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北方領土問題について政府の刊行物等に日本政府自らが主権を放棄したがごとき表現がなされていることの訂正と責任追及に関する質問主意書
衆議院 第95回 第5号
質問本文
衆議院議長 福田 一 殿
北方領土問題について政府の刊行物等に日本政府自らが主権を放棄したがごとき表現がなされていることの訂正と責任追及に関する質問主意書
一 日本の市町村数は三、二五五か、三、二六一か。
政府刊行物中特に自治省発行の全国市町村要覧によれば、昭和五十五年及び五十六年版では全国市町村数は三、二五五である。これを北海道だけでみるといずれも二一二市町村である。これは、日本固有の領土として日本国民が挙げて主張している三島六ヵ村を、自治省では、日本領土であることを無視して前記要覧に記載しておらず、現北海道の市町村数を二一二としてあるところに間違いがある。要覧には当然、北海道には二一八市町村とし、全国市町村数は三、二六一として三島六ヵ村分を記載してなければならないのである。自治省の見解は、北方四島は北海道の区域に入つており、うち歯舞諸島は昭和三十四年に根室市に編入されたことに伴い現在根室市の一部になつているが、国後、択捉、色丹の三島の六ヵ村(国後島 ― 泊村、留夜別村、択捉島 ― 紗那村、留別村、蘂取村、色丹島 ― 色丹村)については、「市制町村制以来、あるいは地方自治法による廃村手続を取つていないので現在も存続しているが、ソ連に占拠されているので、行政権の行使できない状態」になつている(参議院地方行政委員会 昭和五十五年十月二十三日 自治省行政局長答弁)。公式見解では、あたかも「廃村手続きを取つてすつきり」した方が良いのだともとれるような消極的態度である。
また、同じ自治省発行の地方公共団体総覧には全然記載されていない。これで領土権を主張する日本政府の態度と言えるだろうか。
二 北方四島七カ村の地図についてなぜ政府の刊行物から抹殺されてきたか。
全国市町村要覧の昭和五十五年版までは地図に村名すら記載されなかつた。ようやく昭和五十六年版に記載されたが、新たに掲載した理由を問うたところ、「行政の実態がないので記載しなかつたが、北方領土に関する論議をふまえ五十六年度版から所要の改訂を作つた」という理由である(全国市町村要覧五十五年版、五十六年版とも三五頁参照のこと)。単に北方領土の論議が高まつてきたから訂正した、というだけで済まされる問題だろうか。まして、後述質問四のことを考えればなお更である。
三 全国市町村の総面積と全国都道府県総面積とが食い違つていて、日本国国家としての体をなしていないと考えるがどうか。
全国都道府県の総面積は三七七、七〇八・〇九平方キロメートルである(全国市町村要覧二九頁)。うち、北海道だけでみると八三、五一六・五七平方キロメートルである(昭和五十六年版全国市町村要覧三六頁)が、同要覧の北海道の市町村の総面積は七八、六二一・九五平方キロメートルであつて、四、八九四・六二平方キロメートルだけ食い違つている。日本政府は、日本国の総面積をどちらが正しいとして採るか。学校の教科書等に日本の総面積はどちらを記載しているか。海外への日本の紹介にはどちらの面積を採つているか。このような食い違いがあつて正しい国家と言えるだろうか。
四 政府は国際司法裁判所にいずれは提訴しなければならないと思うが、その意思はあるのか。
前記要覧及び総覧が国際司法裁判所の審理の際、ソ連側又はソ連に好意的な国から北方三島六ヵ村が日本の領土に入つていないという証拠として出されたとき、どう反論するのか。
北方四島七カ村が日本固有の領土として、「日本が、サンフランシスコ講和条約によつて放棄したものでない」というのが我が国の主張である。サンフランシスコ講和条約参加四十八カ国中、この我が国の主張を正式にコメントしているのは米国のみである(一九五六年ダレス国務長官一九五七年の対ソ米国書簡)。
我が国は、政府・国民挙げて我が国の主張を少なくとも講和条約参加国に理解を求め、その支持を得なければならない。これは、今後朝野挙げての国際活動に待たねばならないと思う。そして最終的には、サンフランシスコ講和条約第二十二条によつて国際司法裁判所に提訴し、その審判を待たねばならないと考える。
さてそのときに、自治省発行の前記全国市町村要覧、地方公共団体総覧(五十五年版以前のもの)がソ連又はソ連に好意的な国から日本の主張の反論資料として出されると思う。要覧、総覧がソ連に入手され、たとえ国際司法裁判所へ証拠資料として提出されるようなことがなくとも、ソ連からみれば、日本政府の領土権主張のあいまいさとしてみられる。
五 地方交付税において北方三島六ヵ村は無視されてきた。なぜか。
左表は、同様に問題になつているこの種諸島の交付税の交付状況である。
戦後における地方交付税の新たに交付された経過
