世紀の少子・高齢社会の到来を控えて人口問題に関する研究と社会保障に関する研究の連携が重要となってきていること等にかんがみ、これらの研究を総合的に実施することが必要とされるからである。

なお、社会保障研究所の研究機能を承継するために必要な定員については、厚生省の他の試験研究機関の組織及び業務の効率化により、既存の定員の枠内で対応することとしている。これは行政改革の趣旨に沿うものであるが、必要な定員は確保されるので厚生省における調査研究体制の後退にはつながらないものと考えている。

三の1について

ハンセン病については、ハンセン病に関する免疫機構等未解明の研究分野もあり、今後ともハンセン病に関する研究を推進する必要があると考えている。

三の2について

国立多摩研究所については、組織の規模が小さく新規分野への対応及び先進技術の導入に限界があること、また、分子生物学及び免疫学等の進展に伴いハンセン病のみを対象とするよりも感染症全般を対象とした研究体制の中で他の分野の研究成果及び研究設備を活用することが研究の進展に資することから、感染症に関し総合的、先端的な研究を行っている国立予防衛生研究所と統合することを検討している。

三の3について

厚生省の試験研究機関の再構築においては、ハンセン病治療研究センター(仮称)を設置して、ハンセン病に関する研究の充実強化を検討しているが、御指摘の研究については、結核菌がらい菌と同じ抗酸菌属に分類されることから、当該センターにおいて実施することにより、研究成果の相互の活用が可能になる等研究の一層の進展が期待できるものと考えている。

衆議院の原文

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