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食料・農業・農村基本問題に関する質問
参議院 第142回 第25号お答えすることは困難 ×1承知していない ×2
質問本文
食料・農業・農村基本問題に関する質問主意書
政府は昭和三六年に制定された農業基本法改正に向け、内閣総理大臣の諮問機関である食料・農業・農村基本問題調査会(以下、「調査会」という。)を設置し、本年夏の最終答申に向け、鋭意検討を進めている。
審議会等での検討は、議会の立法権はもとより、内閣の意思を拘束するものではない。問題は審議会等の問題意識が世論の代替機能を果たすものとして事実上扱われ、議会政治の形骸化を招いている点にある。しかも、昨年末に公表された中間とりまとめによると、食料自給体制の構築、食料自給率目標の設定、株式会社による農地取得、中山間地域に対する直接所得補償政策の導入、の四点について両論併記する中途半端な内容となっている。
今農政に求められるものは、単なる一産業としての農業振興ではなく、我が国固有の歴史に基づく国土計画、地域整備の在り方、ひいては地球規模の食料需給動向も視野に置いた総合的政策のビジョンを示すことであり、今日まで等閑視されてきた第一次産業のもたらす環境・文化への効用、農業従事者の地位についての問題提起であり、そしてこれらを解決するための合意形成に向けた道程を示すことであろう。
このような視点に立って以下、質問する。
一 農業は自然を利用しつつ、その再生産を可能とする産業であり、自然環境の維持を図るという課題を実現する上で林業・漁業とも相互に関連して位置づけがなされるべきではないか。山林から川を下って流れ出る各種の無機物が魚を育てる事実もある。今回首相が対象産業として農業のみ取り上げて諮問した理由を示されたい。
また、林業及び漁業に関わる基本法制についても、同様の視点から見直しの意向はないか。さらに農林水産業を包括した基本法を検討する考えはないか、見解を示されたい。
二 食料自給率目標の設定については、平成八年の総理府世論調査によれば「外国産より高くても、食料は生産コストを引き下げながらできるだけ国内で作る方がよい」等の国民の意向が確かめられており、日本型の食生活・食文化の維持の観点から、積極的に対応すべき課題であろう。自給率目標の設定には生産資源の把握、農業従事者の維持、生産基盤の確保、農地の保持、が不可欠であり、さらには品目別自給率設定も求められる。
農水省は、今後、農業従事者の減少は不可避であり、農地維持が困難との資料を調査会に提示し、さらには自給率設定は断念した、との報道もなされている。
しかし、課題の設定が問題である。そもそも、海洋法条約発効により管理型漁業が求められている漁業を含め、第一次産業による供給可能な食料資源自体を把握、算定した上で不足量の確保に臨むべきではないか。調査会には世界食料需給モデル及び食料安全保障上の緊急事態(三ケース)に対応した供給体制のシミュレーションが示されているが、生存に必要なカロリー量の確保を国の責務として求めるものとなっていない。平時一日一人当たり食料必要量を三三〇〇キロカロリーとし、非常時二三〇〇キロカロリーを想定して輸入停止に備えるスイスの自給計画を参考に我が国として非常時における自給計画についてどのように考えているのか具体的に示されたい。
三 農業従事者の確保については、その生活基盤、就労基盤の安定が不可欠である。この点、生活環境においては、依然として人口一〇万人以上の中都市に比べて、町村部は社会資本・衛生・教育・文化・医療の面でいずれも大幅に遅れている。就労基盤については、サラリーマンに比して、公的退職金制度・労災保険制度での事実上の格差が解消されていない。農業従事者の地位向上に向けて、公的退職金制度として機能する小規模企業共済の受付窓口の農協への開放、労災保険制度の農業者の包括的特別加入制度への改定について、以下二点について事実と見解を示されたい。
1 町村部における、普通銀行本支店、信用金庫・信用組合本支店、農業協同組合金融取扱店舗、郵便貯金取扱局の各金融機関支店の直近の数を示した上で、このうち後二者に小規模企業共済の取扱いを認めていない理由と今後の対応。
2 労災保険制度の特別加入者の加入制度別の対象者数と加入者数の制度創設・改定時を踏まえた推移を示すとともに、そのうち農業者の加入率、加入者数を他の特別加入者と比較しどのように評価しているか。
四 農業基本法が掲げた農業従事者の社会的経済的地位の向上という目標の次には文化的地位の確立が望まれる。とりわけ我が国農業は、江戸時代において農地の開墾により三倍に増えた人口を支え、後期には商業生産をも独自に展開し近代工業国家日本の礎を築き上げるなど、経済発展史上輝かしい歴史をもつ。
農業の歴史は切り開かれた大地の個性であり、地域の主張である。こうした自立と起業、連帯と協業の精神は、地域に根付いた農村社会の各種の文化的風習・伝統芸能さらには人為により築き上げられた農村の景観に息づいている。これを維持することは、現在の家族経営を主体とした農村の自立と協業の精神を次代の農業従事者へと継承を図るためには不可欠である。
