行政データの公表格差(公表形式・粒度・時点のばらつき)
行政データが省庁・自治体ごとに形式・粒度・時点・公表有無・利用条件でばらつき、横断利用と正しい解釈を妨げる構造的問題。
定義
同じ「行政が公表するデータ」でありながら、省庁・自治体・部局ごとに ファイル形式・空間粒度・基準時点・公表の有無・識別子・値の意味・利用条件 がばらばらであるために、複数のデータを突き合わせたり、住所ひとつで横断的に引いたりすることが難しくなる構造的な問題。データが「無い」ことと「未公表」であることの区別がつかないまま、利用者が誤解する危険を生む。
kurage-products に列挙された一連のシステムは、いずれもこの格差を吸収するために作られており、同カタログの設計原則の多くはここに由来する。格差は単一の欠落ではなく、層になって重なっている点が重要で、形式を揃えても粒度が揃わず、粒度を揃えても時点が揃わず、時点を揃えても「そもそも公表されていない」項目が残る。
格差の類型
1. 公表形式の格差
- 学童保育(放課後児童クラブ)の待機児童数は国の公表が PDF のみ で、市区町村名で数字が出るのは待機児童50人以上の88市町村に限られる。全国16,330人のうち 31.4% はどこの市か分からない(kgakudo)。
- 一方、保育所(保育園)は Excel で全1,741市区町村分が出ており、定員・申込者・待機児童を住所から引ける。同じ「児童福祉」でも形式と網羅性がまるで違う。
- 体育館・スポーツ施設の個人利用予定表は、施設ごとに ○×のPDF・お知らせ添付PDF・HTMLの文章とばらばらで、機械的に横断検索できない(kurage-facilities)。
- 津波災害警戒区域は国土数値情報に存在せず、都道府県が個別に指定・公表 している(例: 愛知県はマップあいちから取り込む手順を kurage-juyo-saigai-check が同梱)。
- 住民向けの困りごと窓口は道路・ごみ・国道・警察・水道と所管ごとに分かれ、市の公式LINE通報も写真と位置情報だけの受付で不法投棄は対象外、という 入口の分散 がある(kecnavi)。
- 公表がAPIで整っている例もある。補助金はデジタル庁のJグランツ公開APIから日次で取り込めるため、規則による絞り込みと出典表示まで機械的に実装できる(kurage-subsidy-navi)。国会会議録も本文が公開されているが、Xapianが一文を一語として索引するため素のままでは日本語が1件も引けない(theyworkforyou、kurage-giin-statement-log)。公開されていることと、機械的に引けることは別である。
2. 空間粒度の格差
- 洪水浸水想定区域は1次メッシュ単位のポリゴン、地震想定は約50mメッシュ、地番参考図は筆の形、避難所データは点、というように粒度が揃わない。名古屋駅前の1筆が19メッシュにかかる、といった粒度差が判定結果の幅になる(kurage-earthquake-map)。
- 住所から求めた座標が町丁目の代表点でしかない場合、区域の縁から14〜50mずれる実測例があり、「区域外」と言い切れない(kurage-landslide-hazard-map、kurage-flood-hazard-map)。
- 収録規模そのものが桁違いで、洪水は104メッシュ・約2,100万面、津波浸水想定は3,795,197セル、土砂災害は約179万区域、避難所は115,447件、盛土規制区域は104,309区域、都市計画は約41.8万区域、民泊は102,159面と、対象ごとに単位も桁も異なる。
- 内水浸水は自治体ごとのデータで、国土全体を覆う統一データが無い。同梱できるのは名古屋市版のような個別自治体版に限られ、他自治体はShapefileを1件足す運用になる(municipality-data-swap-expansion)。
3. 基準時点の格差
- 土砂災害警戒区域は「データ時点2026-03-06」のように全体で1つの時点を持つが、指定緊急避難場所データは 市町村ごとに更新時期が違う(kurage-refuge-map)。
- 津波浸水想定は整備年度が県ごとに異なる。時点が確認できないデータでは判定しない、という運用が必要になる(kurage-tsunami-map)。
- 施設データは基準時点が動くため、2024年12月末から2026年6月末までのような観測窓を切らないと増減が語れない(facility-data-churn)。
4. 公表有無の格差(未公表・未指定・未収録の混在)
- 訪問介護・ケアマネ事業所の 空き状況は公表がない。訪問系とケアマネには定員もない。障害者グループホームも空き状況・定員が非公表(kkaigo、kghome、kurage-visit-nursing-navi)。
- 就労継続支援も放課後等デイも空き状況は非公表で、「消えた理由は公表されていない」ため「廃止した」と書けない(kshuro、khoudei)。
- 盛土規制法の区域指定は都道府県ごとに進行中で、青森・香川・佐賀・沖縄はまだ公開されていない。災害危険区域も全国21,067区域・588自治体・36都道府県にとどまり、指定のない自治体が大量にある(kurage-morido-map、kurage-disaster-risk-area-map)。
- 津波浸水想定は東京都・福井県・香川県のように沿岸があるのに国のデータに未収録の県がある。
- 陳情の締切日は名古屋市会が公表していない。要介護度の推計方法の係数も公開されていない(kurage-chinjo-navi、knintei)。
- 訪問介護が1か所も無い市区町村は88ある、といった「ゼロ件」自体も、無いのか未収録なのかを確かめないと断定できない。
5. 識別子・値の意味の格差