表の(注)にも明らかなように、市町村分の交付税が交付されていないのは三島六ヵ村のみである。これでは交付税上も日本の領土となつていない。「地方交付税法の臨時特例法」(仮称)等の制定により、羅臼町には泊村分を交付するとか、又は、三島六ヵ村分全部を根室市に交付し、北方四島隣接市町で一部事務組合によつてこの交付税を財源として当該隣接地域の振興に充てるとか、方法は考えられるはずだ。(なお、次の質問六にいう三島六ヵ村の役場事務を行うようにすれば、交付税交付について一層の整合性が得られる。)
六 三島六ヵ村の役場事務が行われていない。なぜか。
小笠原諸島は復帰前東京都が役場事務を行つていた。尖閣諸島は現に石垣市で、竹島は五箇村で行つている。尖閣諸島(九島五・八三平方キロメートル)も、竹島(〇・二三一平方キロメートル)も石垣市(二二六・九九平方キロメートル)又は五箇村(五一・九八平方キロメートル)に含まれ、役場事務が行われ、交付税が交付されていて、領土権の主張が鮮明である。
これでこそ領土権を主張する地方自治法、交付税法上の採るべき日本政府の姿勢だと思う。また、北対協の融資に対応する旧島民であるとの証明は千島連盟が行つており、行政が直接担当していない。我が国固有の領土であることを主張する以上、役場事務が行われ、たとえ不法占拠されたとしてもその住民、財産、土地等について当時の記録を持ち、特に住民については死亡した場合の後継者を明確にしておくことこそ領有を主張する基本になる事項と考えられる。六ヵ村の学歴証明についても外地と同様に扱われている。いま旧島民とその子孫は、北方領土が返還されたとき、島に残してきた諸権利 ― 在島財産や漁業権等 ― はそのまま継承されているのかどうか不安を持つている。北方領土の引揚者は樺太、朝鮮、台湾等の引揚者と同様に扱われている(引揚者給付金・在外財産補償金 ― 見舞金 ― 等)。そして、このこと自体が放棄した領土と同じ扱いになつている。
1 竹島は国有財産である。尖閣諸島は昭和四十一年琉球政府の資産目録に入つていたものを引き継いだのだから、これは沖縄県有財産であると思うがどうか。
2 しからば、三島六ヵ村は旧島民並びにその子孫の財産等そのままか、あるいはすべて国有財産か。どのようなものか明示されたい。
3 北方領土隣接市町が三島六ヵ村の役場機能を有し、かつ、それ等市町の一部事務組合によつて、返還後直ちに実施される開発計画等を樹立することが旧島民の返還運動に勇気を与え、かつ、領土権を主張する積極的な姿勢と考えるがどうか。
4 以上のうえに立つて次のことに答えて欲しい。
歯舞諸島(多楽島、志発島、勇留島、秋勇留島、水晶島)の五島は、旧歯舞村で根室市に合併しているので根室市役所で戸籍事務を扱うことができる。現に、歯舞諸島には戸籍数三三戸、在籍者六三人となつている。ところが、昭和四十四年に色丹、国後に転籍を希望した人の届出書が最近本人に返されてきた。「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する。」(戸籍法)とあるが、六ヵ村の市町村長を任命してこなかつたところに問題があると思う。
我が国の領土である限り、三島六ヵ村へ転籍を希望するものがあるときは、これを受け入れるのが国の責任である。それが行われないのはなぜか。
以上、国権の最高機関である国会の度重なる決議、あるいは総理自らの指示にもかかわらず、政府内部に北方領土返還運動に取り組む熱意に欠けていることが原因であると思う。
「北方領土の日」の制定、総理の北方領土の視察は我が国として返還運動に新機軸を画するものと言える。この機会に、過去の誤つた態度の政府部内に責任を明らかならしむることが必要である。
最後に“行政事件訴訟法”についてであるが、行政権の積極的発動たる行政行為に対する救済手段として抗告訴訟(及び行政行為の無効確認訴訟)があるが、行政権が積極的に行政行為をなさない場合は、行政行為をなすべきことが法規により国民に対する関係で義務づけられているとき ― 本質問の内容はこれに該当するように思う ― 利害関係者はその行政行為をなさないこと(不行為)を違法として攻撃する訴訟を理論上考えられることができるか。政府の見解を問う。
右質問する。
政府答弁書
一について
自治省が編集している全国市町村要覧は、執務の参考資料とするため、現実に行政を行つている市町村を集録しているものであり、そこに集録されている市町村数は、三千二百五十五である。
一方、色丹・国後・択捉三島の六村については、現実にソヴィエト連邦によつて不法に占拠されているため、市町村としての行政の実態がないので、全国市町村要覧では凡例部分に名称及び面積を記載することとしている。なお、これら三島の六村を加えた場合は、市町村数は、三千二百六十一となる。
二について
北方四島は、我が国の固有の領土であるので、国土地理院発行の地図では当然我が国の領土であると表示しており、政府の刊行物はすべて同地図に準拠している。
御指摘の全国市町村要覧もこれに準拠しているので、従来から北海道の地図上、北方四島の名称及び位置を表示し、我が国の領土であることを明らかにしてきた。