農業改良普及員は、こうした文化事業支援も視野に入れて農業振興に当たる側面があるが、郷土芸能・農村文化・景観などの把握状況、維持と具体的助成策について示されたい。
また、有形無形の文化財保護にあたる文部行政との接点で、このような農業文化の特殊性・独自性はどのように配慮されているのか、政府の取り組み例を示されたい。
五 優良農地確保のためには、農地法、農業振興地域の整備に関する法律が定められており、また土地基本法、国土利用計画法においては憲法第二九条第三項の公共の福祉に基づく土地処分権についての制限を土地に関する権利の移転等の許可(国土利用計画法第四章)、遊休土地に関する措置(同第六章)等の規定で実定化している。しかも、後者は実際にも機能しており(遊休土地の通知一七件・平成九年度土地白書)、背景には土地の公共性を踏まえて、所有者はその土地を有効活用するべきという七割に達する世論の支持がある(平成八年度土地白書)。
このような例に鑑み、農地についても農業経営基盤強化促進法第二七条による遊休農地の是正制度、農業振興地域の整備に関する法律第一五条の七による特定利用権制度を活用することが考えられる。さらには憲法も正当な補償によっての財産の収用を認めており、とりわけ、土地については国土整備、農地については国民の生存権確保、環境権維持のため、法的な制限は許容されるべきである。このため、食料の安定確保、そのための農地の確保のためには耕作放棄地、荒廃地につき、農地確保を強力に推進することも考えられる。かつて農地保有の合理化を図るため、農地管理事業団法案が二度にわたり内閣より提出された経緯も参考になろう。
1 調査会は、農業基本法の改正を目指すものとされ、これに伴い農地法を始めとする農地法制の改正も必要となろう。現行制度の下で遊休農地の解消、特定利用権制度の活用が進まない詳細な理由を示されたい。
2 土地利用基本計画は、現行五種の地域区分に基づいて策定され、なかでも農用地や森林地の計画管理は、食料の安定供給にとどまらず、環境の維持・保全に不可欠の施策である。世論調査によると六割強の者が生活の便利さより自然とのふれあいを求めており、この要請に応えるためには自然再生産産業としての農業が環境にどのような影響を与えるかの把握が必要となる。
さらに、減少の一途をたどる農地の維持・確保を図るには農地にかかわる権利の調整の在り方についての検討も必要となる。
これらの点について調査会において現在に至るまで、環境庁・国土庁からヒアリングがなされていない理由を示されたい。
六 現行農地法は、耕作者主義を定め、小作人の地位にあった多くの農業者の社会的地位の向上を図るとともに、農地集積・協業の推進等による経済効率向上により経済的地位の向上を図ろうとするものである。ところが、前述の諸課題を前に、株式会社の農地取得の検討が調査会中間とりまとめに盛られることとなった。検討の理由は、農業従事者の減少により、耕作農地の維持が図れず、食料を安定供給するために、効率的な株式会社による農地の取得を認め、農業生産の向上を図るというものであるが、到底農業者の合意は得られないと考える。
農業者の危惧は、現行でも認められている法人経営、大規模経営の導入にあるのではなく、株式の自由譲渡性にある。農業の特殊性、とりわけ、農地の維持には水利や災害、協業などの面で相互扶助の必要があり、専任経営者が現地にいないことに伴う問題や、営利活動を旨とする企業が地域での相互扶助になじむかどうかという疑念である。現行農地法においても、有限会社の農地取得は認められているが、調査会の議論ではこれを起点に検討されているようには思えない。また、現行有限会社の農地保有も昭和三六年までは賃借権に限定されていた経緯もある。さらに、株式会社であっても、現行法上農地は開墾によって切り開くことも自由である。
1 有限会社形態を活用した農業経営の実情を示し、なぜ、株式会社による農地の取得が求められているのか、また、この場合現行農地法の耕作者主義との整合性を取り得るのか見解を示されたい。
また、今後調査会の論議の進行にあたり、現在農業を営む者の関与する生産法人の発展を議論の中心に据えるのか、あるいは経済団体の規制緩和の要望への対処を優先させるのか、その方針を示されたい。
2 経済団体等が株式会社による農地取得の要望を重ね、既に検討が始まっているが、一般に株式会社が農地を開墾し、農家に分譲した例はあるか。あるいは、山林やリゾート地等を農地へ転用し、農業経営を断念した例があるかを示されたい。
3 諸外国において株式会社の農地保有が認められる制度を採用する国の例と、事業に成功している具体的な会社の規模、事業内容、経営状況を示されたい。