- 事業所には法人番号のような共通IDが無く、突合は名称と住所に頼る。訪問看護では同名事業所が多く(「ひまわり」49軒・「さくら」48軒)、住所で見分ける必要がある(kurage-visit-nursing-navi)。
- 液状化データには「判定対象外」を示す値が全体の28%あり、これを「液状化しない」と表示すると誤解を生む。危険度なし(PL=0)とは別の表示が要る(kurage-earthquake-map)。
- 災害危険区域の災害危険基準高(例: 名古屋市臨海部防災区域 第1種は1階床高N.P.+4メートル)は1,100区域にしか無く、収録した条例も119種類と自治体ごとに文言が違う。
- 用語そのものが制度ごとに違う。民泊は住宅宿泊事業法・特区民泊・旅館業法の3制度、盛土規制法の区域は大規模盛土造成地マップ(土地の成り立ち)とは別物で、混同すると判断を誤る(kminpaku)。
6. 利用条件(ライセンス)の格差
- 自治体ごとに CC BY だったり、商用利用を認めていなかったり、非公開だったりする。災害危険区域データでは、商用利用不可・非公開の自治体を取り込まない設計をコードに持ち、テストで固定している。地番参考図のように CC BY 4.0 で筆単位まで使えるデータもあれば、都道府県が個別に公開するだけの区域もある。open-data-license-compliance
なぜ問題か
第一に、格差をそのまま扱うと 「未収録」や「未公表」を「該当なし」「危険なし」と表示してしまう。東京都・福井県・香川県は沿岸があるのに津波浸水想定が国のデータに未収録であり、黙って区域外と返せば安全だと誤解させる。盛土規制区域で未公開の県を「区域外」と答えれば「規制の無い土地」と誤解される。災害危険区域で「区域外」とだけ返せば「浸水の危険が無い」と読まれる。
第二に、公表が PDFや人が読む形だけ だと、実務では「◯◯県 宅地造成工事規制区域」と検索して都道府県ごとのPDFやGISを人が探すことになり、住所ひとつで横断的に引く手段が存在しない。重要事項説明の対象でありながら調べる手段が整っていない、という状態が生まれる。
第三に、増えた側だけを見ても分野の動きは分からない。放課後等デイは4年半で1.71倍になったが、同じ期間に3,114か所が公表データから消えている。公表の粒度が「現在の一覧」だけでは、消えた事実が残らない。facility-data-churn
第四に、粒度の粗い代表点で「区域外」と言い切ると、縁から14〜50mの誤差がそのまま誤説明になる。判定の確からしさがデータ側の設計に左右されるため、利用者には見えないところで精度が変わる。
対処の設計原則
kurage-products の各製品に共通する応答は次のとおり。
- 未収録・未指定・区域外・内陸・判定対象外を必ず分けて答える。unknown-vs-outside-distinction
- 推定した数字は出さない。公表されていない市町村は「未公表」と書く。
- 判定結果に必ずデータ時点を添え、時点が確認できないデータでは判定しない。
- 区域外の場合も「危険が無いという意味ではない」と毎回書く。災害危険区域なら「これは建築制限の指定であって浸水の危険が無いという意味ではない」と添える。
- 代表点が区域の近くなら距離を添えて 言い切らない。
- 複数形式(PDF・Excel・HTML・GIS・API)を取り込む前処理を持ち、出典リンクと取得日時を各行に残す。evidence-traceability
- 空欄や「該当なし」で流さず、確認漏れが紙の上に残る 作りにする。
- 判定は決定的コードが行い、AIに推測させない。deterministic-core、ai-judgment-backend
- 格差そのものを データ差し替えで吸収できる形 にし、他自治体へはJSONやShapefileを足すだけで展開する。municipality-data-swap-expansion
- 収録できない自治体・商用利用不可のデータは取り込まず、その判断をコードとテストに固定する。open-data-license-compliance
これらは hazard-map-judgment と重なる問題意識であり、kurage-app-store が販売する各システム(kgakudo、kurage-tsunami-map、kurage-morido-map、kurage-disaster-risk-area-map、kkaigo、kghome、kurage-facilities、kurage-chinjo-navi、knintei、kurage-refuge-map、kurage-landslide-hazard-map、kurage-flood-hazard-map、kurage-earthquake-map、kurage-juyo-saigai-check、kshoken、kseido、kecnavi、kacnavi、kshuisho など)の共通の芯になっている。格差の吸収は個別製品の付加価値であると同時に、kappstore-ecosystem 全体を貫く設計言語でもある。
関連ページ
- kurage-products
- unknown-vs-outside-distinction
- hazard-map-judgment
- facility-data-churn
- evidence-traceability
- deterministic-core
- ai-judgment-backend
- open-data-license-compliance
- municipality-data-swap-expansion
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