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原子力発電所の建設に関する質問主意書
参議院 第70回 第1号お答えすることは困難 ×1
質問本文
一、原子力発電は、従来の水力・火力発電にくらべ、単にエネルギー源をおきかえるという簡単なものではない。すなわち、きわめて危険な放射性物質――一歩誤まれば、その被害は過去のどの災害よりも大きく、その影響は子々孫々に及ぶ公害である――を利用するという認識が基本となる。従つて、原子力の平和利用が許されるのは、軍事目的に利用しないというだけでなく、放射線の被害を国民に与えない保障が確立される場合に限るといわねばならない。
二、しかし、現実には、本年六月策定した政府の「原子力開発利用長期計画」によつても、原子力発電規模は、企業の高度成長を維持するためのものであつて、人間環境の視点からの開発計画に欠けている。
また、立地条件を無視した大型化、集中化の推進によつて、安全性はもとより、環境汚染、温排水、廃棄物の処理による影響は、国民の安全と環境破壊を一層深刻にすることが予想される。
三、これらの情況のもとで、国民や科学者のなかでは、原子力発電の開発と安全性、その影響に疑問をもち、各地で必然的な反対運動が起きている。しかし、政府はこれらの疑問に答えることなく、対策や具体的なデータをも示さず正当な反対運動を無視、あるいは弾圧して、発電所の建設を強行している。
新潟県においても、柏崎・巻両地区の建設予定地域で住民の反対運動が起きている
また勤労県民は「新潟水俣病」に関して、当時政府が立入検査など厳重な予防措置を企業に対してとつたならば、被害を未然に防ぐことができたであろうという痛切な教訓をもつているだけに、政府の原子力行政に重大な関心をもち、建設反対の態度で臨んでいる。
四、従つて政府は、国民の安全と環境を守るために、すべての国民が納得するまで、原子力発電が安全であり環境を破壊しないという理由、根拠を明確に説明する当然の義務があると考える。
よつて、さしあたり次の三点にわたり質問する。
一、安全性について
(一) わが国の発電炉は、ほとんどアメリカから輸入した軽水型であるが、最近アメリカの報道によれば、いわゆる軽水型炉の緊急冷却装置の欠陥問題およびこれに関連する「暫定基準」について、オークリッジ国立研究所や原子力委員会内部の少なくとも二十名以上の学者、研究者が、なお炉の安全性は確保できがたいと警告している。
わが国では、本年八月新聞報道は「原子力発電が軒並みアウト、まともに動いているのは、原電敦賀と福島一号の二基」と当時の運転情況を報じた。その原電敦賀発電は、冷却材からコバルト60を排出し、燃料棒の破損、「保安基準」に達する放射性ガスの放出などで国民によく知られている。
これらは原子炉において先進的とみられるアメリカにおいても、軽水型炉が試作の域を出ず、その安全性がまだ研究段階であるとともに、わが国の「開発」と安全性の水準を知る目安とみなければなるまい。
しかし、わが国では、ようやく小規模の緊急冷却装置の実験を進める反面、中型炉の充分な安全実績を経ないままに、世界的にも稼動経験のない大型炉の建設を急いでいる。何故急ぐのか。その理由を明らかにせよ。
このような「開発」と安全性に対する政府の態度は一般の良識にてらして、きわめて非科学的である。原子炉は冒頭ふれたように他の機械と異なり、人災を伴うことなく試行錯誤による改良ができがたい性格のものであるから、実物大による自主的な実験によつて実証的データを集め、安全をたしかめるのが最も確実である。その上で、はじめて実用化することによつて、社会の役に立ち、国民の安全にむすびつくと考えるのが科学的であるといわねばならぬ。
政府は、現在稼動中の原子炉を一時運転中止し、建設中のものは建設を中止すべきである。中止するか、続行するかいずれか答えよ。
(二) 発電炉を建設する場合のわが国の立地条件の基準は、アメリカ、イギリスなどにくらべ、万一の事故発生を考慮する人口制限の距離を設けておらず、すべてを炉の安全性にもとめている。
他方、政府、業界の試算によれば、電気出力約十五万キロワットの原子力発電炉内の、いわゆる死の灰が1/50大気に放出された場合には、被爆者七百二十名が死亡、二千九百名が障害を受け、約四百キロメートル四方は農業制限区域となり、損害額は三十七兆円としている。
事故は予測できない原因で起こり、予測できない結果を生ずる。政府は万一事故が起きたときを想定して、個々の発電所の建設を許可するにあたつて、その地域の人的、物的損害をあらかじめ調査試算しているか。
柏崎地区に予定されている発電所から万一放射性ガスが放出する事故が起きたと仮定して、どの程度の被害が生じるのか。計算方法を明示し、その計算結果を示せ。