4 農水省では、平成七年度農業白書において、中山間地域での雇用促進のために企業誘致の検討を課題として取り上げた。一方で、調査会では株式会社の農地取得へと検討課題が変化している。雇用確保のための企業化の問題から、企業経営基盤確保のための農地取得へと検討対象が移行したものであろうが、政府の問題意識の変遷の経緯と政策的優先度の基準となる考え方を示されたい。
七 国土の整備、環境の維持、とりわけ、農地、森林の維持には、所有者が自然果実から得る収益では賄えきれないコストが掛かることは、戦後、経済的理由から他産業へ移る離農者が後を絶たないことや、農家負債の増加状況から見て明白である。
美しい田園風景や棚田の保全がもたらす効用としては、野村総研の試算によれば四兆一〇〇〇億円と現行農林水産予算を超える評価が与えられており、森林等を含めると更なる評価が加えられる。
加えて平地でも水田から畑地への転換に伴い、土壌の維持に向け環境負荷を考慮した肥料・農薬の調整、つまり、コストはかかっても環境保全型農業を指向する動きも活発化している。
政府は国土保全のために中山間地域における農林業従事者への積極的支援策として、棚田保全の政策を始めている。このような中山間地域は国土面積の約七割、森林の約八割を占めながら人口は約一四%にすぎない。
1 このように自然条件が不利な中山間地域における農林業は、食料の安定供給に加え、国土保全等多面的かつ公益的な機能を発揮している状況に鑑み、直接的な所得補償の政策をとることこそが求められると考えるがどうか。
2 平地にあっても、農業経営の安定を確保するため、自然災害だけでなく、経済変動による収入の増減を平準化するカナダの収入保険制度のような制度創設が必要となると考える。このような、価格政策とは無縁な政策の採用は来るべき次期WTO交渉にあたっても受け入れられる手法と評価されると考えるが、これらの考えについて見解を示されたい。
右質問する。
政府答弁書
一について
食料・農業・農村基本問題調査会(以下「調査会」という。)は、現行の農業基本法(昭和三十六年法律第百二十七号)に替わる新たな基本法の制定を含む農政の改革が必要となっている状況に対応するために設置されたものであり、内閣総理大臣の諮問は、この趣旨を踏まえたものである。
なお、調査会の検討対象である「食料」には水産物等が含まれ、また、「農村」には山村や漁村が含まれており、林業や漁業との関連も念頭に置いて調査会の検討が進められているところである。
林業については、林業基本法(昭和三十九年法律第百六十一号)に基づき森林の有する公益的機能の確保等を考慮して施策を講じているほか、国有林野事業の抜本的改革や森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)の改正を国会で御審議いただいているところであり、漁業については、沿岸漁業等振興法(昭和三十八年法律第百六十五号)に替わる基本法の制定をも念頭に置きつつ、水産基本政策の在り方につき検討を進めているところであり、農業、林業、漁業の相互の関連にも留意しつつ、その性格に応じた施策を展開してまいりたい。
二について
食料自給率の目標を設定するかどうかについては、食料安全保障政策を全体としてどのように構築し、国民が求めている食料についての安心を確保するかという観点から、調査会において、今後更に議論が行われることとなっている。
調査会に提示された「我が国の食料安全保障上問題となる事態に備えた対応策と食料供給シミュレーション」については、水産物を含む食料の供給可能量について、様々な事態を想定し、試算したものであり、調査会においては、こうしたシミュレーションを踏まえつつ、我が国の食料の安定供給の確保の在り方について議論が行われているところである。
調査会において幅広い観点から行われているこのような議論等を踏まえ、食料の安定供給の確保のための施策について更に検討することとしている。
三の1について
町村部における、普通銀行本支店、信用金庫・信用組合本支店、農業協同組合金融取扱店舗及び郵便貯金取扱局の直近の数については別表のとおりである。
現在、小規模企業共済の窓口を、小規模企業者に不便を来すことのないよう全国津々浦々の商工会議所、商工会等の団体約六千か所、更に金融機関約二万八千か所に整備している状況の下、今後とも現行の体制で対応が図れるものと考えている。
三の2について
労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づく労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の特別加入制度は、中小事業主等労働者と同様な状態の下に働き同様な業務災害又は通勤災害を被るおそれのある人々についても、その申請に基づき、一定の条件の下に、特別に労災保険に加入することを認め、保険給付を受けることができることとした制度であり、昭和四十年の制度創設以来、数次にわたる法律改正等を経て適用対象が拡大され、特別加入者の総数は増加している。平成八年度末には、中小事業主等の特別加入者数は約百五万人、一人親方等の特別加入者数は約三十四万人、海外派遣者の特別加入者数は約九万人であり、特別加入者の総数は約百四十七万人に達しているところである。なお、特別加入制度の対象者数の把握は困難である。
