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死刑制度の運用に関する質問主意書
衆議院 第134回 第4号
質問本文
現在、国際社会は死刑廃止の潮流の中にある。これは、第二次大戦後、国連に集う各国が、さまざまな機会を通じて、死刑廃止に向けての国際的な枠組みを作る努力を重ねてきたことの結果である。
すなわち、国連は一九六二年以降、死刑に関する国連報告を公表し、六六年に採択した国際人権B規約の中で、死刑廃止が望ましいことを強く示唆した。そして八九年、一〇年にわたる審議を経て、いわゆる死刑廃止条約を採択(九一年発効)した。また、八四年の経済社会理事会の決議を受けて八九年、「死刑に直面する者の権利の保護の保障の履行に関する決議」を採択、捜査から刑執行までのすべての段階において十分な弁護を受ける権利の保障、妊婦・扶養の幼児を有する母・精神障害者・高齢者への死刑の禁止、恩赦・再審請求権の保障等の措置を講じることなどを、すべての加盟国に対して勧告した。
そして九三年一一月、国連規約人権委員会は、日本国に対して、「死刑廃止に向けた措置をとること」を勧告している。
こうした国際社会の状況、国連の勧告、またそれに対応した国内での死刑廃止の論議の高まりを踏まえて、死刑廃止諸団体、学者、宗教者、そして死刑廃止をめざす国会議員連盟は、政府に対し、死刑執行を一時停止し、その間に死刑存廃に関する国民的論議をつくすことを、要請してきた。
しかしながら政府は、昨年一二月、今年五月の二度にわたり死刑を執行し、五名の死刑囚の命を奪った。ここ数年の執行の状況を見ても、死刑執行のペースはますます早くなっており、政府が国連規約人権委員会からの勧告を全く無視し、あえてそれに抗する動きを強めているのではないかとの印象を禁じ得ない。そうした姿勢はこの間の死刑執行の実態にも感じられる。この間の死刑執行の実態は、現行法、あるいは国際基準にてらして様々な問題があり、慎重を期するべき執行の判断が、どのように行われたのか疑問である。
そこで、死刑制度の運用の実態と今後の方向性について、以下のとおり質問する。
一 前二回の死刑執行について
1 二回の執行はいずれも、総理府世論調査をマスコミが「死刑容認七四%」と報道(これは調査の内実を正確に伝えていない)した直後、あるいはオウム報道のさなか、など死刑容認の社会風潮が高まっているように判断される時期と重なっている。死刑囚本人の責任ではないこうした事情が、刑執行に微妙に影響を与えかねない時期は、むしろ執行を避けるべきではないのか。なぜこのような時期にあえて執行に踏みきったのか。
2 九四年一二月に執行された死刑囚のうち一人は、養父母と面会・文通をさせるよう求めて民事提訴中だった。憲法はどのような人間であれ、裁判を受ける権利を保障しているが、この権利を死刑執行によって奪ったのは、どのような判断からか。
3 九五年五月に執行された死刑囚のうち一人は、再審準備中であり、そのことは法務省当局、拘置所にも確実に伝えていた。執行命令は、このことを知った上で発せられたのか。
4 二回の執行によって命を奪われた五名のうち三名は、一審のみで本人が控訴せず、あるいは控訴を取り下げて確定した死刑囚だった。これは本人が経済的事情から弁護人を依頼できない国選弁護の場合(ほとんどの死刑囚がこのケースに当たる)、一審判決後控訴申立てと同時に国選の任を解かれるため、二審弁護人が選任される迄数か月間弁護人不在の状態になり、死刑囚が一人で控訴取り下げを判断してしまうという制度的欠陥によるものである。国連「死刑に直面する者の権利の保護の保障の履行に関する決議」は、捜査以降すべての段階において十分な弁護を受ける権利の保障を、加盟各国に勧告しているが、上記三名に対する死刑執行は、この国連決議に反するとの疑いが持たれる。これについて、十分な調査はなされたのか、どのような判断のもとに執行がなされたのか。
二 死刑を執行する法務大臣の権限について
法務総合研究所発行の『執行実務解説』(当局の刑政の指導書に当たる)は、「死刑が法務大臣の命令によって執行されるのは…死刑が人の命を奪う極刑であって、いったんこれを執行するときは、もはや回復することができないから、その執行手続きを特に慎重にする必要があるばかりでなく、死刑が確定しても、その執行を逃れさせるために(法務大臣が中央更生保護審査会の審査を通じて)、特赦、減刑等恩赦をすべきでないかどうかを調査し、その後において執行を決定する必要があるから」であるとしている。
内閣・法務大臣には、特赦、減刑等恩赦を行う独自の権限があり、死刑執行に当たっては法務大臣が独自に調査して(法務省にその判断を任せるのではなく)その必要性の有無を判断すべきであるとしているのである。昨今、形式的手続きどおりに死刑を執行するのが法務大臣の職務であるかのような議論があるが、むしろ法務大臣の職務とは、死刑執行を逃れさせるべきかどうかの最終的判断をすることにあると思料する。
当然、精神障害者、高齢者等の執行についても、法務大臣は独自の調査、諮問によってこれを判断する職責があると考えられる。
1 死刑執行を命ずる法務大臣が、独自の判断で執行を中止する事がありうるか。あるとすればそれはどのような場合か。