これは、万一の場合逃げるしかほかに方法のない住民の立場として、是非知りたいところであつて、政府にその説明ができないのであれば、「政府は万一の事故が起こつてもやむを得ない」という態度であると判断するがどうか。
二、温排水について
原子力発電からは、百万キロワット(電気出力)当り、毎秒約七十トンの放射線を含む七度ないし八度Cの温排水が海に放出されるといわれる。この計算にたてば、現在計画中の柏崎原子力発電所は完成後毎秒七百トンの排水量となり、日本最大の水量をもつ新潟県阿賀野川(毎秒四百トン)をはるかに上回る。その上、若狭湾をはじめ日本海一帯に建設される発電所からの排出量を考えてみたとき、膨大な温排水が日本海に放出されることとなる。これは単に建設用地一帯の漁業権を補償すればことたりるものではなく、わが国だけでなく地球的規模の環境破壊につながる重大な問題を含んでいる。とりわけ、このために日本海の海象に変化が起こり、大量の霧の発生、沿岸一帯に異常豪雪雨などが起きると警告する識者もある。不幸にしてこの警告のとおりとなつた場合、日本海地方は、第一次産業はもとより、はかり知れない経済上、社会上、健康上の被害を受けることとなる。
このような未知に対して政府は研究を進めているか。未着手であれば未着手と答え、研究中ならば中間報告をせよ。
柏崎の場合の放出は、どんな影響を環境に与えるか。日本海に面して建設地および予定地のすべてからは、どんな複合した影響が出るか。
三、放射線の遺伝について
政府は、わが国の原子力発電の排出ガスおよび排水に含まれる放射線は許容量以下であるから人体や環境に影響はないとしてきた。しかし実際には、たとえ微量であつても人体に何らかの影響があることは知られており、人体に受ける量が多ければ多いだけ、その影響も大きいとしなければならな、最近、大量に放出されているトリチュームが政府のいう放出許容量限度をはるかに下回る量であつても、染色体異常を起こすことが明らかとなつた。これは政府が根拠としているアメリカの基準や国際放射線防護委員会の勧告が絶対安全な基準でないことを明白にしたものである。また、クリプトン85の大量放出は世界的に問題となつている。それにもまして、広島、長崎の被爆者が現代医学をもつてしてもなお治療の方法が発見できず、遺伝の影響が二世代、三世代に及びつつあるきびしい現実に政府は目をふさいでいるが、被害は厳然たる事実である。
政府は現在でも排出されている放射性ガス、排水が人体その他に影響がないといいきれるか。明確に答えよ。
以上、さしあたり三点にわたる質問を行なうが、わが国の原子力開発、とりわけ原子力発電所の建設が各地で反対されているのは、平和利用にあたつて、自主、民主、公開の三原則と真の国際協力が政府の手によつて破られてきたことが根本的な理由である。そして平和利用の名のもとに、国民の生命健康を犠牲にして「開発」を進め今後も進めようとしている当然の帰結でもある。
政府は率直にこのことを反省し、この質問に対する回答を通じて国民に明らかにするよう強く要求する。
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電話:03-3581-3111(大代表)
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政府答弁書
一、安全性について
(一) 原子力の開発利用にあたつては、その安全性確保の重要性に鑑み、安全性の確認を大前提としているところである。現在わが国の原子力発電の主力をなす軽水型炉は、米国ではすでに十五年間にわたる運転実績が蓄積されており、国際的にも最も広く採用されているものである。
昨年米国において非常用炉心冷却設備(ECCS)の性能が問題とされたが、わが国の原子炉の安全審査においては、このECCSの問題も考慮に入れて当該設備の性能の一部(冷却材喪失事故時の初期の段階における性能)が働かないと仮定し、また、燃料被覆材の最高温度上昇限度を厳しく設定するなど厳しい審査基準を採用しており、現在わが国に設置されている原子炉はこの基準によつても安全性が確認されているものである。
また、百万キロワット級の大型軽水炉についても、原子炉安全専門審査会において慎重審査の結果、すでに安全性が確認されているところである。なお、百万キロワット級の大型軽水炉は米国においては、すでに十三基が設置許可を受けている。
原子炉の安全確保は、炉の設置前の厳正な規制のみならず設置運転後の種々の規制によつてもなされており、今後とも一層万全の措置を講じてまいる所存である。