農業者に適用される特別加入制度(中小事業主等及び一人親方等)についても数次にわたり適用対象が拡大されており、農業者の特別加入者数は、近年約十五万人前後で横ばいであるが、農業就業人口に対する当該特別加入者数の割合は着実に上昇しているところである。今後とも農業者に対して特別加入制度の周知徹底に努めてまいりたい。
四について
農村の郷土芸能、文化、景観については、地域住民のみならず都市住民の評価と期待も高まっており、農村と都市の交流の貴重な地域資源であることから、これらの資源の適正な維持、保全と有効な活用を図っていくことが重要である。このため、郷土芸能等の調査や農村景観のコンテスト等を通じ、これらの現状把握を行うとともに、その維持、保全についての普及、啓発を行っているほか、伝統芸能等の活用促進を図るためのふるさとのまつり推進事業や美しい景観の形成と環境及び生態系の保全を図るための美しいむらづくり対策事業等を実施しているところである。
また、文化財保護とのかかわりについては、文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)に基づき、農具、農家、農村舞台等を重要有形民俗文化財に、御田植、田植踊、田楽等を重要無形民俗文化財に指定し、その保存及び活用のために所要の財政措置を講じるなど、農村における風俗慣習、民俗芸能等の保護にも努めているところである。
五の1について
農業経営基盤強化促進法(昭和五十五年法律第六十五号)に基づく遊休農地に関する勧告等の措置及び農業振興地域の整備に関する法律(昭和四十四年法律第五十八号)に基づく特定利用権が活用されていないのは、これらの措置は財産権に対する制限であることから、現にその農地を耕作の目的に供していないということだけでなく、その農地を含む周辺の地域における農用地の農業上の効率的かつ総合的な利用を促進するため、その農地の農業上の利用の増進を特に図る必要があると認められる等の要件を満たす必要があり、この要件を満たしていないことによるものと考えられる。
遊休農地は、その農地の耕作条件が悪いこと、高齢化の進行により労働力が不足していること等により生じているものであり、効率的かつ安定的な農業経営への農地の利用集積を図ることや簡易な基盤整備等を通じ遊休農地の解消に努めているところである。
五の2について
食料、農業及び農村に係る政策は、農林水産省の所掌にとどまらず、環境庁、国土庁等関係省庁が多数に上ることから、調査会は総理府に設置されているところであり、関係省庁の協力を得つつ、幅広い観点から検討がなされているところである。なお、調査会の庶務は、農林水産省において国土庁の協力を得て処理することとされている。
六の1について
平成九年一月現在で、農業生産法人である有限会社の数は三千五百二十四であり、その過半は、畜産、米麦作を主として経営している。株式会社による農地の取得を認めるべきであるとの意見は、情報力や技術開発力、マーケティング・ノウハウなどの導入により農業が活性化する等をその理由としている。
なお、株式会社の農地取得の問題については、調査会において、日本農業の担い手の姿、農業・農村の活性化方策等農政全般にかかわる事柄として議論が行われているところである。
六の2について
株式会社が山林等を開墾して農地にし、その農地を農家に分譲したという事例は承知していない。山林等を開墾して農地にした後、農業経営を廃止したという事例は仄聞するが、個別の農業経営の内容にかかわることであり、その詳細は承知していない。
六の3について
フランス及び米国(ネブラスカ州等中西部の九つの州を除く。)では、日本の株式会社に相当する法人の農地保有が認められている。
このような法人は、米国では、約八千経営体(一九九二年)あり、一経営体当たりの平均経営規模は八百七十七ヘクタール(一九八七年)である。
六の4について
中山間地域における就業機会の拡大等中山間地域の活性化方策の在り方及び株式会社の農地取得問題を含む農業の活性化方策の在り方は、いずれも重要な農政の課題として検討していきたいと考えている。
七の1について
中山間地域等に対する直接所得補償については、生産条件の不利を補う等の理由により導入に積極的な意見がある一方で、零細な農業構造の温存につながる等慎重な意見もあることから、調査会において幅広い観点から行われている議論等を踏まえ、更に検討することとしている。
七の2について
農業経営の安定を確保するための施策の在り方については、調査会において幅広い観点から行われている議論等を踏まえ、また、農産物の価格安定制度の在り方に留意しつつ、更に検討することとしている。
別表
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