2 直近の二度の執行において、法務大臣は、執行命令に先立ち、再審事由の有無、恩赦相当の是非を判断するためにどのような調査を行ったか。
三 死刑制度に関する今後の姿勢について
1 法務省は死刑囚家族のプライバシーを理由に、個々のケースについてはあらゆる情報の公開を拒んでいる。このため違法な執行があったかどうかを判断するために必要な情報までも、隠蔽される結果となっている。
死刑の問題で、公共の利益にかかわる情報を公開することについてどのように考えるか。
2 死刑存廃に関し、国民的論議を高めていくことは、必要と考えるか。必要なら、そのためにどのような方策をとるか。
3 「死刑廃止に向けた措置をとること」との国連勧告に応える姿勢があるか。あるとすれば、どのような具体的な方策をもって応えるのか。
右質問する。
政府答弁書
一の1について
個々具体的な死刑執行に関する事項については、死刑を執行された者の遺族の感情、他の死刑確定者の心情の安定等に配慮し、答弁を差し控えさせていただきたい。一般論として言えば、死刑執行については、あくまで個々の具体的な事案に即して慎重かつ適正に対処しているところである。
一の2及び3について
個々具体的な死刑執行に関する事項については、前記理由により答弁を差し控えさせていただきたい。一般論として言えば、死刑執行のもたらす重大な結果にかんがみ、法務大臣は、執行停止、再審又は非常上告の事由の有無、恩赦を相当とする情状の有無等について慎重に検討し、これらの事由等がないと認めた場合に、初めて死刑執行命令を発することとしている。また、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)上、民事訴訟が係属中であることや再審請求中であることは、死刑の執行停止事由とされていない。
一の4について
個々具体的な死刑執行に関する事項については、前記理由により答弁を差し控えさせていただきたい。一般論として言えば、第一審のみで又は控訴の取下げにより死刑の判決が確定した場合であっても、我が国の裁判の実務においては、死刑の適用は極めて慎重になされている上、執行に当たっても、法務大臣により更に再審事由の有無等について慎重に検討され、これらの事由等のないことが確認されたときに、初めて死刑執行命令が発せられるものであり、極めて慎重かつ厳正に運用されている。
二の1及び2について
法務大臣は、死刑の執行については、省内関係部局をして、執行停止、再審又は非常上告の事由の有無、恩赦を相当とする情状の有無等に関し、関係記録を十分精査させるなどして慎重に検討した上で判断することとしている。
個々具体的な死刑執行に関する事項については、前記理由により答弁を差し控えさせていただきたい。
三の1について
個々具体的な死刑執行に関する事項を公表することについては、従来から、死刑を執行された者の遺族の感情、他の死刑確定者の心情の安定等に配慮し、差し控えてきたところである。現在においても、死刑執行の事実を公表することによって、死刑を執行された者の遺族に、事件後相当期間を経て改めてその名誉や生活の平穏を失わせるという不利益や精神的苦痛を与えるとともに、他の死刑確定者の心情の安定を損なう結果となるという事情に変化は認められないと考える。
また、死刑に限らず、他の自由刑及び財産刑においても、国家の刑罰権の作用は、本来、刑の執行そのものに限られるのであって、それを超えて、国家機関が刑の執行の事実を殊更に公表して、刑の執行を受けた者やその関係者に、刑の執行そのものを超えた不利益や精神的苦痛を与えることは相当でないと考える。
なお、死刑の言渡しがなされた個々の事件の裁判の内容については、裁判公開の原則により明らかにされている上、死刑執行の事実については、毎年の統計において執行数を公表している。
三の2について
死刑制度の存廃は、我が国刑事司法制度の根幹にかかわる重要な問題であり、国民世論の動向にも十分に配慮すべきものであるから、国民の間に多角的観点からの冷静な議論が行われることは望ましいものと考えられるが、この問題に関しては、新聞等の報道、各種の出版物等を通じ、どのような事件につき死刑判決が言い渡されているかはもとより、学者、実務家、各種団体等の様々な議論や諸外国における死刑の廃止、復活の動向等が伝えられ、国民においても、これを受けて理解及び議論を深めているものと認識している。したがって、現時点で政府がこの問題についての議論を高めるため新たに特段の方策を採る必要性があるとは考えていない。
三の3について
死刑制度の存廃は、国民世論に十分配慮しつつ、社会における正義の実現等種々の観点から慎重に検討すべき問題であるところ、国民世論の多数が、極めて悪質、凶悪な犯罪については、死刑もやむを得ないと考えており、多数の者に対する殺人、誘拐殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等にかんがみると、その罪責が著しく重大な凶悪事犯を犯した者に対しては、死刑を科することもやむを得ず、死刑を全面的に廃止することは、適当でないと考えている。
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