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人権問題に関する質問主意書

衆議院 第136回 第3号

提出者
衆議院
提出日
1996年2月13日
内閣転送 1996年2月14日
答弁書受領日
1996年3月5日
提出から21日
答弁の項目数
8
質問 2,102字/答弁 1,806字

質問本文

一九九五年十一月一日提出の「人種差別撤廃条約(第一条)に関する質問主意書」及び同年十一月九日提出の「部落解放基本法制定に関する質問主意書」に対し、政府の答弁になお不明確なところがあると思われるので、再度、次の諸点について質問する。

一 疑問とし、不明確と思われるのは、実体規定の第一条の部分にかかわってのことである。政府は、「人種、皮膚の色、門地又は民族的もしくは種族的出身に基づくあらゆる区別、除外、制約又は優先をいう」のところを「門地」という日本語にかえて、中国語の「世系」という言葉を使っている。

日本国憲法の第十四条には、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とされ、わが国の憲法的感覚における平等実現の文言にある「門地」なる言葉をなぜ中国語の使用によったのか。

二 「門地」という言葉を使えば、同対審答申が「人間の自由と平等に関する人類普遍の原理」として、その解決を求めている部落差別の撤廃について、この条約に基づく国内法の関連に直結することを避けようとしたのではないかと思われる。従来政府は、条約批准のためには国内法の整備を前提としなければならないと答弁していた。今回の条約に関連して、国民運動として強くその制定が求められている「部落解放基本法」を切り離そうとの意図と思われるが、答弁をうかがいたい。

なお、この答弁にかかわっては、「アイヌ新法」についての、さきの質問書に対する答弁も、条約にかかわって、国内法の整備というところを意図的に避け、「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」の結論というところに答弁のポイントをおいていることもあわせて、疑問としているところである。「アイヌ新法」は、この条約の国内法的性格をもつのかどうかも、あわせて答弁されたい。

三 政府の訳語が「世系」となったことについては既に承知しているが、日本語の「門地」を排して、わざわざ中国語の「世系」を使われたことについて、「人種差別撤廃条約」についての日本における関係学者はすべて「門地」なる訳語を使い解説書(文)を公刊されている。

日本政府は「世系」という中国語が「門地」なる日本語の意味にかかわって、相違するところがあれば明らかにしていただきたい。なお、ほとんど同義語であるということになれば、なぜ日本語を使わずに中国語を使われたのかも、明らかにされることを求める。

四 このような条約の訳語については、広く関係者の合意が常識であるが、社会運動団体、とりわけ「門地」という訳語を使用することによって、部落解放のための国内法整備を強く期待していた部落解放運動団体との何らかのコンセンサスがあったのかということをうかがいたい。

五 政府のさきの答弁によると、この「世系」なる訳語をもってしても、究極は部落差別との関連が出てくることを考えたのか、「この条約の趣旨及び目的、審議経緯、各国の関連措置、各国の解釈等を踏まえれば、この『descent』の語は人種、民族の観点からみた系統を表すもの」と答弁をしている。

ここにあげている「目的、審議経緯、各国の関連措置、各国の解釈」についても詳細の説明を願いたい。

六 政府の訳文によれば、「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく」と差別の撤廃…となっており、勿論、英文においても、そのような文章の構造になっている。そうなれば、ここでいう「世系」、日本語で言えば「門地」だが、政府答弁のように「人種、民族の観点からみた系統」ということにならない。どこまでも「人種」「皮膚の色」「民族的出身」「種族的出身」と、ここで言う「世系」は独立した概念であると考えられる。

政府答弁のような解釈は、文理上成立しないが、真正面からの誠意ある回答を求める。

七 さきの衆議院本会議における橋本首相の、社民党・佐藤観樹議員の部落解放基本法にかかわる質問に対する答弁では、既に周知の前村山内閣における山口総務庁長官の談話にもあるように、「法的措置、行財政的措置の基本的あり方」という言葉が欠落していた。

格別な意図があるのか、うかがいたい。なお、十二月一日付けの答弁書によれば、その文言はその時点では使われていた。

従って、この際、その「法的措置、行財政的措置」なる言葉の正確な政策的意味も知りたい。「部落解放基本法」制定運動が急迫している時期でもあり、与党プロジェクトでも、この文言を使っていることを思えば、この際、「玉虫色」ならぬ、正確な政府のこの文言使用の意味をお知らせいただきたい。