さらに、昭和五十六年度版からは、根室市と合併した旧歯舞村を除く色丹・国後・択捉三島の六村についても凡例部分にその名称及び面積を掲載するとともに、六村の位置を地図上表示することとした。
三について
我が国の総面積は、国土地理院調査によれば、昭和五十五年十月一日現在の面積は三十七万七千七百八・〇九平方キロメートルであるが、この中には当然色丹・国後・択捉三島の六村の面積も含まれている。学校の教科書、政府の刊行している海外紹介文書等についても、この国土地理院の調査した数値に基づいている。
御指摘の全国市町村要覧においては、北海道の面積は色丹・国後・択捉三島の六村を含めた面積(八万三千五百十六・五七平方キロメートル)としているが、北海道の市町村別の面積・人口等の概要を記載した部分については、一に示した考え方から、六村は記載していないので、当該部分に記載されている市町村の面積を集計した場合には、七万八千六百二十二・四一平方キロメートルである。
四について
北方四島が歴史的にも国際法上も我が国の固有の領土であることは明らかであるが、北方領土問題を国際司法裁判所に提訴して司法的解決を図ることは、従来から政府が述べているとおり困難な状況にあり、かかる状況において北方領土問題が国際司法裁判所で審議されるとの想定で個々の問題につき、あらかじめ政府の見解を述べることは差し控えたい。
なお、北方領土問題に関する我が国の立場につき、世界各国の正しい理解を求めることは、極めて重要であると考えており、政府としても従来から北方領土問題に関する各種広報資料の作成・配布を行う等、国際世論に訴えてきていることは、御承知のとおりである。
五について
色丹・国後・択捉三島については、国土地理院がこれら三島の面積を公表したことに伴い、昭和四十四年度から北海道の面積の一部に含めて道分の普通交付税に算入しているが、これらの三島の六村については、市町村としての行政の実態がないため、その面積に係る市町村分には算入していない。
六について
色丹・国後・択捉三島の旧島民は、離島後他のいずれかの市町村の住民となつているが、これら旧島民に係る諸証明等の問題については、現在次のように対応している。
(一) 北方領土問題対策協会の融資を受ける際必要な元居住者たる証明は、同協会から千島歯舞諸島居住者連盟に依頼して行つている。
(二) 土地・建物の当時の登記簿等は現在釧路地方法務局根室支局に保管されている。登記事務は戦後停止せざるを得ない状態にあるが、登記簿等に記載されている所有名義人について相続が開始し、相続人からその旨の申出があつたときはこれを受理し相続登記に準じた取扱いを認めているほか、登記簿等の閲覧等の請求にも応じている。また、戦前六村に在籍していた者の戸籍等については同支局でその一部を保管しており、当該戸籍等に記載されている者の利便に供するため、それについての証明事務を行つている。
(三) 学歴証明については、戦前の関係資料は現在見当たらないが、今後、北海道とも協議し、遺漏のないよう配慮してまいりたい。
(四) 漁業権については、旧漁業権は消滅している。
(五) 引揚者給付金、引揚者特別交付金については、引揚者がその全生活の基盤を失つたという観点から特別の政策的措置を講ずるとの趣旨により支給されるものであり、北方四島から引き揚げてきた者であつても、樺太、朝鮮、台湾等の外地から引き揚げてきた者と事情が変わるものでないため、これらの支給対象としているものである。
なお、右に述べたほか、今後問題が生じた場合には、北海道とも連絡を取り遺漏のないよう処理してまいりたい。
1について
竹島は御指摘のように国有地である。一方、尖閣諸島は、大部分が民有地であるが、一部国有地も存在する。
2について
色丹・国後・択捉三島の地域には、ソヴィエト連邦の占拠前において、国有財産、公有財産及び旧島民の財産があつた。これらの財産上の権利は引き続き存在しているものと考えられる。
3について
旧島民関係の諸問題の処理状況については、前述のとおりであり、また、北方四島が返還された後のこの地域の振興については、返還時点において諸般の事情を勘案し、具体的な振興策の実施を図ることとしたい。
4について
現行戸籍法においては、戸籍に関する事務は市町村長がこれを管掌することとされている(戸籍法第一条)が、色丹・国後・択捉三島の六村については、現実に行政権を行使し得ない状態にあり、村長も置かれていないので、六村への転籍の届出を受理することはできないのである。
最後に行政事件訴訟法についてであるが、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしない場合には、当該申請者は、不作為の違法確認の訴えを提起することができる(行政事件訴訟法第三条第五項参照)。
右答弁する。
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