(二) わが国の原子炉の安全性についての考え方は、平常時はもとより重大な事故を仮想しても、一般公衆には放射線障害または放射線災害を与えぬことを大前提としており、原子炉の立地条件は極めて重要な要素として十分な配慮を払つている。すなわち、原子炉立地審査指針に基づき原子炉事故による災害評価としては最悪の場合には技術上発生し得るかもしれない事故(重大事故)およびそれを上回る仮想上の事故(仮想事故)について一般公衆の放射線による被ばくを評価しており、これらの事故が万一発生した場合にも当該敷地境界に人が居続けたとしても放射線障害または災害を被ることはなく、また、その事故による国民遺伝線量に与える影響は問題ないと判断されている。
柏崎地区に予定されている発電所については、原子炉設置の許可申請が出された段階で慎重に安全審査を行ないたい。
二、温排水について
(一) 温排水問題は原子力発電所特有の問題ではなく、火力発電所その他一般産業活動にかかわる共通の問題であるが、極力その影響を低減させるよう指導している。
(二) 発電所からの温排水が海産生物に及ぼす影響については国においても関係省庁が協力して学識経験者の参加を得ながら鋭意調査研究を進めているところである。
従来の調査研究および火力・原子力の運転実績からみると、その温排水の拡散範囲は放水口を中心とした前面海域の一部に限定されるものと考えられる。
(三) 温排水による霧の発生については温水が低温の空気と接触して生ずるものであるがその霧は淡霧であり、従来火力発電所の放水口付近で発生した霧について調べて見ると風速が弱く、大気湿度が高い気象条件で、かつ、大気と水面温度の差が十数度の場合に淡霧が発生することがあるがその規模は小さく、気圧配置、局地的気象条件等も大きく影響している。日本海側の冬期は季節風が発達するため、一般に霧は発生し難い。風の穏やかな日で夜間など気温が低下した場合には、前面海域の一部で、放水口近傍において淡い霧が発生することがあり得ると思われるが、地域全般に影響を及ぼすことはないと考える。
(四) 更に異常豪雪雨等気象に及ぼす影響については、温排水の熱量は大部分が発電所前面の局部的な海水内に拡散し、大気中への拡散は自然界から受けるエネルギーに比べ、極めて少ないので地域の気象を左右する原因となるようなことはないと考えられる。
(五) 今後さらに必要な調査研究を進めて行きたい。
(六) 東京電力柏崎、刈羽地点において建設が予定されている原子力発電所からの温排水による日本海の海象等に及ぼす影響は上述の観点から少ないものと考えられるが、今後の処理に当つては万全を期する方針である。
三、放射線の遺伝について
(一) わが国の原子力施設から環境へ排出される放射性物質の濃度基準を定めるにあたつては、現在、世界で最も権威のある国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告を基本としている。
このICRPの勧告は、放射線を利用することは、「ある程度の危険が存在することを認識しなければならず、それから受ける利益から見て、その個人および社会にとり容認できると思われるレベルにまで放射線量を制限しなければならない」との基本的認識のもとに職業人や一般公衆に対する線量限度など、各種の線量基準を設定しており、現在までのところ、この基準以下において、人体に対し実際的な影響が認められた事実はない。
なお、わが国における原子力施設からの放射性物質の放出実績は、上記基準を十分下まわる値となつている。
(二) 先般、日本遺伝学会で発表されたフタマタタンポポの種子の染色体異常に関する論文については、植物の種子と人体組織がトリチウムのとりこみ量において異なる等のため、この実験結果から直ちに人体への影響を評価することは困難であるが、現在、原子力発電所から放出されるトリチウムの濃度は、その放出口において、6×●1mci/ml以下であり、実験者が有意な差はないと述べている濃度限界(8.8×●2mci/ml)の一万分の一程度であり、問題はないと考える。
(三) クリプトンに関しては、専門家の検討によれば、「二千年における全世界の原子力施設等から排出されるクリプトンによる日本人の被曝量は、一年間一人当り〇、一四ミリレム程度」と計算されているが、これは、自然放射線の年間約百ミリレムに比べてその〇、二パーセント未満であり、しかもその算定にあたり最も厳しい条件を採用しているので、今後の技術開発等によつては、上記被曝量はより減少するものと考えており、諸外国と協力しつつ、低減策について検討を進めることとしたい。
(四) 広島・長崎の原爆による放射線の被曝量は、瞬間的に数十万ミリレム程度と計算されており、これは、原子力施設から現実に放出される放射能水準はもちろん、自然放射線(年間約百ミリレム)による影響とは、根本的に相違するものであり、比較するのは適当でないと考える。
注 ●1=10のマイナス10乗
●2=10のマイナス6乗
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