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「北海道旧土人共有財産」に関する質問主意書
衆議院 第156回 第11号
質問本文
一 一九八七年(昭和六二)五月一五日の衆議院「沖縄及び北方問題に関する特別委員会」において、五十嵐広三委員がアイヌ民族の共有地に関して政府を追及している。ことに、釧路管内厚岸町のアイヌ共有地については具体的に例示したうえで、これらの追跡調査を求めている。
これに対して、総務庁長官(山下徳夫)はその所管すら知らず、北海道開発庁政府委員(大串国弘計画監理官)は「北海道旧土人法に関する共有財産と言うならこれは厚生省だ。恐らく北海道庁の方でそういう調査等は厚生省の委任等を受けてやれることになっているのじゃないかと考えている」と述べている。このように、この問題は長い間あいまいに処理されつづけてきたと言わなければならない。
後藤田正晴内閣官房長官は「いずれにしても所管さえどうもはっきりしないといったようなことではこれは申しわけありませんので、これは政府内で検討をいたしたい」と述べた。しかし、以後、政府は何も明らかにしていない。政府の検討結果及びその経過を詳らかにしていただきたい。
二 道庁が共有財産の調査を委任されているとしても、アイヌ文化法附則第三条では、北海道知事が管理する北海道旧土人共有財産(共有地等とその土地等を第三者に賃貸して得た収益金の総称をいう)を一九九七年(平成九)九月五日の公告の日から起算して、一年以内に道知事に対し当該共有財産の返還を請求できると定められていた。
しかし、道知事によって公告された北海道旧土人保護法に基づく共有財産のリストを見ると、厚岸町土人共有財産(現金二万八千三百四十二円)を含め道内のそれは十八件、都合現金百二十九万三千九十八円で、共有地についてはすべて共有者に返還済みとなっていると説明している。そして、請求期限内に請求申請を行った人々のうち、道庁は三十八人(計百十万六千三百四円)を共有者と認定した。
だが、当の共有者三十八人全員が「道庁の共有財産の管理の経緯などが不明確だ」として、その現金の受け取りを拒否する事態となった。そのうち二十四人の道内外のアイヌ有志が一九九九年(平成一一)七月、道知事を相手取り、「共有財産」返還手続の無効確認や処分取り消しを求める行政訴訟を札幌地方裁判所に起こし、現在も継続している。
また、それに先立つ一九九八年(平成一〇)八月に厚岸町土人共有財産の共有者の一人が、釧路地裁に「厚岸町アイヌ民族共有財産引渡処分無効等確認請求」の行政訴訟を起こした。そして当人は、二〇〇〇年(平成一二)一〇月、国を相手に「厚岸町アイヌ民族共有地引渡請求」の訴えを起こしている。
以上のように、「共有財産」についての道庁との交渉、裁判を通じて共有者たちは、共有財産の公告内容の根拠、その共有金の明細を記した収支の内訳を明示するよう要求していたものの、道庁は「ご要請のあった根拠となる共有金の明細につきましては、相当期間が経過しているため記録がありませんので、お示しすることができないことをご理解願います。」(北海道庁環境生活部総務課長・一九九八年(平成一〇)七月一日)と、「共有財産」の管理者としてあるまじき無責任な回答しかできずにいる。
そのうえ、公告では「土地についてはすでに共有者に返還済み」と記されているが、個々の共有地が第三者に売り渡されていった経緯についてもまた、道庁は共有者に説明責任を果たしていない。これでは本当にアイヌ共有地売買が正規の手続のもとに行われたものか疑問が残る。
また、もう少し丁寧に調べていれば、共有地が見つかる可能性もあった。その意味で、道知事管理のこの「共有財産」返還手続における道の調査はあまりに杜撰ではなかったのかと思われる。
例えば、厚岸町のアイヌ共有地の場合、一九二四年(大正一三)二月、二十四筆の土地を北海道旧土人保護法に基づく北海道庁令第二十一号により北海道庁長官が管理した。それから二十八年後の一九五二年(昭和二七)九月に道知事の管理指定廃止の決定が下り、翌五三年四月に北海道釧路国支庁長と共有者代表との間で「厚岸町旧土人共有財産引渡書」が取り交わされている。
右引渡書の本文ではこの二十四筆の共有地を実測の上、引き渡し致すと明記されており、そのうち厚岸小島の二筆のアイヌ地が「波浪のため皆無」と記されている。しかし、一九七二年(昭和四七)春、共有者らが、公図を閲覧したところ、小島のアイヌ共有地は島中央部に位置していて、海没するような場所にはない。当時共有者代表だった亡三田良吉が北海道釧路支庁当局に何度も実測を要請したが、まったく相手にされず、やむなく、釧路行政監察局に苦情申立てを行った。一九七六年(昭和五一)五月、右行政監察局から三田良吉に対し、�@本件引渡書の作成当時は小島に測点がなかったから実測できなかったこと�A現在は測量技術等が発達していることから、行政に対し早期の実施を求めることを勧める−旨の返答があった。結局のところ、引渡書には虚偽が記載されていたのである。
さらに、亡三田良吉の長男一良が、国を相手に二〇〇二年(平成一四)三月一九日、釧路地裁に起こした「厚岸町アイヌ民族共有地引渡請求」の判決では、道庁が長年にわたり共有者に対し「小島一七番地と小島二番地の両共有地は現在では海没している小島北側海浜部にあった」と説明してきた論拠も「決め手に欠ける」との判断を下した。結果、小島のアイヌ共有地の位置は特定されるどころか、ますますその所在が分からなくなってきた。
一九九六年(平成八)一〇月、釧路支庁と共有者の交渉では、副支庁長が「釧路国支庁の公印が引渡書に押されている以上、引渡書の作成について道庁として責任がある」と言明している。小島のアイヌ共有地が現存しているとすれば、第三者が不当に使用していることも考えられる。
アイヌ民族の財産権・人権を護る立場から、厚岸小島のアイヌ共有地実測の早期実施を知事に勧告する意思はないか。