八 万一、「部落解放基本法」制定要求国民運動の広範な願いが受け入れられないなら、政府の見識としては、いかなる方策をもってこの重大な社会的問題を解決されようとしているか、その方策も明示されたい。

勿論、地対協の意見具申が三月中には出されることも承知している。だが、それは詳細にわたる方策についてであり、政府自体のこの問題に対する政策的方針がなければならない。よって、その方針の基本的な骨格のところをお尋ねしたい。

右質問する。

衆議院の原文・経過

政府答弁書

一について

この条約第一条1の「世系」という訳語は、日本語であり、我が国の国語辞典にも掲載されているところである。

二について

政府は、一般に条約を締結するに当たっては、誠実にこれを履行するとの立場から、国内法制との整合性を確保することとしている。この条約の締結についても、このような方針の下に鋭意検討を行った結果、我が国が留保を付したこの条約第四条(a)及び(b)を除いては、憲法を始めとする現行国内法制で担保されており、締結に当たり新たな立法措置は不要であるとの結論に至ったものである。

三について

この条約第一条1の「descent」については、人種、民族の観点からみた系統を表すものと解しており、その訳語として、一についての答弁において述べたとおり、日本語としての「世系」を当てたものである。なお、日本国憲法第十四条第一項において使われている「門地」とは、一般的に家柄などをいうものと解される。

四について

条約の訳語については、正文テキストの文言の意味をできるだけ正確に反映するように、また、我が国が既に締結している他の条約や国内法令における用語との整合性等を勘案しつつ慎重に検討した上で、政府の責任において確定しているところである。

五について

この条約の目的については、あらゆる形態の人種差別を撤廃するとともに、人種間の理解の促進を図ることにあると解される。

審議経緯については、一貫して人種、民族に基づく差別の撤廃の観点から審議されたものである。

各国の関連措置については、主要国は、人種差別撤廃委員会に提出する定期的な報告の中で、専ら人種、民族に基づく差別の問題をこの条約の対象として取り上げている。

各国の解釈については、米国、英国、仏等の主要国は、いずれも「descent」を人種、民族の観点からみた系統と解していると承知している。

六について

この条約の適用上、「人種」とは、社会通念上、皮膚の色、髪の形状等身体の生物学的諸特徴を共有するとされている人々の集団を指し、「皮膚の色」は、このような生物学的諸特徴のうち、最も代表的なものを掲げたものと考えられる。

また、この条約の適用上、「民族的出身」及び「種族的出身」とは、いずれも社会通念上、言語、宗教、慣習等文化的諸特徴を共有するとされている人々の集団の出身を指すものと考えられる。

更に、この条約の適用上、「世系」とは、過去の世代における人種又は皮膚の色及び過去の世代におけちゆうる民族的又は種族的出身に着目した概念であり、生物学的・文化的諸特徴に係る範疇を超えないものであると解される。

以上のとおり、「人種」、「皮膚の色」、「世系」及び「民族的出身」又は「種族的出身」は、この条約上、相互に排他的なものではない。

七について

政府としては、同和問題の早期解決に向けた方策の在り方について、地域改善対策協議会(以下「地対協」という。)に設置された総括部会において、審議をしていただいているところである。

同総括部会においては、心理的差別の解消に向けた啓発等のソフト面の推進方策、行政運営の適正化等今後の地域改善対策を適正に推進するための方策、地域改善対策特定事業(物的事業及び非物的事業)の一般対策への円滑な移行方策等が審議事項とされており、その中で、平成七年十二月二十日付けの部会長の談話でも述べられているとおり、法的措置、行財政的措置等の各種施策の基本的な在り方について審議をしていただいているところである。

八について

政府としては、同和問題は憲法に保障された基本的人権にかかわる重要な問題であるとの認識の下に、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和六十二年法律第二十二号)に基づき、各般の事業を積極的に推進することにより、同和問題の早期解決に努力しているところである。

同和問題の早期解決に向けた方策の在り方については、地対協総括部会において、平成五年度に実施した同和地区実態把握等調査の結果も踏まえ、審議をしていただいているところであり、平成七年十二月二十日に「同和問題の早期解決に向けた方策の基本的な方向」を取りまとめていただいたところである。

また、人権と差別問題に関するプロジェクトチームにおいて与党各党間の話合いも進められているので、その議論の動向にも十分留意しながら対処してまいりたい。

衆議院の原文

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