三 また、右引渡書では厚岸町門静地区の三筆の共有地が共有者に返還されたことになっているが、知事の管理指定廃止の決定が下される半年前に、すでにこの三筆は共有権者も知らぬ間に自作農創設特別措置法に基づき農林省に買収されている。しかも、自創法第九条では農地を買収する場合、当該農地の所有者の所在が知れないときには、北海道公報により公告すると定められていたものの、この三筆のうち二筆(門静五番地・門静一七五番地)の土地は公告さえ行われなかった。
政府は同法に反して共有地を奪ったことになるが、見解を求める。
四 道庁のアイヌ文化法に基づく「共有財産」返還手続作業は、無責任きわまりないものだったと考える他ない。改めて知事が道内十八ヶ所の「共有財産」についての実態調査を行う責務があると思うが、政府の見解を問う。
五 また、十八ヶ所の「共有財産」とは別に、樺太アイヌの共有財産については公告が行われていない。なぜ公告の対象外となったのか、その理由を問う。
右質問する。
政府答弁書
一について
アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成九年法律第五十二号。以下「アイヌ新法」という。)附則第二条の規定による廃止前の北海道旧土人保護法(明治三十二年法律第二十七号。以下「旧保護法」という。)第十条第三項の規定により指定された北海道旧土人共有財産(以下「共有財産」という。)については、旧保護法に基づき、北海道知事が管理することとされていたところであり、また、アイヌ新法の施行後はアイヌ新法附則第三条の規定により、北海道知事が管理及び共有者への返還を行うこととされているところである。
これらの法律の規定は厚生労働省(平成十三年一月五日以前は厚生省)の所管であるが、昭和六十二年五月十五日の衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会における御指摘の答弁については、事前に質問内容の通告がなく、厚生省の職員が同委員会に出席していなかったことから、明確な答弁が行われなかったものである。
二について
北海道厚岸郡厚岸町小島内のアイヌの人々の共有に係る土地(以下「厚岸小島アイヌ共有地」という。)については、旧保護法に基づき、大正十三年北海道庁令第二十一号をもって共有財産として指定し、北海道庁長官(昭和二十二年五月三日以降は北海道知事)が管理していたが、昭和二十七年北海道規則第百七十四号をもって北海道知事が当該指定を廃止し、昭和二十八年四月十四日付けで北海道釧路国支庁長が同町内のアイヌの人々に係る土地の共有者の代表者との間で「厚岸町旧土人共有財産引渡書」を作成し、引き渡したものと承知している。このように、厚岸小島アイヌ共有地については、旧保護法に基づく適正な手続により、北海道知事の管理権限が廃止され、共有者の共有権が回復されており、既に北海道知事の管理下にはないことから、北海道知事に御指摘のような実測の実施をするよう勧告することは考えていない。
三について
北海道及び農林水産省において御指摘の三筆の土地が旧自作農創設特別措置法(昭和二十一年法律第四十三号)に基づき買収された当時の北海道公報を調査したところ、当該北海道公報の一部が保存されていなかったことから、一筆(門静二番地一)については、同法第九条第一項の規定による公告がなされていることを確認したが、二筆(門静五番地一及び門静百七十八番地一)については、同項の規定による公告がなされたか否かを確認することはできなかったところである。しかしながら、一筆(門静百七十八番地一)については、旧自作農創設特別措置登記令(昭和二十二年勅令第七十九号)第六条第一項の規定により、同法第九条第一項の規定による公告があったことを証する書面がなければ行うことができない登記が行われており、また、他の一筆(門静五番地一)については、同項の規定による公告があったものについて行われる民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百九十四条の規定による供託が行われていることから、三筆の土地とも、旧自作農創設特別措置法に基づき適法に買収されたものと考えている。
四について
御指摘の十八件の共有財産については、北海道旧土人共有財産土地貸付規程等を廃止する規則(平成九年北海道規則第百十三号)による廃止前の北海道旧土人共有財産管理規程(昭和九年北海道庁令第九十四号)及び同規則附則第二項の規定に基づき、北海道知事が適切に管理し、また、アイヌ新法附則第三条第二項から第四項までの規定に基づき、北海道知事が共有者への返還の手続を進めているものと承知している。このため、北海道知事が当該共有財産について改めて実態調査を行う必要があるとは考えていない。
五について
アイヌ新法附則第三条の規定により共有者に返還される共有財産は、アイヌ新法の施行の際、旧保護法に基づき北海道知事が現に管理していたものに限られている。御指摘の「樺太アイヌの共有財産」とは、明治八年の樺太・千島交換条約の締結以降、樺太島から北海道に移住したアイヌの人々に係る共有財産(以下「本件共有財産」という。)を意味するものと考えられるが、本件共有財産は、アイヌ新法の施行の際、北海道知事が現に管理していなかったことから、同条に基づく返還の対象とはならず、返還の手続の一部である公告も行われなかったものと承知している。
なお、北海道庁作成の「北海道旧土人保護沿革史」によれば、本件共有財産については、明治三十四年ごろから明治三十九年までに、その共有者のほとんどが樺太島に帰島したため、大正十三年六月十四日付けで北海道庁と樺太庁との間で締結された協定等に基づき北海道庁長官が処分に着手し、昭和二年に処理を遂げたとされている。
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